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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年9月のランキング>小松 むつみ

小松 むつみの<<書評>>
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忍法さだめうつし 治療島 青年のための読書クラブ アサッテの人 楽園 滝山コミューン一九七四 朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記 川の光 マジック・フォー・ビギナーズ 雲の上の青い空

治療島
治療島
セバスチャン・フィツェック(著)
【柏書房】
定価1575円(税込)
2007年6月
ISBN-9784760131679
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評価:★★★★☆
 まるで本を読んでいるように、物語を印刷された文章の夢を見ることがある。映像ではなく、文章、文字を夢で見る。
 精神的に病んだ人が見る、幻覚というものが、どれほどのリアリティを持つものなのか、その経験のないものには、想像することは難しいが、この作品を読んでいて、その文字の夢を見ているときと、似た感覚に陥った。
 高名な精神科医の娘が失踪。失意の中、島の別荘に引きこもった彼の元に、謎の女がたずねてくる。彼女が少しずつ語り始める妄想の物語。ストーリーは、入れ子のようにも幾重にも層をなす。一度見失うと、再びその地点に戻れなくなりそうで、なかなか途中でやめられない。
 惜しむらくは、こちらがミステリー慣れしているせいか、かなり早めにオチが見えてしまう。もちろん、それを見事に覆す展開が用意されていれば、参った!とひざを打つわけだが……。 

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青年のための読書クラブ
青年のための読書クラブ
桜庭 一樹 (著)
【新潮社】 
定価1470円(税込)
2007年6月
ISBN-9784103049517
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評価:★★★★☆
 採点員になって桜庭一樹のファンになった。
 どんなものでも、独自の空気を感じさせるものが私は好きだが、桜庭氏の作品にも、その空気がある。空気は目には見えないが、においがしたり、乾いていたり、ホコリっぽかったり、ひんやりしていたり、様々な感覚で感じることができる。
 本作の舞台は、桜の園とも言うべき名門女子高。その片隅でひっそりと活動を続ける「読書クラブ」に代々受け継がれきた「クラブ誌」。そこには、創立以来100年にわたる知る人ぞ知る事件の数々が記されていた。
 桜庭氏独特の、やや懐かしさが匂いたつようで、それでいて禍々しさも見え隠れする語り口で、甘やかでありながら、どこか残酷さも秘めた、思春期の少女たちの織り成す世界をねっとりと描き出す。特に女子高出身者には堪えられない一冊。

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アサッテの人
アサッテの人
諏訪 哲史(著)
【講談社】
定価1575円(税込)
2007年7月
ISBN-9784062142144
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評価:★★★★☆
  私小説的な体裁で、失踪した叔父の残した日記を手がかりに小説を書こうとする、作家の思考のプロセスが描かれる。一見、そのタイトルから、主人公は叔父という錯覚に陥ってしまうのが厄介である。なぜなら、「アサッテの人」である叔父を描く努力はされていないようだからだ。そのしくみが、この作品を「アサッテの人」の話として読もうとした読者には、あまりに肩透かしで、期待はずれと思わせてしまう。その点が実に損をしている。
 芥川賞受賞作。独自の手法で、文章も、構成力にも、力量は感じるが、いまひとつ作品としての惹きつけられるものがなかったのが惜しい。次作に期待。

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楽園
楽園
宮部 みゆき(著)
【文藝春秋】
定価1700円(税込)
2007年8月
ISBN-9784163262406
ISBN-9784163263601
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評価:★★★★★
「クロスファイア」や「魔術はささやく」同様、、特殊能力とミステリーを巧みに絡めた宮部氏本領発揮の会心作。しかし、前出2作とは特殊能力の置き所は違うし、物語の性質も大きく異なる。けして単純に並べるべきではないだろう。
 なぜか(?)私は「模倣犯」を読んでいないので、9年を経て再登場の「前畑滋子」に特に思い入れはないのだが、彼女の過去が行く先々で引き合いに出され、今でも彼女自身の心に深く影を落としている。そういった点もふくめ、宮部作品には実に抜かりなく人々が描かれている。毎回、話の転がしかた、人と人とのつなぎかたが、本当に巧みだ。単なるミステリーに終わることなく、奥行きのある人間模様が丹念に描かれ、しっかりと読み応えがあることが、やはり宮部氏人気の理由だと、改めておもう。

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滝山コミューン一九七四
滝山コミューン一九七四
原 武史(著)
【講談社】 
定価1785円(税込)
2007年5月
ISBN-9784062139397

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評価:★★★★☆
 1970年代半ば 滝山団地に新設された小学校を取り上げたノンフィクション。著者自身、そこの在校生であり、自己の体験や記憶、思い出が織り込まれて、それが作品にふくらみを持たせている。
 東京郊外の創立間もない小学校で、著者自身が体験し、目撃したことは、年齢の近いワタシ自身にも、思い当たることはいくつかあった。現在の時点で客観視すると、違和感や、気味の悪さすら感じる「学級集団づくり」の実践も、その渦中にあった子どもたちにとっては、猜疑心のかけらもなく、受け止められているに違いない。著者はそこに、疑問を感じ、反発の意思があったと書いているが、そこまでの感覚を持つ小学生は少ないだろう。
 教育って恐ろしいとしみじみ思う。担任の先生が違うだけで、同じ学校でも、同じ学年でも、まったく異なった思想の下で、異なった方針の指導が行われる……可能性がある。子どもを持つ母親として、子どもの置かれている環境をどこまで把握できているのだろうかと、非常に懐疑的にならざるを得ない。そして、果たしてその環境が子どもたちにとって好ましいものなのか、否か、判断を下し、対処していくことは、現実問題としてほとんどの親には、その機会も与えられていないし、自ら果敢に現場に乗り込まない限り難しい。いろいろと考えさせられる一冊だった。

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朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記
朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記
柴田 よしき(著)
【東京創元社】
定価1575円(税込)
2007年8月
ISBN-9784488023966
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評価:★★★★☆
 ヒキコモリの小夏は、母親と二人暮らし。銀座に店を持つ母親にかわって、家事全般を引き受けていた。たとえひきこもりでも、「家事」という労働をしていると自負している。母親と、ネット以外の外界との接点は、親友の秋のみ。秋は、静かな小夏の生活に、外の世界の事件を持ち込んでくる。
 そんな、事件と言うには大げさだが、身近に起こった不可解な出来事を、まるでロッキクングチェアディティクティブのごとく、謎解きをするのは、ヒキコモリ探偵小夏。
 謎解きというには、ちと強引ではと思うものもあったが、細かいことには目をつぶっても、そういった事件にかかわっていくことで、少しずつ外へのつながりを取り戻していく、小夏の姿が、健気にすがすがしく描かれている。

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川の光
川の光
松浦寿輝(著)
【中央公論新社】 
定価1785円(税込)
2007年7月
ISBN-9784120038501
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評価:★★★★☆
 あまりにも善良で、ピュアで、ワタシの薄汚れたココロにはくすぐったく、やや面映い一冊だった。
 現代社会の似非個人主義への揶揄や、配慮を欠く開発や環境破壊への警鐘など、物語の根底に横たわる思想がストレートに伝わって来る。良質な児童文学として、王道を行く作品。子どもたちにぜひ読んでほしい。

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雲の上の青い空
雲の上の青い空
青井 夏海(著)
【PHP研究所】
定価1470円(税込)
2007年7月
ISBN-9784569692906
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評価:★★★★☆
 宅配ドライバー・寺坂が遭遇する5つの物語。
 北村元祖に続けとばかりに、日常の謎を描くミステリーが随分と書かれるようになったが、これもそのひとつ。日常の謎であるから、そのミステリー性もさることながら、探偵役の立ち居地や、視点の新鮮さが問われる。寺坂は、今は宅配ドライバーだが、かつては探偵だった。推理力の後ろ盾のための設定かもしれないが、それが彼の雰囲気や人となりを描くのに、いい効果を上げている。また、かつての仲間に関わる物語も用意され、さらにキャラクターに奥行きがでている。
ドライバー探偵・寺坂シリーズ第2作に期待!

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