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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年8月の課題図書 文庫本班

文政十一年のスパイ合戦
文政十一年のスパイ合戦
秦新二 (著)
【双葉文庫 (日本推理作家協会賞受賞作全集)】
税込730円
2007年6月
ISBN-9784575658729
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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 学生時代に習った歴史が通用しなくなっている。教科書に載っていた歴史上の人物は別人だったと言うし、仁徳天皇陵も別名になってしまった。そんな折に本書が届いた。
 鎖国中の日本で、唯一開かれていた長崎出島にオランダから派遣された医師シーボルト。博識で腕の立つ彼に人々の心服は寄せられたが、派遣目的はスパイ。あの手この手の貢物、達人技の根回し術でで自分のブレーンとなる日本人を増やし、江戸城の内部図、港の様子、日本地図…そんなものまで!と見紛うような代物をゲットしてく。敵ながらあっぱれだ。
 けれど、百戦錬磨のスパイ術の露呈で、日本推理作家協会賞を受賞できる訳がない。物語のオチは、著者の幾重にもわたるオランダへの渡航や膨大な資料の解析から、一休さんが実は酒好きの髭男だった以上の衝撃を受けて終わる。シーボルトって本当は…徳川家斉って本当は…。もうこれ以上は言えません。
 過去は変えられないと言うが、歴史はこれからも変わり続けるのだろう。俄然、これからを生きてくことが面白くなってきた。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★☆
 学生時代を通り越して、もう誰かに何かを強制的に教わって勉強をするという環境になくなってから本を読んで、こんなにこれは面白いものだったのか、と思うことは多い。特に歴史においてはそれがものすごく触れ幅が大きくて、私は一体いままで何を勉強してきたのか、というほど、知っているはずの歴史の事件の中には知らないことばかりだ。
 この作品だってそう。シーボルトがスパイだったことは知ってたけれど、この作品の中に書かれている事実など、私は誰にも教わらなかったぞ!? 歴史の先生がもっと本を読んでいてくれれば…。なーんてまぁそんなことを言っても後の祭りだし、こうやって知らなかったことを本で読めることにまた新たな幸せをかんじるのだから別にいのだけれど。
 さて肝心の『文政十一年のスパイ合戦』ですが、鎖国時代の文政十一年、言わずと知れたあのシーボルトがオランダに送ろうとしていた荷物の中からあるものが発見される。これは国外持ち出し禁止のもの。当然シーボルトは追放されました。ここまではたぶん私は教わった(でもあんまり覚えていなかったけれど…)。でもここから先が面白かったのであった。なんというか、こ、こんな裏側が…!! というかんじです。読めば読むほど面白い、大傑作と言っていい作品だと思います。
 私がこれを中学時代に読んでいたら、もしかしたら歴史の道に進めていたかも…と残念にも思いました。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 江戸時代、まだ鎖国をしていた文政十一年に、国外持ち出し禁止の日本地図が、長崎からオランダへ帰国するシーボルトの荷物の中で発見された「シーボルト事件」の真相を解明しようとする歴史的ミステリー。海外に残された膨大な資料とオランダにあるライデン国立民俗学博物館に収蔵されている「シーボルト」のコレクションを丁寧に整理し、検証をしたのが、著者の泰新二さん。
 シーボルトに関しては、呉秀三さんがすでに研究していたこともあり、「もうすべて調査しつくしている」と研究者の誰もが思い込んでいた。この思い込みにメスを入れ、すべての資料に対しても疑問を持って現地まで確かめに行った経緯を読むのは非常にスリリング!シーボルトの荷物の中には、没収されたはずの二枚目の日本地図が発見されたり、樺太島の計測地図が出てきたり、私の頭は混乱するばかり。
 当時の徳川幕府と外国人医師の微妙な関係を浮かび上がらせ、政治の舞台裏を読めたことや「薩摩藩の中国との密貿易」は初めて知り、知的好奇心を刺激する一冊でした。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★★
 その男の名は、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト。文政六年オランダ政府の依頼を受け医師そして自然科学調査官として東洋の島国日本へやってきたドイツ人。しかしてその正体は?
 著者は、シーボルトが持ち帰ったまま手つかずであった膨大なコレクションを整理検証し、さらに文献をも調べ、当時の彼の本来の姿をしだいに浮き彫りにしてゆく。
 学術調査を名目にご禁制の日本地図をも持ち帰ろうとして国外退去となったシーボルト。
彼の真の目的ははたして何だったのか、はたまた彼の暗躍を許した日本側にもいったいどのような理由があったのか。
 冷静な第三者の目で当時の日本の文化、風景、あらゆるものを描きとめたシーボルトの功績は大きく、中でも本文中に時折引用されている著書『日本』の当時の描写は興味深いものがある。
 そんなシークレットエージェントマン・シーボルトの実体に迫る、血湧き肉踊りまくりの傑作ミステリー。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 シーボルト博士と言えば、厳しい鎖国体制の中で、善意を発揮し、日本人に対して当時の最先端の科学技術を教えたものの、頭の固い役人のせいで酷い目に遭わされた「時代の犠牲者」、みたいな印象が強い訳ですが……いやあ、こいつが大したタマで。読んでるうちに、優秀にして有能なるスパイの姿が、次第に明らかになっていきます。
 てな感じで、単純に「歴史上の人物の意外な一面」で終わるなら、割とよくある歴史ものに過ぎないのですが、この本は「スパイ合戦」。それだけでは終わらない。
 シーボルト博士に手玉に取られた風に見える、当時の江戸幕府の役人たちの方が、一枚も二枚も上手だった、ということが、綿密な歴史考証で明らかにされていきます。
 ノンフィクションとは思えない、いや、ノンフィクションだからこその、逆転また逆転。ラストに至っては、シーボルト博士なんざ、どうでもええんちゃうん? くらいのところに到達し、とても素敵です。

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  横山 直子
 
評価:★★★★☆
「シーボルトに惹かれてここまでやってこられたことに、何か運命的なものを感じざるを得ない。」
著者の秦新二さんはシーボルト一筋の人生を送られて、これからもそうであろうと思った。

シーボルトが江戸時代に来日し六年間滞在した間に集めたコレクション。あまりに膨大で未整理であったために、全容をつかむのが難しかった。
それを秦さんが丹念に調べ続けている。
彼は学生時代にオランダ語を学び、シーボルト・コレクションに興味を持った。
そしてオランダにコレクションの大部分が眠っていることを知るやいなや、オランダへ飛ぶ。
これがすべての始まりで、そのコレクションを調べていくうちに、さまざまな新事実を発見!
その一部始終をまとめあげたのがこの一冊だ。

シーボルトがスパイだった?
あの二人が実は出会っていた!
シーボルトの知られざる事実が資料から浮かび上がってくる瞬間は、読みながら私もわくわくした。
そして、日本でのシーボルトの足跡を辿る、「江戸参府紀行」の中で、休息のため鞆の湊(現福山市)に入港とあるくだりは私もいっそう親しみを覚えた。
いまだ江戸時代の町並みを残す鞆の浦、シーボルトの目にはどのように映ったのだろうなぁと。

まさにシーボルトへの情熱がほとばしる一冊!

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