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朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記
柴田 よしき(著)
【東京創元社】
定価1575円(税込)
2007年8月
ISBN-9784488023966
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★★☆
ヒキコモリの小夏は、母親と二人暮らし。銀座に店を持つ母親にかわって、家事全般を引き受けていた。たとえひきこもりでも、「家事」という労働をしていると自負している。母親と、ネット以外の外界との接点は、親友の秋のみ。秋は、静かな小夏の生活に、外の世界の事件を持ち込んでくる。
そんな、事件と言うには大げさだが、身近に起こった不可解な出来事を、まるでロッキクングチェアディティクティブのごとく、謎解きをするのは、ヒキコモリ探偵小夏。
謎解きというには、ちと強引ではと思うものもあったが、細かいことには目をつぶっても、そういった事件にかかわっていくことで、少しずつ外へのつながりを取り戻していく、小夏の姿が、健気にすがすがしく描かれている。
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川畑 詩子
評価:★★★☆☆
高一の時のいじめが引き金になって、引きこもりになった女の子、小夏。家の中は自由に歩けるが、外に出ると息苦しくなってしまう。母親との関係は良好。家事を担当することで、パラサイトしている負い目を少しでも減らそうとしている。引きこもっている理由は自分でもよく分からない。理由を知るために熱心に情報を収集しているし、自分の心にメスを入れることからも逃げない。感受性が強くて、真面目な女の子だ。友だちの秋も良い感じ。自由奔放でしかも仁義という言葉が彼女からは感じられる。19歳の二人の女の子が、大人への道を歩き出す姿が丁寧に描かれていて、さわやかな読後感だった。進路や恋愛、若いから可能性は沢山あるけれど、それだけ変化も多いから不安も多い。それでも今を大事にしようとする強さ。高校中退で引きこもりの小夏には、経済的な自立はなかなかに厳しいが、とても地道に自活の道を切り開く。特別な才能や恋人登場というアイテムで問題を安易に解決するストーリーでなくて本当に良かった。
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神田 宏
評価:★★☆☆☆
引きこもりの「小夏」が、親友の「秋」との関係や、偶然その引きこもりのマンションから見える眼下の、ベランダの枠内というフレームに切り取られた小さな「事件」(外に出ないのだから、ベランダから見える風景に何らかの意味を持たせるのは、物語の展開上必須であったため)との関わりから引きこもりを脱してゆくといったストーリーなのだが、いかんせん、その狭窄した視野の小ささに耐え難さを感じた。日常生活のほとんどをネット注文でまかない、銀座のバーを経営する「ママ」との母子癒着の甘え、その「小夏」が謎解きを行う「事件」の恣意性。ミステリというにはおこがましいそのこじんまりした、外界の小宇宙(どうせなら、内面の宇宙に関心を寄せればよかったものを)。それを引きこもりというのなら、その雰囲気はよく描かれているというのかもしれないが、私にはあまりに幼いその発想に最後まで共感を感じることはできなかった。
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福井 雅子
評価:★★★☆☆
高校1年生からひきこもり生活を続けている19歳の小夏が、親友の秋が持ち込む小さな事件や新たな出会いを通じて外の世界とつながり、やがてひきこもりを卒業するまでを描いた心温まる物語。
「ひきこもり」という言葉はマイナスイメージを持たれがちだが、この作品はひきこもりを肯定的に、明るくふつうに描いていて、ほんわかして楽しい物語となっている。ふつうの女の子である小夏の、力みのないふんわりした生き方や生活ペースが、読み進むうちにだんだんうらやましくなってきて、「ひきこもり……それもいいかも」などと思えてくる。小夏と秋の一途なかわいらしさとほんわかしたストーリーに魅了されて、読後感はとても良い。力みや毒気のないピュアなストーリーが、疲れた心を癒してくれそうな一冊。
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磯部 智子
評価:★★☆☆☆
「ひきこもり」(新手の設定か)の小夏が主人公の連作ミステリ。結果において安楽椅子探偵のような展開になるのだが、本人はイジメにあい高校を中退後、家にひきこもり、働く母のため家事全般を引き受け、世に言う「家事手伝い」となんら変わることがなく、外へ出るのが怖いというだけ。それで疑問は、これは果たして「ひきこもり」なのかということ。家には度々友人の秋が訪れるから、家族以外の人間との接触を嫌うという「ひきこもり」とはまた違うし、小夏自身この状態をナントカしなければいけないと思っている。更に都合よく6話で事件が起こるたび少しずつ世の中に出て行くのだから、全国のひきこもり騒然(とは、ならないか)。これを安易に「ひきこもり」と呼んでよいものかと思うが、この優しい「日常のミステリ」には攻撃性がないため、逆に批判を封じ込めてしまう。小夏の社会復帰の兆しを、本当のひきこもりなら、そんなうまく行くものかと内心素直に祝福できない人間としては、結末保証、読者安心設計の優しさ恐るべし…を噛み締めた。
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林 あゆ美
評価:★★★☆☆
19歳の小夏は、高校1年の秋から引きこもりになった。原因はいじめ。義務教育と違って高校では学校への引き留めもさほどではなく、ほどなく小夏は退学した。パソコンを買ってもらい、買い物はほとんどインターネット。母親と二人暮らしなので、小夏が家事全般を引き受け、なんとか平穏な生活をおくっていた。
外出できない小夏にとって、外への入り口は部屋の窓。そこからしか見えない世界から、少しずつ小夏の世界が広がっていく。大事件が起きるわけではなく、日常におけるささやかな謎を、マンション2DKの小さな一室で解いてゆくのは爽快。部屋にいたってできることはある。小さな出来事がつみかさなって、ゆっくりゆっくりと成長してゆく小夏がさわやか。
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