年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年9月の課題図書 文庫本班

大鴉の啼く冬
大鴉の啼く冬
アン・クリーヴズ (著)
【創元推理文庫】
税込1,155円
2007年7月
ISBN-9784488245054
商品を購入する
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 寒さ厳しいシェトランド島で、女子高生キャサリンが遺体となって発見された。犯人は、動機は、そして8年前に起きた失踪事件との関連は?
 興味深く読んだのは、事件の捜査過程よりも、閉ざされた島での狭く濃い人間関係。住民のほとんどが顔見知りで、隠し事などできないような小さな町での暮らしというのは果たしてどんなものなのだろう。秘め事が秘め事にならない。だからこそ人は秘密を持ち、それを心の奥へ底へと隠そうとし、誰かに暴かれることをひどく恐れる。理解できる気がするし、とても哀しいことだとも思う。
 この土地には、昔から住んでいる者と余所者との間に、見えないけれどはっきりとした壁がある。壁のこちら側でも向こう側でも、互いを完全には受け入れることができない。そしてどちらも孤独を抱える。いつでも強い風が吹き、短い夏が過ぎれば秋も春もなくずっと冬というシェトランド島の寒々とした光景を想像して、もの寂しい気持ちに襲われた。

▲TOPへ戻る


  鈴木 直枝
 
評価:★★☆☆☆
 シェトランドという北欧のその島は本当に小さい。秘密などほとんどなく、あるのは何もかも決まっていて何年も変わることのない生活。その小さな生活圏の中で人は仲違いし道を外れた恋をし危険とわかってる道を歩こうとする。そして起きた。時期こそ8年のずれがあるものの少女の悲惨な事件が。
 犯人が全く読めないままに最後の最後まで来てしまった。だから予想外の謎解きに興奮するかと思えばそうでもなく、この町そのもので同じような道をのらりくらりと彷徨っている感覚が中盤の読みを鈍らせた。地元の富豪や教育者、知的障害のある男と思春期の少女たち。有り体の設定に思い入れを感じる場面もあまりなく、外してしまった感を最後まで拭えなかった。伏線の張り方もいま一つ惹きつける力がない。犯人を知ってしまった今も、その動機に納得が行かずにいる。

▲TOPへ戻る


  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
「この島では誰かに知られずにおならもできない」―――、そう主人公の一人がつぶやいた舞台は人口わずか2万2千人、スコットランド沖に浮かぶ、シェトランド島の中でも特に閉ざされた集落。まさに英国最果ての地。厳寒のこの地で、一人の女子高生が殺された。住民はみな知り合い同士、一時間もあれば全住民に噂が伝わってしまうような町で、いったい誰が彼女を殺したのか…?
 この作品は、推理小説というよりも、殺人事件に直面した狭い社会の中の群像劇である。第一容疑者は、昔の幼女失踪事件の犯人とされた知的障害のある老人。皆が彼を犯人と決めつける中、一人孤軍奮闘する刑事、死体の第一発見者となったシングルマザー、そして被害者の親友だった少女が代わる代わる主人公を務めている。その中で、浮き上がってくるのは被害者の「異質さ」。転校生で都会的で、美人で、自分を持っていて、世間体が第一のこの村では完全に浮き立っているけれども、気に留めるふうでもない…。そんな彼女が暴きたてようとしていたある秘密とは何か。最後、綺麗に帰結するこの物語だが、本当の「犯人」は別にあったように思えてならない。この舞台設定の見事さが最大の魅力といえる。

▲TOPへ戻る


  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 猛暑なんざ大嫌いです。一年中、真冬だったらいいのに、と思うこともしばしば。そんな同志の方、一緒にこの本を読みましょう。日本の残暑の中、気分はすっかり真冬のシェトランド(イギリスの北の端の島)に直行です。

 一面の銀世界に倒れていた少女の死体。傍らには大鴉。雪の白と鴉の黒、マフラーの真紅。頭の中にこの三色がくっきりと、そして寒々と印象づけられる冒頭。少女は何故、死ななければならなかったのか?

 横溝正史やアガサ・クリスティの諸作品を彷彿させる、因習に満ち溢れ、伝統が支配する小さな世界に、一見親切そうだけど、実際にはなかなか心の裡を明かさない、それぞれにいろんな屈託を抱えた人々。更に、過去にあった事件との奇妙な符合。古典的なミステリが持つ安定感が、この作品には充溢しています。それでいて、決着の付け方はあくまでスマートでエレガント。

 いまいましい暑さを忘れられる、冷え冷えとした読後感が味わえます。

▲TOPへ戻る


  横山 直子
 
評価:★★★☆☆
「えっっっっ!」思わず読みながら、声が出てしまった。
ちまたにさまざまなダイエット法があふれかえっている昨今だが、この話に出てくるダイエット法には、まさに度肝を抜かれた。
初めて聞いたし、ビックリした。

舞台はシェトランド島。
人がめったに寄り付かない老人の家に、数年ぶりに女子高生二人が訪れた。
思いがけない客人に、喜んだその老人は用意してあったお茶やお菓子で二人をもてなす。
しかし、数日後、その二人のうちの一人が、老人宅からさほど離れていない雪原で死体で見つかる。
実は八年前にも少女失踪事件があり、まだ未解決のままであった。
小さい島の中の大事件、島中の人を巻き込んで、いろんな推理が行われる。

アップ・ヘリー・アーといわれるシェトランドのお祭りのシーンが印象的。
そのお祭りの最中に、またさらなる誘拐事件が…。
最後はちょっとだけほっとして、ジ・エンド!

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年9月の課題図書 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved