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9月29日(水)PayPayでまとめ買い

 直納で伺った本屋さんで店長さんと話していると、小学生の女の子を連れたお母さんがやってきて、店長さんに問い合わせる。

「すみません。PayPayの20%キャンペーンてやってますか?」

 店長さんは「はい、ご利用できます」と対応したのち、「上限1000円までなので、5000円のお買い上げまでとなりますね」と付け加えた。

 お母さんはそれに頷くと、娘さんとともに『鬼滅の刃』を5000円になるまでの巻数をレジに渡し、PayPayで支払っていった。

 PayPayのキャンペーンに合わせて新刊を出す日がくるかしら。

9月27日(月)まったく微動だにしないのも在庫ならば、あっという間に消えてなくなるのも在庫なのだった

 9時に出社。すでに編集の高野が出社しており、品切れ期間中に届いていた読者からの直接注文分の出荷準備をしている。本日、『10代のための読書地図』の重版(3刷)ができあがってくるので、届き次第発送するのであった。彼女は編集者なのだけれど出荷作業が大好きなのだ。ありがたいかぎり。

 週末に届いていたFAXを確認するも、書店さんから期待していたほどの注文は届いておらず。これは嵐の前の静けさなのか、それとも金曜日だけであさイチ台風は熱帯低気圧に変わり、嵐が過ぎ去ってしまったのかしばし頭を悩ませる。

 たいていのサッカーのサポーターがそうであるように、私は何度もスタジアムで残酷なまでに期待を裏切られてきており、3対0から大逆転で敗戦をきすとか後半ロスタイムに逆転ゴールを決められるなど悲劇の目撃者になっているので、かなり激しい悲観主義者である。

 もしや金曜日の時点で注文殺到の嵐は過ぎ去り、本日よりピタリと止まってしまうのではないかと不安の波に飲み込まれていく。

 9時半を過ぎると電話が鳴り出す。書店さんが週末の間に店頭で受けたであろう『10代のための読書地図』の客注である。それが一本切ると、また一本とかかってくる。

 マニュファクチュアな本の雑誌社では、電話で注文を受けた際には、まずメモ紙に書名、注文冊数、書店名、番線、コード、担当者、そしてあれば客注名や客注NOを記す。そしてそのメモ紙を元に、二枚複写になっている注文短冊に書き起こすわけだが、書店名などをネットで検索し確認しつつ書き起こすにしても、1件、1分か2分程度である。しかし今日はその時間が取れず、メモ紙が溜まっていく一方なのだった。

 私はこの注文短冊を書き起こすのを保留しておくというのが苦手で、おそらくそれはメモ紙を失くす恐怖感(メモ紙といってもしっかり束ねているので失くすわけないのだけれど)を一刻も早く拭いさりたい一心なのだけれど、それができず、次から次へと電話を取って、メモが溜まっていく。

 こんなに注文の電話が続くのは、『謎の独立国家ソマリランド』以来だろうか。あの時とちょっと違うのは店頭の補充分より断然に客注が多いということか。

 そうこうしているうちに印刷所から『10代のための読書地図』の重版分が届き、これでひとまず安心。さあ、注文どんと来いとすっかり受注センターの人となりきり、電話を取り続ける。

 12時を過ぎると一旦電話注文が止まる。本の雑誌社は好きなときに昼食をとるシステムなので、別に12時だから休憩しているというわけでもないのだけれど、書店さんから「昼時にすみません」と電話が来るときもあるので、出版社によってはきっちり12時に休憩をとるところもあるのだろう。

 本日はその恩恵にあずかり、このタイミングで溜まっていた注文を短冊に書き起こす。そうして、そのうち直納で伺うべく注文分を用意し、ひとり直納部隊を結成、両手に本を持って、直納の旅路に向かう。

 一軒、二軒と書店さんを訪問し、納品して回る。こうして直納をすると売れている実感をひしひし感じることができ、だからこそ私は直納が大好きなのだった。

 電車で移動しつつスマホでメールをチェックすると、重版の案内をしていた書店さんから注文が届いている。なかには大量部数の注文もあり、今日重版ができあがったにも関わらず、在庫が心配になってくる。

 電卓を取り出し、これまで受けた注文の数と今日できてきた部数を照らし合わせていくと、どうもあやしい。もしやこれは......と思っていると、夕刻、浜田から連絡があり、本日会社で受けた注文分の数を知らされる。

 なんとまさかの重版出来日に、在庫が空っぽになってしまった...。まったく微動だにしないのも在庫ならば、あっという間に消えてなくなるのも在庫なのだった。

 その後、帰宅しながら、自分の判断ミスがなかったか考える。重版のタイミング、部数ともに誰がやってもこれ以上早くもこれ以上多くもできなかったはずだ。しかしそれでも次の重版出来まで10日ほど品切れ期間を作ってしまったのは営業の痛恨のミスではなかろうか。

 最も晴れがましい気分になっていいはずの日なのに、激しく反省しているのであった。

9月26日(日)休日出勤

 7時からランニング。12キロ。見沼代用水西縁は曼珠沙華が咲いている。

 娘をアルバイト先に送ったのち、会社へ。明日月曜日はあちこちに直納することになるであろうから、できるだけデスクワークを終わらせておきたかったので急遽休日出勤することに。

 出社すると編集の高野も休日出勤しており、できたばかりの橋本倫史さんの『東京の古本屋』の献本作業をしていた。

 POP作成、フェアの出荷指示書などを作り、注文書を書店さんにFAXして、2時に退社。神保町はずいぶん人出がでており、東京堂書店さんも三省堂書店さんも平日とは異なる客層で本が売れているよう。

 上野まで歩いて、その後京浜東北線に揺られ帰宅。

9月25日(土)辺境チャンネル第10回を配信

 12時前に辺境スタジオに向かい、高野秀行さんのオンラインイベント「辺境チャンネル」をAISAの小林渡さんとともに配信する。コロナがはじまってからスタートしたこの「辺境チャンネル」も今回で10回を迎え(テスト回を含めると11回)、立派なコンテンツとして育ち、とてもうれしい。

 9時に帰宅。DAZNにてマンチェスターシティー対チェルシーを観る。

9月24日(金)Amazonで初の一桁に腰が抜ける

  • 10代のための読書地図 (別冊本の雑誌20)
  • 『10代のための読書地図 (別冊本の雑誌20)』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
    1,980円(税込)
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    honto

 数週間前にNHKの人から連絡があり、『10代のための読書地図』を番組で紹介したいのだが、その際表紙を映してよろしいかと尋ねられ、その番組というのが幾多のベストセラーを輩出してきた「あさイチ」で、表紙どころか全部朗読していただいてもかまいません!と了承したのであった。

 その放送日が本日なのであるけれど、残念なことに本日は病院に行って痛風発作を抑える尿酸値を下げる薬をもらいにいかねばならず痛恨の極みならぬ痛風の極み。これは果報は寝て待てではないけれど、家宝は病院で待てということで、放送が始まる時間を病院の待合室で過ごしていた。

 そもそも連絡があった際に、この日は秋の読書の紹介で何冊かの本を紹介するなかの一冊だと説明されたので、「あさイチ」で紹介されてベストセラーを期待するものの、その期待が外れたときの悲しみはあまりに大きいので、きっと表紙がちらっと映ってその他大勢扱いされるだろうと期待しないよう期待しないようこの2週間ほど自身に言い聞かせ過ごしてきたのだった。

 まあそうは言っても、本の雑誌社の本がNHKの人気番組で紹介される機会なんて今後30年はないだろうから、できるかぎり長く、一秒でも多く表紙が全国に向けて映し出されるよう、毎日、神田明神にお参りすることも欠かさなかったのである。

 そうして迎えた本日、祝日明けにしてはやけに空いた待合室のベンチに座ってぼんやり時を過ごしていたところ、「あさイチ」を見ていた書店員さんからぞくぞくと報告が届く。

 なんと表紙どころか中身の一部も映しだして紹介されているではないか。思わず名前も呼ばれていないのに立ち上がってしまった。

 今月は血液検査もなく無罪放免ということで薬だけもらい、すぐに会社へ。するとなんといきなり『10代のための読書地図』の客注の電話が鳴り始める。放送を見て、すぐさま本屋さんに向かったということか。すごい影響力だ...なんて驚いている間もなく、ぞくぞくと注文の電話が入る。

 イチかバチか勝負をかけて重版していた分は、翌週の月曜日にできあがるため、在庫は潤沢にある。いや、しかし、そうこうしているうちに大量部数の注文も入りだし、果たして重版分で持つのだろうかと心配になってくる。

 もう頭は完全にヒートアップしており、社内に誰もいなければ雄叫びをあげていたことだろう、が、本日は事務の浜田と編集の松村が出社しているので、ぐっと堪える。しかし頭の中は煮えたぎっており、これは頭を一旦冷やそうと神田明神へ御礼参りに行く。

 そうして頭を冷やし、冷静になったところで、スマホを確認すると、書店さんから注文のメールが届いており、そこに「Amazonで6位になってますよ!」と腰を抜かす報告が記されているではないか。6位?! 一桁?! もはやそれは人気アイドルの写真集でも作らぬ限り、手が届かぬ夢の世界ではないか。

 本の雑誌社の本ではこれまで二桁、それもたしか50位くらいが最高だったと思うのだけれど、まさか映えある一桁がゲットできるとは。

 もはや冷静になっている場合ではなかった。来週できあがってくる重版で足りないのは火を見るより明らかで、売れてるときに在庫を切らすのは出版営業の恥、大失態なわけで、ここは一日でも早く、次の重版をしなければならない。

 印刷会社のモリモト印刷に連絡を入れると、担当のSさんも「あさイチ」を見ていたらしく、同様に興奮しており、なんだかこうして印刷会社の人が一緒に喜んでくれることに感極まる。

 本が売れるとみんな笑顔になれるのだ。

9月22日(水)『嫌われた監督』を読んで放心する

  • 嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか
  • 『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』
    鈴木 忠平
    文藝春秋
    2,090円(税込)
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 放心している...。放心しながら頬を涙がこぼれ落ちている...。『嫌われた監督』鈴木忠平(文藝春秋)を読んだ。とんでもないものを読んでしまった。これはとてつもないノンフィクションだ。いや、そんなジャンルにこだわらず、とてつもない「本」だった。本を読んできてよかった。本を読み続けてきてよかった。久方ぶりに読書の醍醐味を心の底から味わった。

 三冠王を三度獲得した日本プロ野球史上最高の打者である落合博満が、2004年から2011年まで8年間勤めた中日ドラゴンズの監督時代の様子が描かれている。

 監督としての落合は、8年の間のペナントレースで、すべてAクラス(3位以内)入りし、そのうち日本シリーズに5度進出、2007年には中日ドラゴンズを53年ぶりの日本一にも導いた。それにも関わらず、ファンやフロント、マスコミからこの書名どおり「嫌われた」監督だったらしい。

 落合は手取り足取り選手に教えることはしない。たとえ何かを伝えるとしても謎かけのような言葉をぽつりと漏らすだけで、言葉で伝えるよりもノックや起用法で伝えようとする。だから選手自身が考え、答えを導き出さなければならない。

 落合が求めていたのは、その「自ら考える」ということだったのだけれど、それはなかなか伝わることなく反発する選手やコーチ、新聞記者もたくさんいる。それでも落合は説明することを拒み、どんどん嫌われていく。

 嫌われてまで追い求めたものはなんだったのか? その真実を川崎憲次郎、森野将彦、福留孝介、宇野勝、岡本真也、中田宗男、吉見一起、和田一浩、小林正人、井手峻、トニ・ブランコ、荒木雅博の12人の選手・球団関係者の目を通して、著者は迫っていく。

 そこで見せられるのは、本物のプロフェッショナルというものの姿だ。ボールを投げる、打つ、捕る。ポジションは9つしかなく、成績を残さなければ選手は契約を切られ、翌年から仕事を失うことになるかもしれない。それらの選手の人生とファンの期待を預かる監督の責任はもっとも重い。

 果たして勝つために、優勝するために、それがプロフェッショナルの目標だとするならば、なにが必要なのか?

 それは我々が日常生活でもっとも大切にしろと教わってきたもののひとつを捨てることだった。落合はそれを捨てることで、勝利を、優勝を、手に入れる。

 だからこそ"嫌われた"のである。世界の、世の中の、あまりに本当の姿を、見たくない真実を、曝け出したからこそ嫌われたのだ。

 それでも嫌われるばかりではなかった。プロフェッショナルとして生きた人たちの間で、これほどまで愛されてもいたのだ。私の頬をたくさんの涙が流れ落ちたのだった。

9月21日(火)

  • ヤマケイ文庫 マタギ 日本の伝統狩人探訪記
  • 『ヤマケイ文庫 マタギ 日本の伝統狩人探訪記』
    戸川 幸夫
    山と渓谷社
    1,045円(税込)
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    HMV&BOOKS
    honto
  • 山に生きる 失われゆく山暮らし、山仕事の記録
  • 『山に生きる 失われゆく山暮らし、山仕事の記録』
    三宅 岳
    山と渓谷社
    1,760円(税込)
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    honto

 日曜日の「Barakan Beat」で知ったLARKIN POEの「Kindred Spirits」を聴きながら9時に出社。姉妹2人組のデュオながら腹の底から響く野太いブルースロックがたまらない。

 週末にネットニュースで紹介されるということでFAXの用紙を満タンに補充していたものの、どうやら不発だったらしく残念無念。期待が大きかっただけにがっくり。

 北上次郎さんとZoomをつなげて、「北上ラジオ」の第37回と第38回を収録。北上さんと本の話をするのは至福の時間。

 四谷三丁目に行って、田口久美子さんとランチ。かつては書店店頭でしていたよもやま話も50年勤めた書店員を引退した田口さんとは、こうして折を見て続けるに至る。相変わらず教わること、慧眼されること多く、今後もこうしてずっと続けていくのだろう。こちらも至福の時間。

 その後『痛風の朝』の追加注文をいただいた丸善丸の内本店さんに直納。直納後店内をうろついていると、やまのように積まれた『言いかえ図鑑』(サンマーク出版)と32万部突破と大きく記されたポスターが目につく。

 32万部...。その10分の1でも、いや100分の1でも売るのに四苦八苦しているのに、いったい32万部なんてどうしたらたどり着けるのだろうか。

 うじうじ考えているとあやうくブラックホールに落ちそうになったので、本を買って気分転換し帰宅。

戸川幸夫『マタギ 日本の伝統狩人探訪記』(ヤマケイ文庫)
三宅岳『山に生きる 失われゆく山暮らし、山仕事の記録』(山と渓谷社)

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