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忍法さだめうつし
荒山 徹(著)
【祥伝社】
定価1890円(税込)
2007年7月
ISBN-9784396632847
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
川畑 詩子
評価:★★☆☆☆
美麗な青年や、この世のものと思えぬような優美な女性が、元寇和冦の時代の、日本と朝鮮半島を股に死闘を繰り広げる大エンターテイメント。忍者、くのいち、そして妖術使いの超人的な術。飛んでくる矢をぎりぎり手前でぴたりと止めたり、死者を呼び出したり……。「性」に格別のパワーを見いだす世界観は奇抜で、頁をぐいぐいめくらせる力を持っている。更に、当時の文書が頻繁に織り交ぜられて、歴史を別の角度から読み替えるような興奮も味わえる……と、うまいし面白いのだが、延々続く報復合戦や、人が露骨に争いの道具になる陰惨さに食傷気味になった。また、元寇、和冦どちらも暴力行為であるのに、元寇の謝罪が無かったゆえに和冦があったのだと、あたかも正当性を主張しているようにも読めることに危惧を感じた。
どんなにすごい術を持っていても、結局権力者には手駒のひとつにしかすぎない……。空しさの残る読後感だった。
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神田 宏
評価:★★★★☆
歴史小説、剣術小説、ホラー、ファンタジー、ミステリ、ロマンス。各ジャンルを渾然一体とまといながらもエンターテイメントとしてすばらしいできに仕上がっている。読むものを一瞬たりとて飽きさせない、意外で目をむく奇怪なストリーは、その題を元寇の時代の朝鮮半島と鎌倉幕府統治下の日本の攻防という史実に拠りながらも、双方の妖術使いが攻防の裏に跋扈暗躍し歴史の暗部を模ってゆく様を描く。死者を蘇らせ、呪いを懸け、時代を遡行する妖術使いたちの呪詛に満ちた術は、民俗学的な薫りを燻らせながらも、どこか滑稽で笑いを誘う。例えば、朝鮮の妖術使いの術に拠ってタイムマシーンに乗せられた妖術使いの弟子「呉牟爐(ごむろ)」が師匠に止められるのにも関わらず白い繭(なんと陰茎から白い糸を出して自らを包み込むことによってタイムトラベルをする妖術なのだ!)に乗り祖国を救うために旅立つ場面。「『呉牟爐、行きまーす』その声は巨大繭の中から聞こえた。繭は一度振動し、それから静かになった。」(ハハハ、ガンダム繭!)と。その他に骸骨と美女の交接による妖術などB級ポルノのような怪しさを漂わせながらも、ジャンルミクスチャーの奇怪、滑稽な怪作は読者を飽きさせることなく爆走する。そのおかしさとまじめさの妙味! 堪能あれ。
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福井 雅子
評価:★★☆☆☆
13世紀から15世紀にかけて、日本と朝鮮の歴史を揺さぶる陰謀と策略が絡み合い、「さだめうつし」という哀しくも恐ろしい妖術が用いられる。日本と朝鮮を舞台にした歴史小説のホラー版のような壮大な物語。
歴史小説としても楽しめるほどの細かい知識を背景に、歴史の流れに沿ったしっかりとした骨組みを作り、そこにホラー的なストーリーを乗せて描いているため、相当に妖しげな内容ながらも妖しさだけが浮き上がることなくうまくまとめられている。その微妙なバランスが、この作品の持ち味とも言えそうである。ストーリーだけをとればやや稚拙な感じもするが、背景がしっかりしているため、大人も十分に楽しめる。物語の壮大さと「忍法さだめうつし」という強烈なアイデアには感服! ただ、そこに頼りすぎたのか、読者の心に訴えかける力が弱いことと、文章がやや読みにくいことが気になった。
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小室 まどか
評価:★★★☆☆
伊賀の里で修行した姫が哀しい決意を胸に皇族にのみ許された秘術を行う表題作を含め、朝鮮半島の歴史を素材とした、妖術をあやつる者たちが跋扈する短篇集。
倭寇や易姓革命などにまつわる「恨」の感情を巧みに利用するといった史実の取り込み、エログロと紙一重の際どいながらも妖艶で扇情的な表現、着想のユニークさは山田風太郎の再来を思わせる。ただし、本家の抑制を意識させない飄々とした貫禄、度肝を抜くような忍法のタネを最先端の医学的発見などにこじつけて落とす自在な奇想には、いま一歩。短篇の紙幅のせいか、妖術や術者の魅力が描き切れておらず、史実、そして現実に縛られている感じが否めない。ぜひもっと長編に挑んで、あふれんばかりの朝鮮史に関する造詣から、ランナーズハイのような飛翔の瞬間を迎えられんことを、亡き風太郎の忍法を軽々と超越する新風を起こされんことを、その確かな力量に期待したい。
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磯部 智子
評価:★★★★☆
荒山作品の既読は『サラン 哀しみを越えて』だけなので、日本と朝鮮の関係を描く、そのいささか硬いイメージを引きずりながら読み始め、ビックリ仰天した伝奇小説。どうも本来の持ち味はこちらの方らしい。タイトルが「忍法」なら、こうあるべきという隠微なエロさが、真顔のまま、それは奇抜でありながら、どこまでも端整な姿をして現れる。4編から成る短編集だが、長編のように流れ、ゆるやかに(激しく)繋がっていく。表題作『忍法さだめうつし』は、高麗よりの国史が原因不明の焼死をするところから話が始まる。ここでもまた日本と朝鮮の絡み合う歴史の中で、双方に消えることのない恨みが一、層積もる要因となる攻防が繰り返される。が、その方法たるや「高麗を滅ぼす生ける兵器」となるべく美しい皇女が、秘術=忍法さだめうつし(R18指定)を命がけで身につけるという、感心すべきか、その荒唐無稽さに笑って良いのか悩みどころの展開となるのだ。因果は巡る「さだめうつし」が全編を硬質な文章で貫き、その上手さに唸りながら、このむっつりナントカ小説は、隠れファンが(隠れてない?)多いのではと、一人でニヤリとする奇作だった。
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林 あゆ美
評価:★★★★☆
4つの短篇がゆるやかにつながった話になっている。漢字密度の非常に高い荒山氏の歴史伝奇小説は、一見取っつきにくそうだが、読み始めると妙に感情が高まり、歴史に明るくない私でも、するすると読めてしまう。今回の4作に共通しているのは、大胆奇抜な“妖術”。まるで魔法の杖をひとふりがするがごとく、妖術師や忍法使いが術を使うと、想像だにしないことが可能になっていくので、読みながら「やぁ、すごい!」と何度も声が出てしまう。
「怪異高麗亀趺(こうらいきふ)」はことのほか印象に残った。即位した親王の命を狙う謎の美女揃いの刺客集団。計画実行の暁にとった彼女たちの行動と共に、生き残った者の口を割らせる妖術のそれよ。万能にも思える妖術は、時に時空を飛び、過去と現世の道をもつくる。なんというスケールなんだろうか。「では、妖術に頼ろう」このひとことは決して問題解決を優しくするわけではない。しかし、この言葉が出ると次の展開から目を離せなくなる吸引力をもっている。
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