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3月12日(土)

 朝4時半起床。リビングにて、「本の雑誌」6月号で掲載する原稿の調べ物の続き。

 7時よりランニング。すっかり春の陽気となり、見沼代用水東縁を散歩する人多数。桜も蕾が膨れ上がり、この陽気が続くなら来週あたりには咲き始めそう。15キロラン。

 シャワーを浴び、朝食後、娘をバイト先に送り届け、妻と角上魚類とヤオフジに買い物。

 その車中、妻がここのところ、といっても実は3年くらい前から「給湯器が危ない。給湯器が心配だ」と口にし、それに対して私は「実家の給湯器は27年保ってギネス記録に申請中だ」とか「冬を越した給湯器は来冬まで活躍する」とお茶を濁していたのだが、どうやら妻の心配と不安がピークに達したらしく、「給湯器!」と言ったまま黙りこくってしまった。

 さすがにそこまで言うならば一度我が家の給湯器の様子を確認してみるかと、買い物してきた袋を部屋に運び越えた後、裏庭に行って給湯器を覗いてみる。すると築20年から毎日お湯を沸かしてきたがんばりに、それは今にも止まりそうな朽ち果てぶりで、私も少し心配になってくる。

 給湯器は壊れたら風呂も沸かせないわけで、我が家の近所にはもちろん銭湯はなく、そうなった場合は実家に風呂を借りにいくしかないわけだけれど、毎夜実家へ車を走らせるのは並大抵の面倒ではない。

 やっと妻の不安が共有できたわけで、そうなると一にも二にも給湯器を替えるべく、そういえばちょうど家を建てた建設会社からリフォームまつりの案内が届いていたなと電車を乗り継ぎ会場に馳せ参じてみたのである。

 そこにはいくつものテントが並べられ、所狭しとトイレやらキッチンやらクーラーやら製品が並べられており、我々の目指す給湯器も一角に並べられていた。

 受付で名を名乗ると、我が家の工事担当者だったGさんがやってきて「どうしたんすか?」と驚かれたので、「そろそろ築20年で、給湯器が心配で」と率直に打ち明けたところ、なんとなんと「給湯器ないんですよ」とまさかの回答が返ってくるではないか。

 いやそこに置いてあるじゃないですかと展示品を指差すと、それは外側だけで実は中身は入ってないらしく、そういえばひと月程前に車の点検に出した自動車整備工場の人が「半導体不足でまったく新車を納車できない」と嘆いていたのを思い出し、もしや「半導体?」とGさんに訊ねると、「そう、半導体!」とコクリと頷くのであった。

 半導体なら仕方ない。そんなものは急に準備できるわけでもないし、先の自動車修理工場の人も、早くて半年、一年以上納車できない車種もある言っていたので、私はとくるりと反転し、今来た駅に向かって帰ろうかとしたのだが、隣にいた妻は反転せず、「そうは言っても机の下に隠してあるんじゃないですか」などと、まるで書店員時代のような問答を始めるのである。

 それを聞いたGさん、顔をブルブル震わせ、「机の下にも会社の倉庫にも一つもなく、あるのは新築用の給湯器のみで、こちらリフォーム部にはまったくない。それどころか実はガスコンロもなく、リフォーム部で在庫があって今売れるのはトイレだけ、もうこの一年トイレばかり取り替えているんですが、杉江さん家もトイレの取り替えどうですか?」と笑うのであるが、妻の表情は凍りついたままだった。

 とりあえず何かの間違いで入荷した際には取り替えてもらうよう予約し、あとは我が家の給湯器が止まらぬことを祈りつつリフォームまつりを後にしたのだが、果たして我が家の給湯器は、その息の根が止まる前に、新たな給湯器がやってくるのか、それともこれまで聞こえないふりをしてきた私の息の根が止まるのかどうちらが先か。ちなみに給湯器の寿命は10年と言われているらしい。

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