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8月18日(火)

  • 剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む
  • 『剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む』
    髙橋 大輔
    朝日新聞出版
    1,870円(税込)
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 本日も激暑。

『絶景本棚2』の見本を持って取次店さんを廻る。といってもトーハンさんも郵送でいいと教えられたので、トーハンさん、日販さん、楽天さんの3社は廻ることもなく、市ヶ谷の地方小出版流通センターさんだけ訪問することに。前回の新刊見本時も書いたけれど、まさかこんなことが我が出版営業人生で起こるとは思いもしなかった。コロナによって変わったことランキング圧倒的第1位。

 しかし地方小出版流通センターさんで担当のKさんとゆっくりいろんなことを話していると、ああ、これが生きてるってことだよなあと改めて思う。

 毎日人と会い、人と出会い、有益なことも、無駄なことも話し、少し理解して、少し疑問に思って、いい話もあったり、悪い話もあったりして、歩きながら考えて、また別の人に会って、異なる考えを聞いて、心穏やかになったり、落ち込んだりして、夜寝る前にそのことを思い出したり、あるいはすっかり忘れたり、5年後とかにふとその会話が頭に浮かんだりして、そうやって過ごしていた時間にこそ、私は生きていたのだ。

 久しぶりに生きた心地がして地方小出版流通センターさんをお暇すると、外は暑く死んだ心地に。スマホでメールを確認すると、事務の浜田から書店さんから『本の雑誌の坪内祐三』の注文が入っていると連絡あり。本日は浜田のほかに経理の小林、編集の松村と出社しており、会社が密になっているため立ち寄る予定はなかったのだけれど、一旦会社に顔を出し、直納することにする。あまりの暑さにハーゲンダッツのアイスクリームを購入し、差し入れす。人望は甘いもので築かれる。

 某書店さんに直納。コロナ禍の出版業界はそれでも前年超えの売上!なんて話を伺うも都心の本屋さんはこれまた我が営業人生で見たことのない空きっぷりで心配になってしまう。特にテレワークに対応できるような企業が多い街はびっくりするほど人出が減っている。それに反して沿線の街は大変混雑していたりして、人の流れが完全に変わってしまっている。ならばそちらにも本を置いてもらわなければならないのだけど...。

 夕方、八重洲ブックセンターさんで打ち合わせ。思い起こせば30年前の今頃の季節、私は突如、本を読み始め、そのあまりの面白さに興奮し、流れに流されるように通っていた予備校を退学し大学進学をやめ、フロムエーをコンビニで買い求め、本の仕事をしようとこの八重洲ブックセンターでアルバイトをはじめたのだった。

 あのときここで雇ってもらえなければ今の私はないし、今の私ができあがったのはこの八重洲ブックセンターで一冊の本をあふれでる情熱をかけて売っていた先輩たちがいたからこそなのであった。

 たった一年半のアルバイトだったけれど、あの一年半ほど真剣に本と向き合っている人たちに囲まれていたことはない。

 そういう意味では本日打ち合わせでKさんが「私はここで働いている人達を八重洲人と呼んでいるんですけど」と話していたが、私も紛うことなき"八重洲人"なのであった。いや"八重洲人"でありたいと願いながらその後の28年本と向き合ってきたのだった。

『剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む』髙橋大輔(朝日新聞出版)を買って帰宅。

8月11日(月)

  • 「山奥ニート」やってます。
  • 『「山奥ニート」やってます。』
    石井 あらた
    光文社
    1,200円(税込)
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 激暑が予想されていたので7時前に出社するも、それでも額や首筋を汗が流れ落ち、何度もハンカチで拭う。

 それにしてもコロナ前の昨年まではこんな中でも午後になれば外回りに出かけていたわけで、そういう意味では会社にたどり着いてしまえばクーラーの中で一日過ごせるというのは、避暑地の別荘で暮らしているようなものだ。営業という仕事に着いて28年、外が40度を越えて灼熱だろうがこれほど過ごしやすい夏はない。

「本の雑誌」9月号搬入のため、事務の浜田も出社。

 滞りなく搬入となるが、会社というところはどうしてこうも仕事が湧いてくるのだろうか。自動的に無尽蔵に仕事が増殖する機械か何かが埋め込まれているか、あるいは会社のパソコンの中に仕事がどんどん増えるウィルスが仕込まれているのかもしれない。

 たぶんそのウイルスの名前は「安請け合い2.0」という名のような気がするが、本日当初の予定では、9月から来年1月にかけで毎月のように刊行することになる単行本のゲラや原稿を読み進める予定だったのだが、とある荷物が届いた瞬間に我が仕事の工程表は一気に覆り、午後の大半の時間を約400通の郵便物の封入に勤しむこととなる。

 黙々と宛名ラベルを貼りながら、週末に読んだ石井あらた『「山奥ニート」やってます。』(光文社)を思い出す。

 ニートだった青年が和歌山の山奥にある元学校で各地から集まった同様に働きたくない人たちと共同生活する様子が綴られているのだけれど、彼は正規雇用されそうになったときに、週1勤務でよければと条件をだし、先方に苦笑いされるのであった。

 そうなのだ。仕事なんて週1くらいで充分なのではないか。人間の身体が本来それくらいにしか対応できないようになっていたのではないか。それがなぜにいつの間にか週に5日も働かなければならないと決められ、そして気づけばそれに従順に従っていたのだろうか。私は高校にだって週に2回、多くて3回くらいしか通っていなかったのに、18歳で働き出した瞬間から遅刻も早退ももちろん欠勤もせず、週に5日なんの疑いもなく働き出したのであった。

 なぜなんだろうか。あの頃はカヌーを買って日本中を旅したいという想いがあったからかもしれないが、それは要するにお金が欲しかったわけで、お金が欲しいというのはお金のかかる生活をしているわけで、私はもう書庫が欲しいという以外物欲はほとんどなく、そうなるとお金は本来DAZNの月額1980円だけしかからないはずで、それならば週に5日も働く必要なぞないはずではないか。

 それなのにあろうことかテレワークが始まって以来、いやスマホが開発されて以来、休日も関係なくメールが届き、週5どころか週7日ほとんど働いている状態なのであった。

 そんな状況から抜け出す方法が『「山奥ニート」やってます。』には書かれていて、私はすっかり夢中になって読んでしまった。

 なんて考えていても子どもの頃から父親の町工場で製造ラインに入って組みつけしてお小遣いを稼ぎ、就職してからはくる日もくる日も雑用と真剣に向き合ってきた私は、手を動かすことをやめず、どうにか郵便局が開いている時間に封入作業を終え、郵便物を引き渡すことに無事成功する。

 帰りがけに千駄木往来堂書店さんに『マルジナリアでつかまえて』の追加注文分を直納する。直納最高気温日本記録をクリアし、金メダルを獲得して、帰宅する。

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