オリジナル文庫大賞

2022年のオリジナル文庫大賞は橋本長道『覇王の譜』だ!

単行本の文庫化ではなく、初めから文庫として刊行される「オリジナル文庫」の大賞を勝手に決める「オリジナル文庫大賞」は11年目に突入。今年も書評家4名+文芸編集者7名&北上次郎の12名が集結したぞ!
  • 俺たちは神じゃない (新潮文庫)
  • 『俺たちは神じゃない (新潮文庫)』
    中山 祐次郎
    新潮社
    737円(税込)
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  • マネーの魔術師-ハッカー黒木の告白 (中公文庫 え 21-6)
  • 『マネーの魔術師-ハッカー黒木の告白 (中公文庫 え 21-6)』
    榎本 憲男
    中央公論新社
    990円(税込)
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  • 私たちは25歳で死んでしまう (小学館文庫 す 17-2)
  • 『私たちは25歳で死んでしまう (小学館文庫 す 17-2)』
    砂川 雨路
    小学館
    748円(税込)
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  • ずんだと神様 一膳めし屋丸九(七) (ハルキ文庫 な 19-7)
  • 『ずんだと神様 一膳めし屋丸九(七) (ハルキ文庫 な 19-7)』
    中島 久枝
    角川春樹事務所
    748円(税込)
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候補作一覧

『覇王の譜』橋本長道(新潮文庫)
『俺たちは神じゃない』中山祐次郎(新潮文庫)
『鯨の岬』河秋子(集英社文庫)
『マネーの魔術師』榎本憲男(中公文庫)
『私たちは25歳で死んでしまう』砂川雨路(小学館文庫)
『ずんだと神様』中島久枝(ハルキ文庫 時代小説文庫)


北上 それでは、オリジナル文庫大賞の選考会を始めます。
編C 今年で第何回なの?
編A 第11回ですね。
北上 早いもんだね。もう11年なのか。ええと、今年の最終候補作は、橋本長道『覇王の譜』、中山祐次郎『俺たちは神じゃない』、河﨑秋子『鯨の岬』、榎本憲男『マネーの魔術師』、砂川雨路『私たちは25歳で死んでしまう』、中島久枝『ずんだと神様』の六作です。
評A どうやって決めていくんですか。
北上 5点満点の点数をつけたあと、あとは簡単にコメントを付けてください。六作全部にコメントをつけていただいても収録できないので、そうですね、最高点をつけた作品ともう1作くらいかな。
編A それでは私から。5点3点4点3点2点2点です。
北上 いきなり5点が出たよ。
編A 『覇王の譜』は、将棋小説なんですが、対局をあますところなく描いている。全体的に詰め込みすぎのきらいはあるけど、この作家のノビシロを買いたい。前作より遙かにうまくなっていますよ。次に4点をつけた『鯨の岬』は、表題作はいいですが、もう一編がちょっと落ちる。
北上 それでもういいですか。
編A はい。
北上 では次の人。
編B 僕です。ええと、4点3点3点2点3点1点。
北上 また『覇王の譜』が最高点か。
編B 瑕疵はあるけど、いちばん面白かった。みんなにすすめたいですね。
北上 もう1作、コメントをつけるならどれですか?
編B 『私たちは25歳で死んでしまう』かなあ。これ、少し面白かった。
北上 少しね。
編C それ、すごい褒め言葉だよ。
評A 私はその『私たちは25歳で死んでしまう』が満点の5点です。
北上 順番に言って。
評A 4点3点2点2点5点3点です。
北上 5点の理由は?
評A まず、この設定がいい。
北上 平均寿命が25歳になった未来の話で、そういう時代の男女の関係を描く小説だね。
評A この設定にしびれました。具体的には後半の2編がいい。
北上 わかりました。次は?
評B はい。4点3点3点4点2点3点。
北上 ええと、『覇王の譜』と『マネーの魔術師』が最高の4点と。
評B 『覇王の譜』には不満は残りますが、圧倒的に読ませる。『マネーの魔術師』は目新しさを評価したい。ドラマの盛り上がりがもう少し欲しかったですけど。
編C 私の採点は、4点3点2点1点2点5点です。
北上 ほお、『ずんだと神様』が5点満点と。
編C 今年の大賞を選ぶにあたって、昨年までとスタンスを変えました。
北上 どういうこと?
編C オリジナル文庫とは何か、ということを最近考えているんですよ。そうすると、その核はシリーズものではないかと。そういう面をみないでオリジナル文庫大賞を選ぶのは文庫というマーケットから、あるいは読者の実感からあまりにもかけ離れるんじゃないかという気がする。
北上 ほお。
編C 『ずんだと神様』は、「一膳めし屋丸九」シリーズの七作目ですが、私はいまこのシリーズにはまっていて、七作目になってもまだ面白さが衰えていない。これこそオリジナル文庫大賞ですよ。これは高く評価したい。
北上 4点をつけた『覇王の譜』は?
編C 単発作品ではこれが抜けて面白い。将棋の対局を描くのは、なかなか難しいと思うんですが、それをなんなくクリアしている。ええと、もう1作、コメントをつけていいですか?
北上 なに?
編C 1点をつけた『マネーの魔術師』ですが、これ、ストーリーが全然進んでいないんですよ。それなのにここまで読ませるのはすげえなと。5点つけちゃおうかと迷ったことを付記しておきます。
北上 わかりました。次は?
編D 僕です。3点3点4点4点3点3点。『鯨の岬』と『マネーの魔術師』が最高の4点ですが、河﨑秋子さんはやっぱりうまい。
北上『マネーの魔術師』は?
編D これ、玄人好みの小説ですよね。
北上 ええと、次にいきましょう。
評C はい。3点2点4点4点1点3点。今回は『ずんだと神様』を基準に考えました。グルメと人情、小さなコミュニティーと疑似家族、主人公は若くない女性、ユーモアはないけどペーソスはある。これをオリジナル文庫の、特にシリーズものの一定の基準とするなら、『ずんだと神様』はそれをすべて満たしている。それよりも面白いものを4、下だなと思われるものを2、というふうに採点しました。
北上 なるほどね。次は?
編E はい、私です。
北上 ではまず点数から。
編E 5点1点5点2点1点3点。『覇王の譜』と『鯨の岬』についてはみなさんの評価に付け足すことがないので、ここでは『マネーの魔術師』について一言だけ。私は「巡査長真行寺弘道」シリーズが好きで、ずっと読んでいるんですが、それは、世の中をよくしたいという真行寺というキャラクターが好きだからなんですよ。ところがここには、その真行寺が出てこないんで。
評B 出てくるけどね。
編D 主人公じゃない。
編E そもそもスピンオフにした理由がわからない。
北上 もういいですか。
編E はい。
北上 それでは本日欠席の2人の点数とコメントを読みあげてください。
編A はい。まず編Fさんの点数は、3点4点3点4点5点3点。
北上 最高点をつけた『私たちは25歳で死んでしまう』のコメントは?
編A 「25歳で人類が死ぬ独特の世界観は既視感がないではないが、各短編から設定を少しずつ出して、子供をどうするか、同性愛、離婚など寓話として描き、現代を炙りだすという意欲がある」
北上 この人の前作『置き去りのふたり』も面白かったけど、それよりも遙かにうまくなっている。その点は評価したい。次は?
編A 評Dさんの点数は、5点2点5点1点1点2点。
北上 コメントをお願いします。
編A「駒を並べることがかろうじて出来る程度しかない知識の読者にもまったく問題がないほどおもしろい。将棋を指す場面は実はそれほど多くないのだが、どれも印象に残る。特に最後のライバルとの一戦は、スポーツで言うところのゾーンに入った感覚が描かれており、将棋にまったく関心のない読者にも感銘を与えるだろう。加えてサブキャラクターにも個性豊かな人物が多く、エンターテインメントとして非の打ちどころがない。これがオリジナル文庫としては今年のチャンピオンだろうと自信を持って推す」
北上 すごい賛辞だね。ええと、それではここまでの点数を集計してください。
編G ぼくがまだです! 
北上 おお、悪い悪い。では点数から。
編G 5点4点4点3点2点3点。『覇王の譜』はいまさらなんで、4点をつけた『俺たちは神じゃない』に一言。飛び下りるやつありましたよね。あの不条理さにしびれました。それとロマンチックなあとがきもいい(笑)。

オリジナル文庫大賞表2022.jpg
北上 それでは私の点数は、3点4点3点4点3点3点。つまり最高点は『俺たちは神じゃない』と『マネーの魔術師』の2作につけました。『俺たちは神じゃない』は緊迫した手術場面が素晴らしいし、遅れて現れる医者のキャラもよく、早く次作を読みたいと思うほど面白かった。『マネーの魔術師』は、割りと波のある作家の新作ですが、今回は久々に面白かった。どこまでが本当なのかわからないという風情があって、それもこの作家らしくていい。ということで、合計点を発表してください。
編A はい。48点35点42点34点30点34点です。『覇王の譜』がダントツですね。
編E 『鯨の岬』も微差ですよ。
編C 表題作はいいんだけど、もう一編が弱すぎませんか。
北上 そうだなあ。今年は『覇王の譜』が圧勝だね。2022年のオリジナル文庫大賞は、橋本長道『覇王の譜』に決定します!

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