評価:★★★★☆
まずタイトルからして、心惹かれるものがあった。
「空を見上げる古い歌を口ずさむ」まるで詩の一部のようだ。
なんだか懐かしくて、優しくて、そうしてほろっとくる。
はたして、読みすすめていてもその感触はそのままだった。
製紙工場があるパルプ町、この町に住むある少年のひと夏のできごとが中心になって話は進む。
高熱を出して寝込んでからその後、彼にはのっぺらぼうが見えるようになってしまうのだ。
少年は社宅住まいで、パルプ町のおおかたの住人がそうだった。
共に働き、共に暮らし、共に喜び、共に悲しみ、ここでの生活は大人も子どももだいたいが顔見知りで、まるで大きな家族のようだ。
子供たちを見守る大人の目がわけへだてなく包み込むように優しく、懐の大きさをしみじみ感じられるような環境の中、少年は兄弟や同じ社宅の友達を巻き込んで、小さなそしてたまには大きな冒険を繰り返す。
不可解な事件が続く中、身近な大人たちが子どもに伝える言葉がなんともやさしい。
「思う事や願う事は力になるんぞ」
少年たちがその時には分らなくとも、じわりじわりと染みてくる。
そんな言葉がいくつもいくつも見つかった。
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