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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫班】2007年8月のランキング 文庫本班

藤田 佐緒里

藤田 佐緒里の<<書評>>

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火天の城 卵の緒 スクールアタック・シンドローム 火天の城 侠風むすめ 文政十一年のスパイ合戦 わたしの旅に何をする。 漱石の夏やすみ 復讐はお好き? 暗号解読

卵の緒
卵の緒
瀬尾まいこ (著)
【新潮文庫】
税込420円
2007年7月
ISBN-9784101297729

 
評価:★★★★★
 文句なしの星5つ!!
「僕は捨て子だ」という一節から始まるこの小説。大好きな瀬尾まいこさんのなんとデビュー作です。
 捨て子だと思っているのだけれど、それでも捨て子でないという証拠をまずはへその緒に求める主人公の育生。とにかく僕が母さんから生まれてきた証拠を見せてくれ! とばかりに、へその緒を見るのを帰宅早々心待ちにする。そして母さんが帰ってきて見せてくれたのは、なんと卵の殻。え! 人間は卵からは生まれないんだって学校で教わったのに!
 もう、なんてかわいいのでしょうか。わたしはこの小説を読みながら何度頬をほころばせたかわかりません。育生はかわいいし、母さんもかわいいし、朝ちゃんも池内君もみんなかわいい。ここに描かれているものには何の汚れも濁りもなく、人が人として生きている最低限の優しさを全て凝縮したような暖かい世界が描かれています。
 これがデビュー作だというのだから本当に驚きなのだけれど、瀬尾まいこさんが持っている感覚を存分に楽しめたような気になって、とても素敵な一冊だと思いました。
 忙しすぎて、心の中に何かを味わえる余裕のなくなってしまっている人には是非読んでいただきたい小説です。子どもというのがこんなにも純粋で、育てる大人もこんなにも純粋であっていいのだということを思い出してほしいです。

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スクールアタック・シンドローム
スクールアタック・シンドローム
舞城王太郎 (著)
【新潮文庫】
税込420円
2007年7月
ISBN-9784101186337


 
評価:★★★★★
 わけわかんねえ、でもなんか、心の芯に突き刺さってくるんだよなぁ、という感じがとっても気に入っている舞城王太郎さんの文庫最新刊。
「スクールアタック・シンドローム」「我が家のトトロ」「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」からなる短編集。全部大好きだけれど、私は表題作が一番好きだな。
 というわけで表題作について触れると、とにかく自宅ソファが気に入ってしまってそこから動けない主人公の話なのである。そこになぜか知らない人が乗り込んできて、なんだかわからないうちにそいつの耳を食いちぎって、そして飲み込んでしまう。もうこれだけでも私は爆笑してしまってでもちょっと物哀しくて泣けてしまった。そして耳をくいちぎられたやつはとっとと出て行って、川原まで行ったところで、そのへんにいた人間に対して暴力をふるう。暴力は伝染するのだ。
 そんな主人公が15のときにその子どもとして生まれてきた崇史。こいつはこいつで、学校を襲撃する計画をノートにびっしり書いている。これも暴力の伝染のうちのひとつ。
 破天荒な主人公とそのまわりの人々、そのありえない世界の中で、私たちが抱えているつらさとか切なさとかよくわからない気分みたいなものがめいっぱい書き込まれている作品。ほんとうにもう、私はこの作品を読めただけで、今後まともに生きていけなくてもいいか、ととても励まされました。絶対に読んでおくべき舞城作品です。

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ヘビイチゴ ・サナトリウム
ヘビイチゴ ・サナトリウム
ほしおさなえ (著)
【創元推理文庫】
税込861円
2007年6月
ISBN-9784488471019

 
評価:★★★★☆
 屋上から、高校生が飛び降りる。私が高校生だったとき、そういえば飛び降り自殺のニュースって結構見た。私の学校は屋上がなかったから怖くなかったけれど、たぶん屋上のある高校に通っていたら、嫌でもそのことを考えてしまっていたと思う。そのくらい、屋上から飛び降りるというのは珍しいことじゃなくて、ともすれば自分がその当人だったかも、と思うような近しい存在だったと、今になると思う。
 本書は、だからと言って、いじめとか自殺とかの話ではない。学校の屋上から飛び降りてしまった生徒、そしてその後同じ屋上の同じ場所から飛び降りた国語教師をめぐっての推理小説である。
 謎を解いていくのは、中学三年生の二人、海生と双葉。このふたりがまた推理とは関係ないけれどもとても瑞々しくてかわいらしい。私もこの舞台となった学校と同じく中高一貫校に通っていたから、どうしても自分の学校が想像上では舞台になってしまって、自分の記憶とシンクロする部分が多かった。
 大人が書いたとは思えないような瑞々しさで、中学高校世代の女の子たちを描き、そして本質のミステリ要素にも大満足の出来を誇っている、ミステリとだけ呼ぶのはもったいないような新しい青春ミステリ小説です。
 あの頃は、こういうことをよく感じていたな、なーんて、とても懐かしい気持ちにさせられる、かわいらしい主人公たちの言葉に注目して読んでいただきたい一冊です。

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侠風むすめ
侠風むすめ
河治和香 (著)
【小学館文庫 】
税込560円
2007年5月
ISBN-9784094081671


 
評価:★★★★★
 面白かった!!
 帯に「江戸っ子浮世絵師国芳VS遠山の金さん!?」と書いてあったので、なんだなんだ、と読み始めてみてまぁ驚きました。出てくるじゃないの、ホントに、金さんが! ま、それは読んでみて楽しんでくださいね。
 さて、侠風むすめこと、女絵師の登鯉が主人公。このむすめ、刺青が大好きなんである。この題材の良さというのが、わたしは非常に気に入って、なんとも面白く切なく読みました。
 全体的にすごく読ませるし、時代小説としてもとっても面白いのだけれど、中でも私が一番いいなぁと思って読んだのは、この主人公登鯉の女の生き方のようなところ。女としてだんだん成長していく登鯉の切なさみたいなところがとってもよく描かれていて、読んでいるこちらも、笑いながらもなんだか切なくなってしまったところがあって、後になって余韻のように残りました。
 5つの章に分かれてちょっとしたミステリー要素を含んだ歴史小説で、歴史モノなのだけれど非常にとっつきやすく、また存分に楽しませてくれるとてもいい作品でした。

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文政十一年のスパイ合戦
文政十一年のスパイ合戦
秦新二 (著)
【双葉文庫 (日本推理作家協会賞受賞作全集)】
税込730円
2007年6月
ISBN-9784575658729

 
評価:★★★★☆
 学生時代を通り越して、もう誰かに何かを強制的に教わって勉強をするという環境になくなってから本を読んで、こんなにこれは面白いものだったのか、と思うことは多い。特に歴史においてはそれがものすごく触れ幅が大きくて、私は一体いままで何を勉強してきたのか、というほど、知っているはずの歴史の事件の中には知らないことばかりだ。
 この作品だってそう。シーボルトがスパイだったことは知ってたけれど、この作品の中に書かれている事実など、私は誰にも教わらなかったぞ!? 歴史の先生がもっと本を読んでいてくれれば…。なーんてまぁそんなことを言っても後の祭りだし、こうやって知らなかったことを本で読めることにまた新たな幸せをかんじるのだから別にいのだけれど。
 さて肝心の『文政十一年のスパイ合戦』ですが、鎖国時代の文政十一年、言わずと知れたあのシーボルトがオランダに送ろうとしていた荷物の中からあるものが発見される。これは国外持ち出し禁止のもの。当然シーボルトは追放されました。ここまではたぶん私は教わった(でもあんまり覚えていなかったけれど…)。でもここから先が面白かったのであった。なんというか、こ、こんな裏側が…!! というかんじです。読めば読むほど面白い、大傑作と言っていい作品だと思います。
 私がこれを中学時代に読んでいたら、もしかしたら歴史の道に進めていたかも…と残念にも思いました。

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わたしの旅に何をする。
わたしの旅に何をする。
宮田珠己 (著)
【幻冬舎文庫】
税込560円
2007年6月
ISBN-9784344409712

 
評価:★★★★★
 大変失礼ながら『ふしぎ盆栽ホンノンボ』で初めて宮田さんの本を読みました。これが面白くて、また違うものも読もう読もうと思っていたら、新刊採点で『わたしの旅に何をする。』が。これまた面白そうな一冊です。とても楽しみに読みました。
 忙しい生活を抜けて旅に出て、そしたらその旅先でひまだ。で、長い休みをとって結局何がしたかったんだっけ? と思ってよくよく考えたら、そのひまな旅を存分にしたかったのだった、と気づく。これって、私も旅先でよく思うこと。ゆっくりと時間をとって旅に出ているのに、なぜか最初から「また来ようね、次も企画するからさ」なんて言ってしまう。ちょっと残念です。
 そしたら、そこはさすがの宮田さんなのですが、今度は10年近く勤めた会社を辞める。動機は、旅をしたいから。こうやって書くとすごくかっこいいんだけれど、本文はそれだけじゃない。会社を辞めたあとのくだりがまたおかしい。
 旅行の中のちょっとしたこと(たとえば飛行機の中で、美人なスッチーはたいてい隣の通路にいてこっちは……とか。笑)もめちゃめちゃ面白くて、腹を抱えて笑えちゃいます。
 そしてかねてから、何かを面白く伝えるにはどうしたらいいのだろうか、と考え続けている(しかしちっとも身につかない)私にとってはまさに教科書のようにも読めました。日常で触れたことをここまで面白く書けてしまう宮田さん、神様のように慕いたい気持ちです。
 こんな旅エッセイは読んだことがない、奇想天外な旅行記を綴った爆笑間違いなしの一冊です。何度読んでも笑えます。

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漱石の夏やすみ
漱石の夏やすみ
高島俊男 (著)
【ちくま文庫JA】
税込819円
2007年6月
ISBN-9784480423436

 
評価:★★★★☆
 まず、何がいいかって、この高島俊男氏の言葉の美しさ。「はじめに」を読んだだけでも、なんだかポッと頬が赤くなってしまいそうなほど言葉が綺麗。これは期待しちゃいます! ってなわけで、漱石が書いた漢文を高島氏が訳したという、二倍楽しみな作品です。
 『漱石の夏休み』とは、漱石が第一高等中学校時代の夏休みに出かけた房総の旅行記の現代語訳です。漱石が書いたのは「木屑録」という漢文。この漢文は静養中だった正岡子規に宛てて書かれたものなのだそうです。木屑、というのは、無用のものだがとっておけばなにかの役に立つかもしれない、という意味なのだそう。子規はこれに批評をつけて漱石に返したのだとか。そういうものを今になって私たちが読むことが出来るというのは、なんだか奇跡的なことのような気がします。百何十年後かに、私が誰かに宛てて書いた旅行記などがこんなふうに読まれることなどきっとないでしょうが…。
 訳の後には、「漢文について」や、「日本人と文章」、「木屑録を読む」など、興味深い章が続きます。面白くわかりやすいことはもちろんなのですが、ここでもやっぱり美しい言葉で説明がなされていて、あぁ、日本人たるものこのくらい日本語を美しく語らねば、と啓発された気分です。
 ひとつ自分の肥やしになって、日本人である私の力になってくれた一冊でした。

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復讐はお好き?
復讐はお好き?
カール・ハイアセン (著)
【文春文庫】
税込930円
2007年6月
ISBN-9784167705497


 
評価:★★★★☆
 著者のカール・ハイアセンという方を私は知らなかったのだが、帯によると、石田衣良氏が愛する作家なのだとか。それは知らないで済ませるわけにはまったくまいりません! ていうか読みたい!! というわけで、早速ぶあついこの小説に挑みました。そして、その痛快さ、ユーモラスな会話、シンプルな展開の中に盛り込まれているものの多さ、奥深さに、完全に酔いしれることになりました。
 アメリカでは初版50万部というこの小説、確かにこれを日本人が読まずにいるのはものすごくもったいない。私も読んですっごく面白かったので、ぜひとも若い女性に読んでもらいたいと思う一冊です。
 結婚記念旅行の途中、乗っていた船から夜中に突き落とされたジョーイ。運よく助かり、小さな島にたどり着く。…助かったはいいが、こうなったらなんとしても目いっぱい痛い仕返ししなければ、とたくらむ。いやぁ、あたしだったら、突き落とされたら腹はたつかもしれないが、さすがにドン引きしてもう一生会いませんけれどもね。仕返しなんかする労力も惜しまれる。しかしこの女は、すごい執念です。そして本当に仕返しをするために自分の中のプロジェクトを進めていく…。
 というなんだかコミカルなあらすじになってしまいましたが、中身はそれはもう猛烈な勢いで面白いです。550ページ近くありますが、最初の数ページでぐんっと引き込まれてそのままあれよあれよという間に読めてしまいます。
 この通快感と爽快感からすると、夏に読むのがいいかもしれないですね。

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