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忍法さだめうつし
荒山 徹(著)
【祥伝社】
定価1890円(税込)
2007年7月
ISBN-9784396632847
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評価:★★☆☆☆
美麗な青年や、この世のものと思えぬような優美な女性が、元寇和冦の時代の、日本と朝鮮半島を股に死闘を繰り広げる大エンターテイメント。忍者、くのいち、そして妖術使いの超人的な術。飛んでくる矢をぎりぎり手前でぴたりと止めたり、死者を呼び出したり……。「性」に格別のパワーを見いだす世界観は奇抜で、頁をぐいぐいめくらせる力を持っている。更に、当時の文書が頻繁に織り交ぜられて、歴史を別の角度から読み替えるような興奮も味わえる……と、うまいし面白いのだが、延々続く報復合戦や、人が露骨に争いの道具になる陰惨さに食傷気味になった。また、元寇、和冦どちらも暴力行為であるのに、元寇の謝罪が無かったゆえに和冦があったのだと、あたかも正当性を主張しているようにも読めることに危惧を感じた。
どんなにすごい術を持っていても、結局権力者には手駒のひとつにしかすぎない……。空しさの残る読後感だった。
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青年のための読書クラブ
桜庭 一樹 (著)
【新潮社】
定価1470円(税込)
2007年6月
ISBN-9784103049517
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>> 本やタウン
評価:★★★★☆
名門女子校内の異端の集まり、読書クラブ。百年間に起きた珍事件の数々がいまひもとかれる。
「並み外れておおきな乳房」「ズベ公」「ドスドスと走り出した」……作家の、芝居がかった、時代がかった独特の言葉使いは癖になる。そして、その言葉使いでもって、美少女も醜女も等しく突き放して描く。「温かいまなざし」という代物とはフィットしない作風だ。
それでも、アウトローたちへの賛歌が感じられる。そして、登場人物の誰もが、実在感が薄くて、ある意味類型的なキャラクターなのに、ストーリーや主役のための装置になっていないのも魅力的だ。彼女たちの葛藤と誇りが愛おしい。
たとえ部室は壊され、部員がいなくなっても、「いつの時代も、我々のような種類の者は存在する。」……私もこの、掃きだめのような、そして気骨溢れる読書クラブに入りたい!
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アサッテの人
諏訪 哲史(著)
【講談社】
定価1575円(税込)
2007年7月
ISBN-9784062142144
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評価:★★★★☆
「アサッテの方を見る」「話がアサッテに行く」。私にとって「アサッテ」はこんな使い方だが、アサッテの世界は奥が深い。これを追究し、取り憑かれた叔父の口癖は「ポンパ」。字面では弾むような音声に思えるこの口癖。しかし叔父さんはきっと、切実に振り絞るように発声していたのだろう。はじめ軽やかに思えた「ポンパ」の響きが、次第に深刻な色合いを帯びてくる。これは、ことばとがぶりよつに組み合った人間の壮絶な闘いの記録だ。それでも口ずさんでみたくなる「ポンパ」の魔力や恐ろし……。
スタイルもユニーク。自分を見つめがちな十代、二十代の覚え書きのようで、どこか違う。起承転結、カタルシス、文体の統一……それらを備えていなくとも、作品は成立することを知った。
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楽園
宮部 みゆき(著)
【文藝春秋】
定価1700円(税込)
2007年8月
ISBN-9784163262406
ISBN-9784163263601
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評価:★★★★★
書き出しからもう、密度の濃さにぞくぞくした。そこに事件が起きるわけではない。淡々とした記述なのに、緊張感がある。小さな手掛かりや伏線が、絡み合った複数の事件をきちんと結びあわせる点も鮮やかだ。ただ、時効事件が中心なので、事件解決のカタルシスよりも、被害者加害者を含めた関係者たちが背負うものの重さが強く漂う結末だった。主軸は両親による娘の殺害事件で、被害者の妹は真実を知ることを強く希望する。彼女は強さや聡明さに輝いているのに、最後の最後で、苦渋や孤独がどれだけ大きいかを思い知らされて息苦しくなった。それでも、時間がかかっても、きっと彼女は立ち直ると予感させるし、そうあってほしいという願いを感じる。人間の弱さや、誰でもアクシデントに遭遇しうることを緻密に描きながらも、人間の強さを信じている。だから、むごい事件の連続に麻痺することも、目を背けることもなく最後まで読み通すことができたのだと思う。
もう一人の主要人物である萩谷敏子ができすぎた人のようにも思えるし、ラストだって甘いのかもしれない。それでも鼻の奥がツーンとしてしまった。
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滝山コミューン一九七四
原 武史(著)
【講談社】
定価1785円(税込)
2007年5月
ISBN-9784062139397
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評価:★★★☆☆
政治思想史の学者が七十年代前半に過ごした自分の小学生時代を回想し、時代のうねりをあぶりだそうとした力作。
通称「七小」は、団地建設によって急激に児童数が増加した東京近郊の小学校。学校の雰囲気になじめなかった著者は、さぞや居心地が悪かっただろう。とても聡明な少年で、集会で鋭い質問を投じたりする。ちょっと自慢と感じないでもないが、何か言わずにはいられないくらい、子どもを追いつめる空気があったといえよう。盛り上がりの輪に入れなかったからこそ、他の人より余計に記憶が鮮明で、ノスタルジーに流されがちな子ども時代に潜む、時代からの影響を分析することができたのだろう。
なんとなく伸びやかなものとイメージしていたこの時代の小学校教育と、当時の資料から見えてくる現実のギャップに驚く。小学生なのに大人の政治活動さながらに、自他の批判・追求をし、演説をぶち、教育的にも奨励されていたこと。また、個人的なるものはマイナス視され、集団のまとまりを称揚すること。隔世の感がある。しかし、たしかに自分の小中学時代(七十年代後半から八十年代前半)にも残骸は残っていたことを確信した。自分の受けた小中学教育が、どんな経緯とバックボーンを持っていたのか、新たな視点を与えられた。
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朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記
柴田 よしき(著)
【東京創元社】
定価1575円(税込)
2007年8月
ISBN-9784488023966
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評価:★★★☆☆
高一の時のいじめが引き金になって、引きこもりになった女の子、小夏。家の中は自由に歩けるが、外に出ると息苦しくなってしまう。母親との関係は良好。家事を担当することで、パラサイトしている負い目を少しでも減らそうとしている。引きこもっている理由は自分でもよく分からない。理由を知るために熱心に情報を収集しているし、自分の心にメスを入れることからも逃げない。感受性が強くて、真面目な女の子だ。友だちの秋も良い感じ。自由奔放でしかも仁義という言葉が彼女からは感じられる。19歳の二人の女の子が、大人への道を歩き出す姿が丁寧に描かれていて、さわやかな読後感だった。進路や恋愛、若いから可能性は沢山あるけれど、それだけ変化も多いから不安も多い。それでも今を大事にしようとする強さ。高校中退で引きこもりの小夏には、経済的な自立はなかなかに厳しいが、とても地道に自活の道を切り開く。特別な才能や恋人登場というアイテムで問題を安易に解決するストーリーでなくて本当に良かった。
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マジック・フォー・ビギナーズ
ケリー・リンク(著)
【早川書房】
定価2100円(税込)
2007年7月
ISBN-9784152088390
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評価:★★★★☆
話上手な人の語りを聞くような面白さ。しかも決して安っぽくなく、どことなくエレガントですらある。
「石の動物」。郊外のマイホームを手に入れた時から、一家は調子が狂い始める。壁を塗り替え続ける妻。朝まで続く残業の連続。うさぎの大量発生。悪夢の中をもがいているようなもどかしさ。「しばしの沈黙」で登場する果樹園の中の家もそんな雰囲気に支配されている。妻が、地下室や屋根裏で何かひたすら作業をしている。このお話は、話の中にまたお話がある入れ子構造で、いっそう強く、方向感覚を狂わされる感じだ。
その他には「猫の皮」や「妖精のハンドバッグ」のように、民話的で、スケールの大きなほら話が楽しめる作品もあった。
ラストはいずれも、道に迷ったような心細さを感じた。ピカピカの電灯に四六時中照らされたコンビニにも、奇妙な空気は存在しうる。暗闇は無くとも、現代には現代なりの不思議な物語があり得るのだ。
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雲の上の青い空
青井 夏海(著)
【PHP研究所】
定価1470円(税込)
2007年7月
ISBN-9784569692906
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>> 本やタウン
評価:★★★☆☆
日常の小さな事件や、周りの人の不可解な行動も、当事者同士が言葉を交わさないからこそのもの。お互いが話をすれば、自ずと解決するはず。全体がそんなメッセージを発しているようだ。そして、探偵役の脩二は、突破口を開く役割を常に果たしている。部外者でありながら、人間関係のこじれた箇所を発見し、当事者に気付かせる。口は悪いけれど、侠気があって機転も利く、頼りがいのある存在だ。だが、まだ理想をそのままキャラクターにしたように思えた。コンビニの前でカップラーメンをすすったり、定食屋でビールを飲んでいても、あまりリアリティーが感じられなかったのだ。
せっかく魅力的な人なので、もっと色々と聞いてみたい。なんで探偵をやめたのか、なんで独身なのか。そして、脩二の一日を淡々と描いた一編なんかも読んでみたい。
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