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3月30日(水)

  • 日本の川を旅する―カヌー単独行 (新潮文庫)
  • 『日本の川を旅する―カヌー単独行 (新潮文庫)』
    野田 知佑
    新潮社
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 4時半起床。昨日の出張の疲れもあり、もう少し眠っていたかったのだが、二度寝できず。調べ物の続きをする。

 9時半に出社。野田知佑さん死去の報が届く。

 18歳のとき、とにかくこんなんじゃないという気持ちを抱えたまま毎日を過ごしていた頃、親友の薦めで読書という行為を知り、そしてすぐに野田知佑さんの『日本の川を旅する』と出会った。

 ああ、これだ。これが、いい大学に入るでもなく、いい会社に入るでもなく、真面目に生きるということだ、と確信し、僕はすぐに両親に頭を下げ、通っていた予備校をやめ、カヌーを買うためにアルバイトをはじめた。18歳の夏だった。

 最初は、一気に稼いでその夏にカヌーを買って、野田さんのように日本の川を旅しようと思ったのだけれど、給料の良さだけで選んだ仕事は、半日近く氷点下の中にいる精肉加工の工場で、あまりの過酷さに週払いの給料を一度もらったところで撤退したのだった。

 思えばあの時、僕の中にはふたつの目標があった。

 ひとつは野田さんのようにカヌーで日本の川を旅し、確固たる自分を築き、自由に生きる人間になること。もうひとつはこれほどまでに人の人生に影響を与える「本」を作る人になりたいというものだった。

 そのふたつに同時に近づく第一歩として兄貴の薦めもあって、僕は本屋さんでアルバイトをすることにした。そこは氷点下の精肉加工の工場よりもだいぶ時給が安く、結局カヌーを買うお金を貯めるのに半年近くの時間が必要だった。年をまたいだ正月明けに小さなアウトドアショップで、ついに折りたたみ式のカヌーを手に入れることができたのだ。

 その後僕は、仲間と連れ立って川下りを楽しみ、そして運良く出版社で働くことができるようになった。

 ずっと涙を堪えていたのだけれど、夜になって5つ歳の離れた兄貴からメールが届き、ついに我慢していた涙がこぼれ落ちた。

「お前にとって野田知佑さんは、人生変えられた恩人だものね」

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