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星新一 一〇〇一話をつくった人
最相葉月(著)
【新潮社】
定価2415円(税込)
2007年3月
ISBN-9784104598021
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★★
何よりもまず、これだけのノンフィクション作品をまとめる最相氏のエネルギー、パワーには大いなる尊敬の念を禁じ得ない。本読みならば、星新一作品を読んだことがないという人は、皆無と思われるほど有名だが、果たして、作家自身について書かれたものはあまりない。だから当然、驚きの連続であった。
星氏のファンは、ショートショートがお好みだろうから、この大作は少々荷が勝ちすぎるかもしれないが、ぜひご一読をおすすめする。その後はあらためて星新一作品にふれると、また新たな味わいを感じられるに違いない。
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川畑 詩子
評価:★★★★★
「そう言えば何冊か読んだなあ星新一」。少しの懐かしさと、なんとなく「過去の人」という表面的な先入観を持って読み始めた。製薬会社の御曹司だったことも知らなかった。
星新一のショートショートは国籍や時代が特定できない上に、内面的にもどこか無機質な登場人物が特徴的でそこが格好良かった。最後のオチも刺激的で、早く次をと焦るように文庫本の頁をめくったことを思いだす。
ご本人も苦しみや怒りといった感情をあまり人には見せていなかったらしい。人の集まりでは機知に富んだ発言で場を盛り上げる存在だったらしく、対外的にはハンサムで洒脱な人という印象を残していたようだ。インタビューや書いたものの行間、あるいは親しかった人の思い出話から本音を推察するしかない。日本のSF黎明期の輝きや熱気を伝えながらも、その後の趨勢や長老格になった星新一の孤独にも目を配る。そんな淡々としたトーンの評伝だが、膨大な資料に向き合い星新一に近づかんとする著者の気迫が感じられる。自分の感情を表すのが苦手だった星新一、という短い記述からも、背負ったものの重さや、創作の苦しみ、文壇で生き抜くことの厳しさが伝わる一冊だった。
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神田 宏
評価:★★★★
星新一の「ショートショート」を読まなくなったのは、いつの事だろう。おそらく、それは中学生の頃だったと思う。今、私の書庫には新古書店で100円で買った『未来イソップ』があるのみ。おそらく新一が懸念したように「供給過剰」だったのかも知れない。1001話を達成した新一が、せっせと増刷のたびに古さを感じさせないように改稿の手を加えたにもかかわらず、今、読み返すとやはり如何ともしがたい「古さ」を感じる。しかし、本書には、星製薬の御曹司からSFの先駆者として、黎明期のミステリが乱歩や雨村に支えられたように、SFがその誕生の胎動を始めた時に新一の担った業績が著者の精緻な筆で描かれている。そして、偉業達成にも拘らず、筒井康隆らの陰に忘れられてゆく新一。雨村が晩年、郷里で釣り三昧に興じたような、心のゆとりはそこにはなかった。ただ、SFの第一人者としての自負が彼を支えたのだ。SFの殉教者、黎明期を支えた星新一の姿を描いた本作は日本SF誕生史とも呼べる労作だ。読後、新たなリスペクトで包まれた輝けるSFの恒星、星新一がそこにいた。新古書店に並ぶ姿は読み継がれている証左、「古さ」はいぶし銀のビンテージなのだ。
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福井 雅子
評価:★★★★★
膨大な数のショートショートを書き、幅広い年齢層に絶大な人気を誇る作家・星新一の知られざる生涯を、関係者への丹念な取材と遺品の資料を基に描いたノンフィクション。
著者と同じように私も、小中学校時代に星新一を一通り読み、その後あまり読まなくなってしまった「子供の読者」の一人だった。私にとっての星新一といえば、あの飄々とした「エヌ氏」のイメージそのままに、次から次へとショートショートを生み出す「物語の国に住むおじさん」であり、夢の世界の案内人のような存在だったように思う。製薬会社の御曹司として数奇な運命と苦労を背負い、作家になってからは正当に評価されないもどかしさに悩み続けた生身の星新一を、この作品で初めて知った。星氏の作品のファンタジックな世界は「物語の国に住むおじさん」が計算しつくして演出してくれた夢の世界だったのだ。星新一をきっかけに読書の楽しみを知った人がどれだけ多いかを思うと、星氏の功績の大きさを改めて考えずにはいられない。著者の丹念な取材と誠実な姿勢、淡々とした文章に好感が持てる、極上のノンフィクション作品である。
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小室 まどか
評価:★★★★★
「ショートショートの神様」星新一の生涯を、遺品の整理過程で見つかった膨大な関連資料から、誠実かつ丁寧に解き明かしていくノンフィクション。
星新一には、誰もが一度は夢中になったのではないだろうか。かくいう私も、中学生の頃、電車通学時に、一話分が一駅相当の文庫本を次から次へと読み漁り、乗り越したことが何度もあった。詳しい内容を問われれば答えられないのだが、確実に何かは残っている――あの感覚を、最相氏も持っていた。おそらく愛読者はみなそうなのだろう。
文庫本の解説で、恐ろしい量の元原稿から、推敲に推敲を重ねてあの一話一話が創り上げられることは知っていた。しかし、あの感覚の裏に隠された意味、星の作品が世代を超えて愛され、なお未来を感じさせる魅力を持った秘密に、これほど肉迫できたのは筆者の功績だろう。もう一度、時間をかけて、星新一の作品を読み直してみたいと思った。
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磯部 智子
評価:★★★★
実は、星新一作品をあまり(ほとんど)読んでいない。その数少ないものすら記憶が曖昧で、ショートショートの神様という冠だけが鮮明に残っている。そのため私にとって、この評伝を読むことに意味を見出せないまま読み始めたが、予想外に様々なことを考えさせられる貴重な読書体験になった。先ずはその生い立ち、のちに上場製薬会社を立ち上げることになる父と母の代から掘り起こし、祖父が人類学者で解剖学者、祖母が森鴎外の妹であることなどが語られ、星新一が御曹司だったことを知る。それなら何故作家になったのか、その謎が著者の徹底的な取材による説得力で、ミステリのように解き明かされていく。財界人、純文学そして日本SF黎明期のそうそうたる作家たちとの交友と軋轢、それは単なる事実の羅列に留まらず、星の足元や心情を照らし出していく。外では人気作家であると同時に、文壇における低い評価に鬱積した思いを抱え、内では晩年まで過去の作品に手を入れ続けるなど創作に対する執念を燃やす。本を閉じたあとも、「人を信用しない人」星新一の波乱の人生を思いながら、「創造」=小説と時の流れについてなど、多くの考えが駆け巡った。
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林 あゆ美
評価:★★★★
帯には「憧れて小説家になったのではない。それ以外、道は残されてなかった」とあるが、少しずるい引用だと最初は思った。製薬会社の跡取り息子という、一見、めぐまれた立場をしてこんな風に言うなんてと思えたから。しかし、最後まで読むと、このセリフに納得した。
ショートショートというジャンルを確立した作家、星新一がいかにしてものを書くようになったか、世間に認められ、ベストセラー作家になっていく様は読みごたえたっぷりだ。そして売れてくると、締切に追われるようになり、睡眠薬とお酒を大量に摂取しながら作品を生み出すようになっていく。
書くことを選ばざるを得ない人生を、丹念な取材で周辺をきっちり書き込んでいく手法は、ときに、寄り道のような話だけでも長い話になるほどだが、それだからこそ、説得力ある評伝になっている。SFの歴史であり、ショートショートという新しいジャンルの誕生話でもあり、1001話までの道のりがそこにある。
本をとじた時、読者は作家の命を食べているのかもしれないと思えてきた。
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