1月12日(木)書評家4人の2016年解説文庫リスト

〔大森望〕

3月 『殊能将之 未発表短篇集』殊能将之/講談社#
   『ブロントメク!』マイクル・コーニイ/河出文庫※
   『深山の桜』神家正成/宝島社文庫
   『カエアンの聖衣』バリントン・J・ベイリー/ハヤカワ文庫SF※
5月 『書店ガール5』碧野圭/PHP文芸文庫
   『オービタル・クラウド』藤井太洋/ハヤカワ文庫JA
   『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』十市社/創元推理文庫
   『ステキのSはSFのS』池澤春菜/早川書房#
6月 『ヒポクラテスの誓い』中山七里/祥伝社文庫
   『アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選』大森望・日下三蔵編/創元SF文庫※
7月 『小松左京短編集 大森望セレクション』小松左京/角川文庫(電子書籍のみ)※
8月 『ハリー・オーガスト、15回目の人生 』クレア・ノース/雨海弘美訳/角川文庫
   『冒険の森へ4 超常能力者』集英社#
9月 『時間衝突【新版】』 バリントン・J・ベイリー/創元SF文庫※
   『地獄八景』田中啓文/河出文庫
   『死と呪いの島で、僕らは』雪富千晶紀/角川ホラー文庫
10月 『11/22/63』スティーヴン・キング/白石朗訳/文春文庫
   『警察庁最重要案件指定 靖國爆破を阻止せよ』八木圭一/宝島社文庫
   『ヴィジョンズ』大森望編/講談社※
   『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』スティーヴン・トライアス/中原尚哉訳/ハヤカワ文庫SF
11月  『ふたつの星とタイムマシン』畑野智美/集英社文庫
12月 『メフィストの漫画』喜国雅彦・国樹由香/講談社文庫

「ひとこと」
 全部で22本。自分の編纂書および訳書の解説(※印)が6本、単行本の解説が2本なので、純粋な文庫解説に限ると14本。2009年以降の推移は、12冊→13冊→14冊→13冊→15冊→10冊→15冊なので、ほぼ平年並みでした。いちばんたいへんだったのは『11/22/63』の再読かも......。

 そう言えば、北上次郎氏は、2018年に文庫版が出る北方謙三『岳飛伝 十七 星斗の章』の解説を、単行本全17巻を読み終えた時点でいちはやく書いていた──という話をご本人からこないだ聞いて(「だって文庫になるころには忘れてるから、また読み返すのたいへんだろ。17冊もあるんだぜ」)、なるほど、そうすればいいのかといたく感心したことでした。とはいえ、締切が2年以上も先の原稿を書ける人は、人間としてどこかおかしいのではないかと思ったり。わたしにはムリです。



〔杉江松恋〕

1月 『バッドカンパニー』深町秋生(集英社文庫)
   『チップス先生さようなら』ジェイムズ・ヒルトン/白石朗訳(新潮文庫)
2月 『心配しないでモンスター』平安寿子(幻冬舎文庫)
   『罪悪』フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一訳(創元推理文庫)
3月 『このたびはとんだことで』桜庭一樹(文春文庫)
   『天鬼越』北森鴻・浅野里沙子(新潮文庫)
4月 『ペテロの葬列』宮部みゆき(文春文庫)
6月 『2016年短篇ベストコレクション:現代の小説』日本文藝家協会編(徳間文庫)
   『お伊勢ものがたり』梶よう子(集英社文庫)
7月 『拾った女』チャールズ・ウィルフォード/浜野アキオ訳(扶桑社ミステリー)
8月 『忘れ物が届きます』大崎梢(光文社文庫)
9月 『鏡の花』道尾秀介(集英社文庫)
   『微睡みの海』熊谷達也(角川文庫)
   『浮かんだ男』シャーロット・マクラウド/戸田早紀訳(創元推理文庫)
10月 『猫に知られるなかれ』深町秋生(集英社文庫)
11月 『東京ダンジョン』福田和代(PHP文芸文庫)
   『愚者の毒』宇佐美まこと(祥伝社文庫)
12月 『細い線』エドワード・アタイヤ/真崎義博訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)

「ひとこと」
 毎月1冊以上、18冊の解説を2016年には書きました。22本書いた2015年からはやや減、目標としている海外物の比率は5/18で、2015年が6/22ですので横ばいという印象です。いつもだと10~12月にどばっと依頼が集中するのですが、今年はそれがなかったので前年よりも少なくなったような気がします。

 1年で書いた中で大変だったのは、ネタばらしせずに書くのが難しい『拾った女』、調べれば調べるほど書きたいことが増えた『チップス先生さようなら』、蓮丈那智シリーズの最終作でしかも作者が死亡しているということもあって力の入った『天鬼越』の3冊でしょうか。あ、『細い線』も資料が見つからなくて苦労しました。2016年はまだ余裕があったように思います。あと5本ぐらいは引き受けても大丈夫だったかな。



〔池上冬樹〕

1月 『沈黙の町で』奥田英朗/朝日文庫
2月 『ガッツン!』伊集院静/双葉文庫
3月 『さよなら的レボリューション 再見阿良』東山彰良/徳間文庫
   『タイド』鈴木光司/角川ホラー文庫
4月 『復讐の花期 君に白い羽根を返せ』森村誠一/集英社文庫
   『ひぐらしふる』彩坂美月/幻冬舎文庫
   『冒険の森へ・傑作小説大全 第15巻/波浪の咆哮』/集英社
6月 『地上最後の刑事』ベン・H・ウィンター/ハヤカワ文庫
   『冒険の森へ・傑作小説大全 第10巻/危険な旅路』/集英社
   『寂しい丘で狩りをする』辻原登/講談社文庫
   『探偵竹花・潜入調査』藤田宜永/光文社文庫
   『壺中の回廊』松井今朝子/集英社文庫
8月 『ギフテッド』山田宗樹/幻冬舎文庫
   『下戸は勘定に入れません』西澤保彦/中公文庫
   『まつりのあと』花房観音/光文社文庫
9月 『冒険の森へ・傑作小説大全 第3巻/背徳の仔ら』/集英社
   『どうしてこんなところに』桜井鈴茂/双葉文庫
10月 『傷だらけのカミーユ』ピエール・ルメートル/文春文庫
    『流鶯 吉原裏同心(二十五)』佐伯泰英/光文社文庫
    『われらが背きし者』ジョン・ル・カレ/岩波現代文庫
    『三日月の花』(『恥も外聞もなく売名す』改題)中路啓太/中公文庫
    『昨日みた夢 口入れ屋おふく』宇江佐真理/角川文庫
11月 『神様が降りてくる』白川道/新潮文庫
12月 『水鏡推理Ⅴ ニュークリアフュージョン』松岡圭祐/講談社文庫
    『棟居刑事の殺人の隙間』森村誠一/中公文庫
    『岳飛伝二 飛流の章』北方謙三/集英社文庫
    『深海の人魚』森村誠一/幻冬舎文庫

「ひとこと」
 数えたら27冊も書いている。年間27冊は記録だと思う。10月に担当本が6冊出ましたが、解説を書いていた9月は死ぬ思いでした。来年以降、これを上回ることはないでしょう。多くても年間20冊くらいがいい。

 文庫解説は選んでいるので、みなお薦めですが、作品の完成度・傑作度で選ぶなら、ベスト3は、『傷だらけのカミーユ』『寂しい丘で狩りをする』『沈黙の町
で』。解説としてうまく書けたベスト3は(自分でいうのもなんですが)、『流鶯』『寂しい丘で狩りをする』『ガッツン!』。山形人として愛着があるのが山形を舞台にした『ひぐらしふる』、本格ミステリ&歌舞伎ファンなら『壺中の回廊』(これ傑作ですよ)、本格&ファンタジー&酒好きなら『下戸は勘定に入れません』、ロードノベル好きなら『どうしてこんなところに』をお読みください。そのほかでは、『昨日みた夢』もお薦め。珍しく僕が解説を書かせてくれと版元に頼み込んだものです(版元に頼み込んだのは2冊目)。これもぜひお読みください。

 そういう個人的な感情を抜きにして、必読なのは(27冊みなそうなのだが、特に一冊を選ぶなら)『冒険の森へ・傑作小説大全 第3巻/背徳の仔ら』。収録作品がみないいのだけれど(大藪春彦の名作も、立原正秋や野坂昭如の中篇もまた)、なかでも黒岩重吾『裸の背徳者』がダントツ。戦争文学の隠れた名作でしょう。恥ずかしながめて初めて読み、深く感動しました。



〔北上次郎〕

1月 『犬の証言 ご隠居さん3』野口卓(文春文庫)
2月 『記者の報い』松原耕二(文春文庫)
   『ウィメンズマラソン』坂井希久子(ハルキ文庫)
3月 『刃鉄の人』辻堂魁(角川文庫)
   『大地の牙 満州國演義6』船戸与一(新潮文庫)
4月 『雪の鉄樹』遠田潤子(光文社文庫)
   『作家の履歴書 21人の人気作家が語るプロになるための方法』(角川文庫)
6月 『あの日、僕は旅に出た』蔵前仁一(幻冬舎文庫)
   『冒険の森へ9 個人と国家』(集英社)
7月 『手蹟指南所「薫風堂」』野口卓(角川文庫)
8月 『正義のセ 1』阿川佐和子(角川文庫)
9月 『檜山兄弟』吉川英治(角川文庫)
   『手のひらの音符』藤岡陽子(新潮文庫)
   『オーディンの末裔』ハラルド・ギルバート/酒寄進一訳(集英社文庫)
11月 『ありふれた祈り』ウィリアム・ケント・クルーガー/宇佐川晶子訳(ハヤカワ文庫)
   『椎名誠超常小説ベストセレクション』(角川文庫)
12月 『感傷コンパス』多島斗志之(角川文庫)
   『神の子』薬丸岳(光文社文庫)

「ひとこと」
 2016年は全部で18点だが、このうち『冒険の森へ 9』は単行本。『作家の履歴書』は単行本時に書いた解説がそのまま文庫にも使われたので、新たに書いた純粋な文庫解説は全部で16本。例年は10本から12本なので、いつもよりも少し多い。理想は毎月1本で、合計12本。これくらいのペースがいい。