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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年9月の課題図書ランキング

川の光
川の光
松浦寿輝(著)
【中央公論新社】 
定価1785円(税込)
2007年7月
ISBN-9784120038501
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  小松 むつみ
 
評価:★★★★☆
 あまりにも善良で、ピュアで、ワタシの薄汚れたココロにはくすぐったく、やや面映い一冊だった。
 現代社会の似非個人主義への揶揄や、配慮を欠く開発や環境破壊への警鐘など、物語の根底に横たわる思想がストレートに伝わって来る。良質な児童文学として、王道を行く作品。子どもたちにぜひ読んでほしい。

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  神田 宏
 
評価:★★★★☆
 人間による河川の暗渠化によって住み慣れた川べりの地を追われた、クマネズミの親子の新天地への冒険を描く。途中、ドブネズミの「帝国」という圧政に旅路を阻まれるにいたって、はあ、子供にわかり易い、勧善懲悪の物語かーとダレかけたのだが、意外や意外。途中で出会う犬の「タミー」やおばさん猫の「ブルー」、スズメの夫婦、「帝国」からの独立を企てるドブネズミの「グレン」。そういった仲間たちとの冒険にいつしか物語世界に引き込まれていた。物語の佳境、親子が苦境に立ち向かう場面で著者の筆が真実を吐露する。「三匹のネズミが死にかけている。」「今、三匹のネズミが死にかけている。」「どうでもいいことだ。つまらぬ話だ。地球上で今この瞬間に起きている、取るに足りない無数の小事件の一つ。」「でも、これは一つのとてつもなく大事なことなのだ。」「それは宇宙の運命に匹敵する大問題だ」と著者は言う。なぜなら、「生命というものはそれ自体、一つの奇蹟だからだ。ある特殊で複雑な仕方で組み合わさったたんぱく質の分子の複合体に、あるとき突如として生命が宿った。」そしてその生命が脈々と次世代に受け継がれてゆく。それが奇蹟だと。だからネズミの死が宇宙の運命にも匹敵するのだと。このストレートな主張に手に汗を握り「がんばるんだー、死んじゃいかん!」と叫ぶ私がいた。生命の流れ、その営み、小さな虫から人間まで、生命の尊厳をさわやかに描いた本書で久しぶりに童心に帰った。

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  福井 雅子
 
評価:★★★★★
 河川の暗渠化工事で平和な住処を奪われたネズミ一家が、新たな安住の地を求めて冒険の旅に出る。様々な危険や困難にぶつかりながらも、種を超えた仲間たちに支えられて旅を続け、子ネズミたちもたくましく成長してゆく、という暖かく感動的な物語。
「ネズミの冒険なんて、児童文学じゃないの?」などと馬鹿にすることなかれ! この物語は大人が読んでも十分に読み応えがある優れた作品である。ハラハラドキドキのネズミ一家の冒険物語に、読者は心の中で「よし、頑張れ! いいぞ!」とエールを送りつつ、失われてゆく自然、有限の生、受け継がれてゆく命、支えあい励ましあって日々を精一杯生きることの大切さなど、私たちの人生の根源に関わる問題について静かに思いをめぐらすことになる。作者の暖かいまなざしが、こんなにも優しくかわいらしい「生命の賛歌」を生み出したことに感謝したい。子供にも大人にも自信を持ってお薦めできる作品である。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★★
 子ネズミのタータとチッチ兄弟は、生まれ育った川のほとりを追われ、父とともに旅に出る。思いもよらぬ友や困難との遭遇を経て、彼らは安住の地にたどりつけるのか――。
 実は、某書店での作者による朗読会に参加してきたのだが、心から楽しそうにお気に入りの場面を読み上げ、本書への思いを語る作者の姿が印象的だった。自身もワクワクしながら書き上げたという文章は、詩のように丁寧に紡がれた言葉に彩られ、子ネズミたちの当惑や瑞々しい喜びにまでやわらかな色がついて、目の前に浮かんでくるようだ。登場するのは小さな動物たちだが、決して子ども向けのお話ではない。死に向き合い、生の意味を問うという人生の課題がさりげなく織り込まれている。あとがきに、川は作者自身だとある。朗読会では、主人公は物語の中に常に流れていた川なのだという旨の発言があった。とすると、本書は、作者自身が生きとし生けるものへの慈しみ、小さきものへの愛おしさ、生命の循環を象徴する水への憧憬を込めて描いた、ひとつの答なのではないだろうか。

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  磯部 智子
 
評価:★★★☆☆
 動物が言葉をしゃべる物語……その設定だけで怯んでしまう。犬はしゃべらないし、猫もしゃべらない。少なくとも擬人化された言葉はしゃべらないと、実はかなりの動物好きである私は思う。この小説の中では犬猫のみならず、主人公のクマネズミの一家や動物たちが率直に心情を吐露するし(!)、平和な川の暮らしを追われ、新天地を求めて様々な困難に立ち向かう姿は人間以上に人間らしいし(!)、それなのに物語運びや表現の上手さに、うっかり物語の中に入り込んでしまったことも否めず困ってしまう。大きな声では言えないが、面白いことは面白かったのだと、しぶしぶ認める。中学生になった子供に読んでみないかとお伺いをたてたら即答で拒否された。が、昭和生まれの純真な大人の心には届く、姿かたちに惑わされず読む生真面目で人間味あふれる(?)成長冒険小説。

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  林 あゆ美
 
評価:★★☆☆☆
 川ネズミたちが、突如、平和に暮らしていた巣穴から引越を余儀なくされる。川が埋められ、なくなってしまうのだ。次の住処を見つけるために冒険の旅を選ぶネズミ一家。ドブネズミ帝国との苦しい闘いが続き、なかなか安住の地にたどりつけない、がんばれ!
 緑の木々が優しく描かれ、やわらかな絵の表紙がすてきな本書。著書の名前を見た時は、新聞連載されていたことも知らなかったので、これほど児童文学的な物語だと思わなかった。動物の成長物語は児童文学ではよく使われるテーマであり、類書もたくさんある。なので、それらをたくさん読んできた者としては、どうしても先が読めてしまい、新鮮に楽しめる要素が少なかった。

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