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4月28日(水)

 高校2年になった息子が、昨日からとあるサッカースクールでボランティアコーチを始めた。そのサッカースクールは、息子が小学校6年の1月から3月までお世話になったサッカースクールだ。

 なぜにそんな中途半端な期間、そのサッカースクールに通ったのかというと、息子が小1から所属していたサッカー少年団のパワハラに耐え切れなくなったからだ。あと3ヶ月で卒団というところだったが、このままだとサッカーを嫌いになってしまうかもしれないと息子と話して退団を決意したのだ。そうして見つけたのがこのサッカースクールだった。

 夜、照明に照らされたグラウンドで、いろんなユニフォームを着た子たちがボールを蹴っていた。少年団と違ったのはグラウンドに響く声だった。少年団では「そうじゃねえだろ」とか「バーカ」という怒鳴り声が響いていたのが、このサッカースクールでは、「ナイス!」「グッド!」という声と共に拍手の音が聞こえた。

 そしてなにより一番違ったのは息子の表情とプレーだった。ニコニコ顔でボール蹴り、ドリブルでは今まで一度もやったことのないマルセイユ・ルーレットもし、サッカーを全身で楽しんでいた。もちろんそうしたプレーにコーチの人たちは、「ナイス!」と大きな声をかけ、褒めてくれていた。

 そのサッカースクールは息子の通う高校からほど近く、毎年サッカー部のメンバー数人が、ボランティアに行くことになっているらしい。息子は自ら手を上げ、昨日がその初日だった。

 息子がスクールに顔を出すと、コーチが驚き顔で迎え入れてくれたらしい。そうして息子に向かってこう話したという。

「杉江くんほどサッカーを楽しそうにやってた子は見たことなかったんだよ。だから今回来てくれてほんとうにうれしい。みんなが杉江くんみたいにサッカーを楽しくできるよう力を貸してね」

 コーチとがっちり握手をした息子の前には小学一年生のサッカー少年たちがずらりと並んでいたらしい。息子はいったい彼らにどんな声をかけたのだろうか。

4月27日(火)

「ゆったり時間帯(20ポイント)」で出社。

 すぐにアルパカ内田さんがやってきて、6月刊行『10代のための本の雑誌(仮)』の原稿の打ち合わせ。内田さんには「本の買い方・選び方」の執筆を依頼しているので、本屋さんの利用の仕方や帯やPOPや解説を読んで本選びのヒントを得る方法などを書いてもらうのだ。

 内田さんとの打ち合わせを終えた後、ちょうど松村も出社していたので、今度はこちらも6月刊行の『社史・本の雑誌』に収録する「花の同期三人組座談会」を録る。

 今頃になって気づいたのだが、編集の松村、事務の浜田、そして私は共に97年に入社した同期だったわけで、その3人で本の雑誌45年のうちの半分、23年を振り返ろうという試み。浜田はともかく、松村とは改まって話したことがなかったので、そんなことを考えていたのかと驚くことしきり。

 平松洋子さんの連載「そばですよ」でもお世話になった「肥後一文字や」にて天ぷらそばを食べたのち会社に戻ると、編集の高野がZoomを繋ぎ、これまた『社史・本の雑誌』に収録する目黒考二さん、吉田伸子さん、浜本による「本の雑誌躍動記座談会」の収録を始めていたので、脇で聞きながら気になっていたことを質問をする。

 そうこうしていると14時となり、予定どおりに校正・校閲の鴎来堂の柳下恭平さんが来社。Zoom収録の脇で、「本の雑誌」7月号の特集、「笑って許して誤植ザワールド」のインタビュー。柳下さんの話はいつ聞いても論理的でわかりやすく、しかも思考が深く鋭いので、1時間があっという間。

 それが終わってもまだ「本の雑誌躍動記座談会」は続いていたので、またそちらに席を戻し、結局4時まで「本の雑誌」の前半分22年の話を聞く。

 そうしてやっと本日のデスクワークに勤しみ、18時に退社。丸善お茶の水店に立ち寄ると沢田さんがいらしたのでしばし立ち話。沢田さんが自作された「最新刊」やランキング表示のプレートやフェアの話で盛り上がる。

 店を出て、充足感に包まれる。ああ、自分はこうして書店員さんと話すことが本の雑誌23年の日々のほとんどすべてだったのだ、とちょっと涙がこみ上げてくる。

4月26日(月)

 3度めの緊急事態宣言が出ての初の月曜日。果たして人出はどうなっているだろうかと思いつつ出勤してみると、いつも通りの混雑ぶりで、もはや「緊急」が「通常」になってしまったようだ...という私も通勤しているわけで、自分の勤務体制も見直さねばならない。

 先週末の都の発表時には休業要請の対象に入っていた本屋さんもどうやら対象から外れたようで、神保町や御茶ノ水の本屋さんは営業しておりほっとする。しかしなぜか第一回めの緊急事態宣言と同じく古本屋さんは休業の対象になっており、靖国通り沿いのお店がほとんどシャッターを下ろした異様な光景。

 古本屋さんの開いてない神保町は神保町にあらずと歩いていると@ワンダーさんは通常営業。外の棚を眺めていると山口瞳の単行本版〈男性自身〉シリーズの『隠居志願』がささっているではないか。持っていない2冊のうち1冊。すぐさま購入。シリーズ完全蒐集まで残り一冊となる。

 7月刊行予定の鈴木輝一郎『印税稼いで三十年』(「本の雑誌」連載「生き残れ!燃える作家年代記」に倍増の書き下ろし)の校正校閲を通したゲラが戻ってきたので、それを読み込む。

 この瞬間は本作りにおいてかなり好きな瞬間。校正という特殊な目を通じて読まれた原稿に記された鉛筆書きは、単に間違いの指摘だけでなく、言葉や文章やその他物事に関するかなり豊かな教養になっている。口を開けたり、膝を打ったり、感嘆の声をあげながらゆっくりゆっくりゲラをめくる。

 午後、『本を売る技術』の矢部潤子さんが神保町にやってきたのでお茶。相変わらず本屋さんの仕事についての話は尽きない。

 夕方、オークスブックセンター南柏店さんにお届けもの。

 帰宅後、DAZNにて昨日行われた浦和レッズ対大分トリニータの試合を再視聴。何度見ても胸が熱くなる。そして本日、新外国人ユンカーが合流。白馬に乗って埼玉スタジアムを一周して欲しいほどの美男子。浦和レッズの未来は明るいのだ。

4月22日(木)

  • 心が震えるか、否か。
  • 『心が震えるか、否か。』
    香川 真司,ミムラ ユウスケ
    幻冬舎
    1,760円(税込)
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  • ヤマケイ文庫 完本 マタギ 矛盾なき労働と食文化
  • 『ヤマケイ文庫 完本 マタギ 矛盾なき労働と食文化』
    田中 康弘
    山と渓谷社
    1,045円(税込)
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 昨夜、娘から「パパさ、JRのポイントに登録してる? パパが会社行く時間て早かったり遅かったりするからポイント貯まるよ」と言い出し、そもそも、JRポイントの存在すら知らなかったので、娘からレクチャーを受ける。

 確かに娘がいうとおり私が通勤で電車に乗る時間は「早起き時間帯(15ポイント還元)」と「ゆったり時間帯(20ポイント)」にピッタリハマるようで、娘曰く年間で5,6000円(ポイント)になるという。

「でもさ、パパ、登録めんどくせえとか絶対言うよね」

 20年も一緒に暮らしているとなんでもお見通しとなるらしい。ちょうどそれを思っていたのだ。

 私がやってあげるよと言ってJRのホームページから何やらひょいひょいと登録してくれ、私も明日からポイントが貯まるらしい。

 そのときちょうど「辺境チャンネル」の相棒であるワタルさんから連絡があり、JRのポイントと娘の自慢をしたところ、「杉江さん、それってIT介護っていうんですよ」と指摘され、納得。確かに最近、ネットやパソコンのことはすべて娘に教わるようになっているのだ。

 本日は「ゆったり時間帯(20ポイント)」で出社し、昨日作製した書店向けDMの封入作業に勤しむ。一人でやっていたら2日はかかりそうな作業だったので、助っ人(アルバイト)の鈴木くんを呼び出し、一緒にオリオリツメツメしてもらう。

 思えば昨年のコロナ感染拡大以降、助っ人の出社を取りやめており、そしてほとんどの助っ人がこの春大学卒業となってしまったのだ。

 例年であればそこで新規の助っ人を募集していたのだけれど、コロナの今後の状況もつかめず、また助っ人の仕事を社員で賄うことにも慣れてしまい(その分仕事はずっと滞るのだが)、最後に残った助っ人は鈴木くんただ一人なのだった。

 まさしく、ラストサムライならぬ、ラスト助っ人! まさかこんなことで本の雑誌の長年の伝統が尽き果てるとは。

 ラスト助っ人の奮闘により、夕方にはDMを投函。帰りはポイントがつかないので「まったり時間帯(0ポイント)」で帰宅しようと会社を出たところで、息子から「自転車がパンクしちゃった」とLINEが届く。確か今日は部活の試合で遠征しているはずで、その高校の近くの自転車さんを探し、すぐ行くよう返事をする。

 そんなことお前もスマホを持っているだから自分でしろよとイライラしつつ、駅に入るとなんと京浜東北線が人身事故で運転とりやめとなっている。復帰まで30分くらいかかる見通しとのことで、待っているのも面倒なので途中まで歩いて帰ることにする。

 そうして歩き出してすぐ、今度は母親から携帯に電話が入る。「あのさ、給湯器が壊れちゃったみたいでお風呂のお湯がでないんだよ。どうにかしてくれ」もしかしたら私の携帯は一族郎党からなんでも屋さんとして登録されているのかもしれない。そろそろその登録を娘に変えてくれないだろうか。

 その手配を終えると疲労困憊。気分転換に上野の明正堂さんで本を購入。

香川真司『心が震えるか、否か。』(幻冬舎)
田中康弘『完本 マタギ 矛盾なき労働と食文化』(ヤマケイ文庫)

 運転再開した京浜東北線に乗って帰宅する。

4月21日(水)

  • 絶滅魚クニマスの発見: 私たちは「この種」から何を学ぶか (新潮選書)
  • 『絶滅魚クニマスの発見: 私たちは「この種」から何を学ぶか (新潮選書)』
    中坊 徹次
    新潮社
    1,870円(税込)
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 妙蓮寺の本屋・生活綴方さんで購入した吉田亮人『しゃにむに写真家』(亜紀書房)読了。

 この世の中に表現者である写真家に、なりたくなくてなる人がいるのだろうか?

 いるんだなこれが......。それがこの『しゃにむに写真家』の著者吉田亮人さんで、何せ写真家になった経緯というのが、ある晩奥さんから話があると言われ、離婚を切り出されるのかとヒヤヒヤしていたら、なんとこんな安定した暮らしをしてても面白くない!どちらかが仕事を辞めてやりたいことをやり困難な道を歩くべきだと詰め寄られるのだった。

 そうして吉田さんは満足していた教師の仕事を辞めることとなり、何をやればいいんだと悩んだ末に学生時代に少し興味を持って撮っていた写真の世界に足を踏み入れていく。

 だからこそ、全編に渡って表現ってなに? ということを著者は実直に考え続けていく。写真は何のためにあるのか? 撮った写真はどうするのがベストなのか? 写真集を作るならどんな本作りをするべきか?

 本としては自死してしまった従兄弟の話から始まり、その家族模様や自身の生い立ちなどが語られ、生きるとは? 人生とは? と色々と考えさせられるのだけれど、やはり同じように半ば仕事として表現に携わっている身としては、この吉田さんの表現に対する問いかけや考えに激しく心を揺さぶられるのだった。

「あなたは何で本を作っているの? どうして本を売っているの?」

★   ★   ★

 ちょうどその買い求めた本屋・生活綴方さんでやっているラジオ「本こたラジオ」第5回が配信される。直納に伺ったままゲスト出演させただいたのが、かなり赤裸々に今仕事しながら感じてること思ってること考えてることを話せたような気がする。最近はカッコつけるのをやめて、というかカッコつける体力がなくなり、ダダ漏れになりつつある。

 終日、書店さん向けDM作りに勤しむ。

 帰りに本屋さんを彷徨いていると、中坊徹次『絶滅魚クニマスの発見』(新潮選書)を発見。これは絶対に好きなやつ!と即購入する。

4月20日(火)

 昨夜、息子が学校から帰ってくると、通学に使っている自転車がなんだかおかしいという。調べてみると変速機が後輪にあたって擦れており、タイヤを外してみたり、チェーンを付け直してみたりしたところ、さらに状況はひどくなり、真っ黒になった手をお手上げしたのだった。

 今朝になって夜のうちに小人が直してくれていた、なんてことはなく、息子には私の自転車で学校に行かせ、私は息子の自転車の後輪を持ち上げ転がしながら、「修理大好き」の看板を掲げる自転車屋さんに向かったのだった。

 その自転車屋さんというのは、いつぞやこの日記にも書いたことがあるような気がするのだけれど、ずっと昔娘が小さかった時に公園で遊んでいて自転車の鍵を失くしてしまい、鍵のかかった自転車をひとり引きずり帰ってきたことがあった。

 娘は小さな身体をさらに小さくして、「鍵失くしちゃった」と報告してきたのだけれど、娘の自転車を見たら、遠くからずっと引きずって来たせいで、後輪のタイヤがすっかり擦り切れていたのだ。

 その自転車を持って、「修理大好き」を掲げる自転車屋さんを尋ねると、そこには作業着を着たおじさんがいて、「おお、これは大変だったよ。お父さんもここまで持ち上げて来るの大変だったでしょう。小学生の娘さんならもっと大変だよ。よくがんばったなあ」とつぶやいたのだった。

 あっという間にタイヤの交換は終わり、そうして店に並ぶ自転車を指差しながら「今度買うときはさ、量販店であんまり安いのじゃなくて、ちゃんとこさえられた自転車買ってね。タイヤもさ、全然保ちが違うから」と笑うのだった。

 娘に買い与えた自転車はまさしく量販店で一番安い自転車だったので恥ずかしくなりつつも、ついつい聞きたがりの性格が出て、「そんなに違うもんですか?」と質問したところから、おじさんはそれぞれの自転車のパーツを指差しながら、そのメーカーと工場の場所、部品の特徴などをとくとくと語り出したのだった。

 息子がママチャリでなく、ロードバイクが欲しいと言い出したのは、2年前の中学3年生のときだった。部活の遠征や塾に通うのに自転車に乗ることが増え、おそらく友達はみなギアがついたロードバイクに乗っていたのだろう。

 お年玉があるから自分で買うという息子に私はひとつの条件を出した。それがこの自転車屋さんで買うことだった。

 額を流れ落ちる汗を拭くこともできず、上着を着ていることを後悔し始めた頃、やっと自転車屋さんにたどり着く。店内を覗き込むと、床を掃除していたおじさんが「どうした?」と店を出て、自転車を覗き込んだ。変速機がタイヤに当たることを話すと、「ああ、どこかにぶつけるか倒れるかしてディレイラーハンガーが曲がっちゃったんだよ」と言って、すぐに修理を始めた。

 あっという間だった。何やら棒状の道具を取り付けくくっと力を加えるとタイヤはくるくると快調に回りだしたのだ。まるで魔法を見ているようだった。

 自転車屋のおじさんは、「とりあえずこれで大丈夫だけど、心配だから部品取り寄せておくね。届いたら電話するから」といって、今日の修理代は受け取らなかった。

 足の届かぬ自転車に乗り、ペダルに力を入れる。ハンドルについたレバーを押すと、変速機が音を立てギアを変える。そういえば私は、ああいう人になりたかったんだ。

4月19日(月)

  • 本の雑誌455号2021年5月号
  • 『本の雑誌455号2021年5月号』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
    825円(税込)
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 8時に出社。4月に入ってから電車はもう超満員で、これで通勤していたらさすがにやばいだろうと早朝出社に切り替えたものの、その早朝もそれなりに混んでおり、なかなかテレワークに移行できない私は浜田に習って自転車で通勤するか、あるいはランニングで出社するべきなのかもしれない。片道25キロ、往復50キロ。走れないことはないが、仕事はできない。

 本屋大賞も終わり、やっと普通の出版社のヒトに戻る。

 コピー機の前でコピーが終わるのを待っていると、事務の浜田が電話にで、「ありがとうございます! はい、杉江が持っていきますので」と答えている。また電話が鳴って浜田が出ると、「ありがとうございます! 杉江が待っていきます」と元気に答えている。早くコピーが終わらないだろうかとじりじりしていると編集の高野がやってきて、「金曜日に注文受けたんですけど、杉江さんが持っていくって答えておきました」とにこにこ顔で報告してくる。

 本の雑誌社が取引している宅配便は、佐川急便とヤマト運輸と日本郵便くらい。どうやら新しい宅配業者と取引を開始したらしい。杉江運送? それともスギエエキスプレスとか? そうこうしているうちに私の机の上に伝票とともに「本の雑誌」5月号がどんどん積まれていく。どうやら私の机が集荷場だったらしい。

 というわけで、午後から鼻歌交じりで直納に勤しむ。

 売れてうれしいはないちもんめ
 届けて幸せはないちもんめ
 となりの営業マンちょっと来ておくれ
 本がないから行かれない
 倉庫からでいいからちょっと来ておくれ
 重版未定だから行かれない
 机の下の在庫でいいからちょっと来ておくれ
 どうしてあるのを知ってるの
 あの本がほしい
 あの本じゃわからん
 この本がほしい
 この本じゃわからん
 直納しよう、そうしよう

4月5日(月)

 この一年ほど高野秀行さんのオンラインイベント「辺境チャンネル」をともに企画し運営している渡社長とは、日々のメッセンジャーが30通40通を超えるほど熱愛発覚状態なのだけれど、その渡社長から何もかも用意周到にして前日までにはすべてのことを終えている私に、「杉江さんはなんでそんないつも心配症なんですか? 失敗に対する恐怖? 自尊心? 子供の頃のトラウマ?」と真顔で訊かれたのは、つい先日のことだった。

 自身そんなことはあまり考えたことなく、子供の頃から夏休みの宿題は7月中に終わらせ、すっきりした気持ちで残り一ヶ月夏休みを思い切り満喫していたので、性分としかいいようがないのだが、まあそうやって前もって準備することで失敗することが限りなく減り、だからこそ渡社長のいう「失敗に対する恐怖」がいつも失敗する人に比べたら増大し、さらに準備を執拗にするという好循環が生まれているのではないかと答えたのであった。

 しかしそうは答えたものの、よくよく考えてみれば、私は確かに失敗を極度に恐れており、なぜそんなに恐れるのかといえば、やはり心のどこかで仕事ができる人間と思われたい、あるいは人から叱られたくないという気持ちがかなりあるのではないかと思い至ったのである。

 社員6人で異動も昇進も勤務評価すらなく、しかもほぼ全員本屋さんに並ぶ新刊には興味津々なのに他人にはまったく無関心という人たちに囲まれながらも、こうして他者の視線や評価を気にして生きてしまうのが人間という生き物なのだろうか。

 まあそれはさておき、失敗しないで過ごす最たる術は、新たなことにチャレンジせず、勝負することなく昨日と同じ今日を繰り返すことだろう。サッカーでいえば1対1でまったく仕掛けず、バックパスしているような人生だ。

 振り返ればここ数年、私の人生はバックパスばかりしていたような気がしてきたので、本日、朝、8時に出社すると「チャレンジ! チャレンジ!! チャレンジ!!! 仕掛けろ杉江!」と段ボールの切れ端にマジックで書き出し、壁に貼り付けたのだった。

 遅れて出社してきた浜田がその野球チームのスローガンのようなポスターを見て目を丸くしていたので、浜田の分として「おかわり! おかわり!! おかわり!!! 飲め飲め浜田」というのも貼ってあげた。

 出版社の社員がチャレンジすることといったら何か? それはもちろん本を出すこと、売ることであり、その手前には企画があり、営業があるわけだが、一気に企画書を書き上げ各所に送り、単行本の企画書を送っていた沢野さんから電話あり、また先日デザイナーさんに入稿していた鈴木輝一郎さんの単行本の原稿もレイアウトが済んでゲラがでてきたり、書籍化打診していた原稿をまとめたりしているうちにすっかり日が暮れて夕方になっていたのであった。

 ちなみに渡社長は、何事も当日に一気にやり進めるという性分らしい。それで毎回失敗するから失敗が気にならなくなったそうだ。

3月31日(水)

 8時30分に出社。電車は混んでいる。コロナよりも優先される年度末、なのだろうか。事務の浜田は本日テレワーク。昨日ヤクルトスワローズが今季初勝利となったので、「一押くん」を10押くらいしちゃったのだろうか。

 終日電話番ということで、落ち着いてデスクワーク。

 娘が面白かったというので観た映画「騙し絵の牙」が娘の言う通り面白く、出版業界が舞台になっているのでおいおいとならないか心配だったのだが、リアルと物語が絶妙なバランスで漫画『編集王』みたいにのめり込み、笑って泣いて心震わせ、仕事へのモチベーションが急上昇したのであった。やはり私たちは「おもしろい」と感じることを大切にしなければならない。

 一昨日会った某出版社の某編集長は、編集者にとってまず大切なことは「フットワークの軽さと惚れる力」と言っていた。「惚れる力」とはすなわち「おもしろい」と感じることだろう。

 そうして映画「騙し絵の牙」、何よりも本屋さんの描き方が素晴らしいのだ。そう多く語られるわけではないのだれけど、何気なく発せられる本屋さんへのセリフやそこでのやりとりが胸を熱くさせるのであった。

 しかも主人公のひとりの実家は本屋さんであり、その実家である高野書店は、我らが行田の忍書房さんで撮影されているのであった。そのシーンが映るたびに何やら忍書房さんにいるような気がし、ついつい背景に映り込む素晴らしい品揃えの本棚に目が奪われてしまう。

 御茶ノ水の丸善の沢田さんから電話。提案していたフェアを採用いただく。うれしい。

 今日はJリーグの移籍期間締め切りが迫るなか、我が浦和レッズにノルウェーリーグ得点王やブラジルのセカンドストライカーやその他噂になっている外国人選手が入団するのかどうか気が気でなく、浜田の10押どころか、浦和レッズの公式サイトを500押くらいしてしまったのではなかろうか。来るのか来ないのか、どうなるのか。

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