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11月28日(月)

 中村計『笑い神 M-1、その純情と狂気』(文藝春秋)読了。

 これはあの、前人未到のノンフィクション賞4冠を成し遂げた鈴木忠平『嫌われた監督』(文藝春秋)と同レベルの超傑作ノンフィクションであり、そしてまた同種の、目標を達成するために狂気に取り憑かれていく人間の様を描いたノンフィクションでもある。

 私はテレビを観ないので、この本の中心人物である「笑い飯」という漫才コンビを知らなければ、その笑い飯や現在の漫才コンビがそこで優勝することを目標としている「M-1」というのもまったく知らないのだけれど、それでも380ページあっという間に一気読みだった。

 なぜならここで描かれているのは「人間」だからだ。自分と他人の評価の間で揺れ動き、それによって狂わされていく人間なのだ。誰だって大なり小なり毎日他人の評価や視線を気にし、どこかで狂わされて生きているわけだから、ここに普遍があるのだ。

「人を笑わす」というとても困難な営みにのめり込み、狂うほど真剣になっている人たち。笑いとは、漫才とは......。その深淵が覗ける狂気のノンフィクションだ。

★   ★   ★

 というわけで出社後すぐに大阪出身のお笑い大好き新人編集の前田君に貸し与える。感想が楽しみ。

 午前中は、年間ベストの書店掲示用のパネル作りに勤しむ。午後はできたばかりのパネルを持って書店さんに配って歩く。

11月21日(月)

 とある書店さんを訪問すると、売上がよくない原因にpaypay等の電子決済を導入していないのもあるかもと悩まれており、導入しているお店ってどんな感じなんですかね?と質問されたのだった。

 私が知っている範囲では、キャンペーン期間中の売上は爆上がりで、まとめ買いやら日頃いらっしゃらないお客様までやってきて、私のような営業は訪問を控えたほうがいいくらいな感じであり、しかもそのポイントバック分の原資は自治体が持ってくれたりするので負担もかからず、多くの書店さんが喜んでいると伝えつつ、もちろん手数料やキャッシュフローの問題もあることをお話し、本の雑誌社でも神保町ブックフェスティバルからキャッシュレス決済を導入し約5%の人が利用したなどと......いったい私は何の営業をしてるんだろうと思わないわけではないけれど力説は止まらないのであった。

 私自身はいまだ電子決済を使ったことがなく、新刊が出たら即買いする作家、黒川博行『連鎖』(中央公論新社)をこの日も現金で購入したのだけれど、休憩で入ったドトールでは4人並んでいたお客さんの私以外はみな電子決済で会計を済ませているのだった。

11月20日(日)

 母親から電話。入院している父親が食事を取らなくなってしまったらしい。7月に腰椎の圧迫骨折から寝たきりになり、老老介護の限界からショートステイで介護施設に預けたところそこでコロナに感染。病院に入院となり精密検査をしたところ、心臓に問題が見つかり、カテーテル手術をするも一度は成功、二度目は失敗。再度の手術待ちをしているのだけれど、コロナのおかげでお見舞いにも行けず、いったい父親は今どうなっているのだろうか。

 本日も特別副反応はなく、ただ走り回るのもなんなので、本を読んで過ごす。

11月19日(土)

  • 裏横浜 ――グレーな世界とその痕跡 (ちくま新書)
  • 『裏横浜 ――グレーな世界とその痕跡 (ちくま新書)』
    八木澤 高明
    筑摩書房
    946円(税込)
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  • 聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし
  • 『聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』
    金井真紀
    カンゼン
    1,870円(税込)
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 6時起床。明るくなるのを待ってランニングへ。先週20代の子たちにサッカーでチンチンにされたのが悔しく、ランニングの終盤にダッシュを取り入れる。こんなことやってもサッカーが上手くなるわけではないけれど、なにかしないと悔しさが晴れないのだった。

 10時に息子と病院に行って、4度目のワクチン接種。病院はコロナワクチンとインフルエンザワクチンの接種に通常の診療で大わらわ。まるで先日開催された神保町ブックフェスティバルのよう。

 これまで3度は接種後、熱が出て寝込んだので、寝込むより先にベッドに入って準備万端整える。先日買い求めた八木澤高明『裏横浜』(ちくま新書)と金井真紀『聞き書き 世界のサッカー民』(カンゼン)を読み終えるも、一向に熱があがる気配もなく、初めてのファイザーのおかげか4度目の正直ということで副反応はなく終了。

11月18日(金)

 昨夜は、角川を定年退職された宍戸健司さんの新しい門出を祝う会があったのだけれど、そこで20年ぶりくらいに会った偉い人から、「杉江は今何してるんだ?」と訊かれた。

「変わらず本の雑誌社で働いてます」と答えると、「えっ? そうなの?」と驚かれ、「杉江は才能あるからもっと大きくなると期待してたんだけど」とちょっと残念がられてしまった。

 自分は「本の雑誌」を続けることが期待に応えることだと思っていたのだけれど、こうして別の期待を寄せてくれていた人もいたのだ。

 なんだか申し訳ない気持ちと、自身の情けなさや歯痒さを噛みしめる。期待されないのもつらいけれど、期待されてそれに応えられないのはもっとつらい。

 実は自分も自分自身にもうちょっと期待していたのだ。それがいつの間にか自分の人生こんなもんかな、十分がんばってるんじゃない、と信じ込もうとしていたような気がする。

 今からその人の期待に応えられるかわからないけれど、せめて自分の期待には応えられるようがんばろうではないか。

 

11月14日(月)

  • キャプテン2 6 (ジャンプコミックス)
  • 『キャプテン2 6 (ジャンプコミックス)』
    コージィ城倉,ちば あきお
    集英社
    528円(税込)
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 一晩経っても、昨日やったサッカーの悔しさがこみ上げてきて、通勤読書もはかどらず。

 対戦相手にいた24歳の若者たち。サッカーで有名な高校を卒業しているらしく、まさしくボールが友達で上手いのなんの。相手(私)の対応を見てプレーの選択をしてくるので、詰めると下がっていなされ、右に体重を乗せたら左に出られ、1対1はすべて負けてしまう。しかも試合の最後では手加減をやめたのかコンビプレイで軽々と抜き去られ、ゴールを決められてしまった。

 技術も体力もまったく比べようもなく勝てるわけないのに悔しさと涙がこんこんと湧いてくる。

 9時に出社。『おすすめ文庫王国2023』と「本の雑誌」2023年1月号の校了を控え、編集の松村も9時過ぎには出社してくる。続いて事務の浜田、経理の小林、編集の前田と出社。一週間が始まる。

 11時半に社を出て、営業へ。横浜ブルーライン阪東橋駅から活気豊かな商店街である横浜橋通街を歩き、終点間際を右に入ったところに11月1日オープンした「本屋 象の旅」さんを訪問。

 明るい店内に各ジャンルこれぞという本が並んでおり、思わず棚に引き込まれる。既刊新刊問わずこんな本が出ていたのかと何度も手が延びる中、河田桟さんの『ウマと話すための7つのひみつ』(偕成社)を購入。オープン記念の缶バッジもいただき、うれしいかぎり。

 お店の方にご挨拶しようと思ったのだけれど、店内には3人のお客様がおり、棚をじっくり見ていたので、お邪魔になっては申し訳ないと再訪を誓いあとにする。いやあ、またまたいい本屋さんができました。

 弘明寺へ移動し、2021年9月号のカラーグラビアでご紹介させていただいた大林堂書店さんにご挨拶。数坪の狭いお店ながら、しっかり行き届いた仕入れがされており、本屋さんが小宇宙であることを教えられる。

 またちょっとした訪問の間にも、客注を取りに来られたお客さんやマンガ雑誌を買い求めた学生さんとレジで会話がはずんでおり、接客の、いや商売の真髄を教えられる想い。

 こうして本はお客様に手渡されているっているのだと思うとこみ上げてくるものがある。

 コージィ城倉著、ちばあきお原著『キャプテン2 6』(ジャンプコミックス)と佐野亨『ディープヨコハマをあるく(辰巳出版)を手打ちのレジでお会計していただく。

 その後、あちこち営業し、かばんの中も頭の中もいっぱいになる。読むべきもの、考えるべきこと、次なるヒント。それはいつだって、外にある。

11月9日(水)

  • 神々の復讐 人喰いヒグマたちの北海道開拓史
  • 『神々の復讐 人喰いヒグマたちの北海道開拓史』
    中山 茂大
    講談社
    2,420円(税込)
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  • これが見納め: 絶滅危惧の生きものたちに会いに行く (河出文庫)
  • 『これが見納め: 絶滅危惧の生きものたちに会いに行く (河出文庫)』
    ダグラス・アダムス,マーク・カーワディン,リチャード・ドーキンス,安原 和見
    河出書房新社
    1,430円(税込)
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  • ジジイの台所
  • 『ジジイの台所』
    沢野 ひとし
    集英社クリエイティブ
    1,760円(税込)
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  • カツ丼を名画にして、冥土で売ってそうな土産を作る生活
  • 『カツ丼を名画にして、冥土で売ってそうな土産を作る生活』
    べつやくれい
    本の雑誌社
    1,760円(税込)
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 プリントパックに印刷製本を頼んでいた非売品の「本の雑誌」特別号が届く。まったくこの忙しいときに自分はいったい何をしているだろうかと思わないわけではないが、楽しいことを思いついたらそれに突き進んでしまう性分なので致し方なし。

 午前中は昨日完成したDMの原稿をコピーし、黙々と三つ折りしていく。

 午後は、本日搬入の新刊、べつやくれい『カツ丼を名画にして、冥土で売ってそうな土産を作る生活』のサイン本を芳林堂書店高田馬場店さんへ納品に伺う。その足で、早稲田の古書現世を訪れ、先日の古本祭りの忘れものを届ける。昨日発売の「週刊朝日」で、片岡義男さんに『早稲田古本劇場』を紹介いただいたことを喜び合う。

 夕方会社に戻って、三つ折り作業の続きをしていると沢野さんから電話。

「今月、僕の新刊『ジジイの台所』がでるからよろしくね」とのこと。

『ジジイの台所』は、ヒット作『ジジイの片づけ』に続く、沢野流"老若男女を問わず清々しく生きる"ためのエッセイ集。集英社クリエイティブから11月25日発売。楽しみ。

 6時半に終え、丸善御茶ノ水店さんに寄って、

■中山茂大『神々の復讐 人喰いヒグマたちの北海道開拓史』(講談社)
■ダグラス・アダムス、マーク・カーワディン『これが見納め 絶滅危惧の生きものたちに会いに行く』(河出文庫)

 を購入して帰宅。

 夜は、ROTH BART BARONの新譜「HOWL」を聴き耽る。

11月8日(火)

  • すばらしい失敗 「数独の父」鍜治真起の仕事と遊び
  • 『すばらしい失敗 「数独の父」鍜治真起の仕事と遊び』
    ニコリ
    ニコリ
    1,980円(税込)
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  • 本の雑誌474号2022年12月号
  • 『本の雑誌474号2022年12月号』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
    770円(税込)
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  • 黒と誠 ~本の雑誌を創った男たち~(1)
  • 『黒と誠 ~本の雑誌を創った男たち~(1)』
    カミムラ 晋作
    双葉社
    1,320円(税込)
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「本の雑誌」12月号搬入。特集は、「『黒と誠』の謎と真実!」。

 『本の雑誌血風録』と『本の雑誌風雲録』の合体マンガ、カミムラ晋作『黒と誠』(双葉社)の単行本発売を記念して特集にしてみたのだけれど、その裏というか陰というか奥には、このマンガを企画し編集したのが元助っ人であり、その元助っ人のがんばりを祝したいという気持ちで企画したのだった。

 なので、元助っ人の方の登場多めというか、これまで「本の雑誌」については、当然ながら椎名さんと目黒さんが主に語ってきたわけで、今回は吉田伸子さん、窪木淳子さん、福井若恵さん、そして千脇隆夫さんという陰で支えてきた助っ人の視点を交えて創刊時(直納時)のことを振り返っていただく。『本の雑誌血風録』と『本の雑誌風雲録』を聖典のように愛読してきた私としてはとてもおもしろい号になった。

 ただこうして実際にできあがってみると、ちょっと内向き過ぎたかという反省も湧いてくる。と同時に1号くらいはこんな感じで作っても許してもらえないだろうかと甘えた気持ちも湧いていて、果たしてどう受け取られるかドキドキだ。それは毎号のことであるけれど。

 そんな日から読み出したのがニコリ編『すばらしい失敗 「数独の父」鍛冶真起の仕事と遊び』(ニコリ)。2021年8月10日に69歳で亡くなられたパズル雑誌「ニコリ」の鍛冶さんの人生を振り返りつつ、雑誌「ニコリ」と株式会社ニコリの成り立ちから現在まで綴られており、これが『本の雑誌血風録』や『本の雑誌風雲録』なみに面白い出版社社史になっていて、ページをめくる手がとまらない。

 9時半に出社。
 午前中は、本の雑誌1月号で発表する年間ベストを決める座談会。ヒートアップ。
 午後は、新刊チラシとDM作りに没頭。

 月蝕を見ながら三省堂書店小川町仮店舗に寄りつつ、帰宅。

11月7日(月)

  • 父を焼く (ビッグコミックス)
  • 『父を焼く (ビッグコミックス)』
    山本 おさむ,宮部 喜光
    小学館
    1,287円(税込)
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 W杯のせいでJリーグが11月上旬という記録的短期間に終わってしまい、本日より仕事に精を出すこととなる。

 9時半出社。週末に読み、まだ今年のベストも決まっていないのに来年のベスト1と心に決めた(本の雑誌のベストは10月末日奥付までが今年となる)山本おさむ、原作:宮部喜光『父を焼く』(小学館)を事務の浜田に貸す。

 本当は今すぐ読んでもらってどれだけこれがすごい本か語り合いたいのだけれど、目の前で浜田に号泣され情緒不安定となりそのまま故郷愛媛に帰られても問題なので、家に帰って深呼吸してから読んでくださいと言付ける。

 親には親の人生があり、子には子の人生がある。それでも断ち切れない縁と想いがあるのが親と子というものだ。親の看取りを描く『父を焼く』は、強烈に魂を揺さぶるのだった。

 午前中『おすすめ文庫王国2023』の編集作業に勤しんでいると、2月刊行予定の本で原稿を依頼していた一冊!取引所のワタナベさんから原稿が届いた。締め切りをしばし過ぎ、「最優先で進めてまいります」との決意表明をいただいていたのだけれど、金曜日の夜にTwitterを開いたらスペースで「本そばポッドキャスト」をやっていたのには、どこが「最優先やねん!」と思わず心の底から突っ込んでしまった。

 最優先で聴きたい気持ちぐっとこらえ見て見ないふりをしていたのだけれど、無事原稿が届きありがたいかぎり。早速読ませていただくと玉稿も玉稿の素晴らしい原稿で、安心してSpotifyにアップされた「本そば」を聴く。まさかの3時間半......。

 11時に定期購読者分の「本の雑誌」12月号が届き、助っ人の鈴木くんと社内に運び込む。そして助っ人の松下さんも加わり、毎月のハリツメ作業に勤しむ。

 すべての封入作業を終えてから、丸善御茶ノ水店さんを覗く。昨日よりカミムラ晋作『黒と誠』(双葉社)の刊行を記念して、「本をつくる人たち」というフェアが開催されており、こちらの選書の一部を協力させていただいているのだ。素晴らしい本が並んでいるので、ぜひとも『黒と誠』と合わせて購入していただきたいところ。

 担当の沢田さんとはお会いできなかったものの、ひとまずフェア冊子をいただき、次なる目的地、駒込のBOOKS青いカバさんに「本の雑誌」を届けにあがる。

 そのBOOKS青いカバさんの均一棚にて、ピーター・マシースン『二十世紀の石器人 ニューギニア・ダニ族の記録』(昭和39年・文藝春秋新社)を手にし、お店の扉を開けようとすると明日から金曜日まで「新橋古本市」出店のためお休みの貼り紙がされている。おお、今日来られてよかった...。そして「新橋古本市」開催されているのかと思わず頭にメモする。

 その後、営業し、帰宅。
 風呂に入り、夕食をとった後、沢木耕太郎の新刊『天路の旅人』(新潮社)を読み始める。
 

11月1日(火)

  • 出セイカツ記 : 衣食住という不安からの逃避行
  • 『出セイカツ記 : 衣食住という不安からの逃避行』
    ワクサカ ソウヘイ
    河出書房新社
    1,705円(税込)
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 神保町ブックフェスティバルの間、会社が空いているのでもしよろしければ古本市でもしませんか?と『早稲田古本劇場』の著者である古書現世の向井さんをお誘いしたわけだけれど、よくよく考えてみればすずらん通りすぐ近くとはいえ、休日にはほとんど人が通らない道に面した雑居ビルの5階で古本市を開催したところで、もしお客さんがひとりも来なかったらどうしたらいいだろうと前日に運び込まれたたくさんの古本を前に大きな不安に包み込まれたのだった。

 向井さんには先に謝っておいたほうがいいかと思い、「お客さん来なかったらごめんなさい」と頭を下げると、向井さんは笑ってこう答えたのだった。

「元々何もしなけりゃ休みで売上0なんだから」

 向井さんの言葉に心底ほっとし、そしてこうした精神が楽しいことをどんどん増やしていくのだと改めて思ったのだった。結果はこの試みを面白いと思ってくださった読者の方が多数おり、古本市も盛況だったとのこと。

 その在庫の引き取りが水曜日のため、会社の会議机に山と積まれたその古本を前に、上京された内澤旬子さんと打ち合わせ。イラストの取り扱いについて検討する。

 打ち合わせ後、急いで『おすすめ文庫王国2023』に関するデスクワークをこなし、御茶ノ水駅から中央線に乗って、国分寺へ。『本の雑誌血風録』と『本の雑誌風雲録』を漫画にした『黒と誠』に刺激を受け、ある本の漫画化に向けて動き出しているのだった。本日は1話目、2話目を前に漫画家さんと原作者さんと交えて、感想を言い合う。

 その後、すっかり取りはぐれていた昼飯を食べるためにとある人気店らしいラーメン屋に入る。私はどんなラーメンでも基本美味しく食べるのだけれど、ひとつだけ許せないラーメンがあって、それはぬるいラーメンなのだった。

 でてきたラーメンがまさしくそのぬるいラーメンで、なぜかチャーシューもゆで卵も妙に冷えきっており、それが汁によって温められることなく、ぬるいさを倍加させているのだった。こういうラーメンを出すお店はもしかして店主が猫舌なんだろうか。唯一温かみを感じる麺を頼りに食し、涙ながらに店を出る。

 ワクサカソウヘイ『出セイカツ記』(河出書房新社)を読み始める。

「ただささやかに生活しているだけで、これ以上のものを望んでいるわけでもないのに、なんだか漠然と生きづらい」という著者が、その不安の根っこに対抗するため、サバイバルとまではいかないまでも、海から食料を調達してみたり、断食や不食をしてみたり、石を売ってみたりする。

 まったく同様の不安にかられ毎日を過ごしている私にも膝を打つような思考に納得しつつも、さすが宮田珠己さんを氏と仰ぐ著者だけに、アタマのおかしさに大笑いしてしまう箇所があちこちに散りばめられており、大いに楽しむ。

10月31日(月)

 朝、スーツに着替えていると高校3年の息子から、「父ちゃん今日も仕事なの?」と驚かれる。

 息子は部活を引退した9月からサッカーショップでアルバイトをしており、仕事というものが少しわかりはじめたところなのだ。先日も4日連続アルバイトに入って疲れたとこたつで丸まって寝入ってしまったりして、父親である私が神保町ブックフェスティバルで土、日も出社し、8日連続(最終的には祝日までの10日連続となる)仕事に行くのに尊敬の眼差しで見つめているようだった。

 しかし私は子供から尊敬されたら人生終わりだと考えているので、Jリーグのシーズンの間、どれだけ働いていなかったか、試合の日は朝から心あらずで、試合のない日もやっぱり心ここにあらずで仕事に集中すること一切なく、それが今週末で今シーズン終了なのでここから一生懸命働かないとならないわけで、それでも一年間を平均にしてならしたら、たぶんまっとうな人の半分くらいしか働いていないことを切々と訴える。

 尊敬から蔑みとなった息子の眼差しに安心して出社。イベント(と飲み会)の翌日は、いつもより早く出社することという就職して最初の上司の言いつけを守り、9時前に出社。

 すでに事務の浜田が出社しており、神保町ブックフェスティバルで並べた本の整理をはじめていた。私は土日の間に社内で飲み食いしたペットボトルや空き缶を捨て、机を吹いて、床に掃除機をかける。

 片付けを終えたところで、飯田橋の双葉社さんへ。神保町ブックフェスティバルで『黒と誠』を先行販売させていただいたお礼に伺う。

 昨日日曜日には著者のカミムラ晋作さんに12時から閉店の6時まで長時間に渡ってサイン会を開催していただいたおかげで『黒と誠』が飛ぶように売れ、おかげで本の雑誌社の他の本もお客様に手にとっていただけ、感謝感謝お礼のしようがないほどなのだった。

 それもそもそもすべて、双葉社の営業のSさんより先行販売のお誘いや実際に二度に渡って納品していただいたからこそ。これぞ、まさに出版営業。私も見習っていかなければならない。

 会社に戻ると神保町ブックフェスティバルに出店していた大阪の出版社140Bの青木さんが来社していたので、定番の神田小川町の近定に行って昼飯。

 満腹で会社に戻ると神保町に遊びにきていた書店員さんが来社されたので、お茶。売り場ではなかなかゆっくり話せないので、最近読んだおもしろ本の話から発注方法などなどじっくり伺う。

 午後からは11月9日搬入の新刊、べつやくれい『カツ丼を名画にして、冥土で売ってそうな土産を作る生活』の初回注文〆作業。注文データと短冊を付け合わせ、ミスがないか確認した上で、取次店さんに送信。

 その作業に没頭していたところに新宿の紀伊國屋書店さんから『早稲田古本劇場』の追加注文が入ったので、急いで持参する。

 お店をゆっくり徘徊したかったもののとんぼ帰りで会社に戻り、4時からはZoomを使って本屋大賞の会議。20周年に向けて諸々調整。

 一息ついて通常業務を始めたのが夕方5時。深呼吸してから様々なメールを返し、18時半に業務終了。上野まで歩いて帰宅。

 白岩玄『プリテンド・ファーザー』(集英社)読了。前作『たてがみを捨てたライオンたち』(集英社文庫)では、もはや父性という幻想が崩れ去り、アイデンティティを失った男たちがいかに生きていくかを描き、同様に感じていた私に絶賛を浴びたわけだが、今作ではさらに一歩踏み込んで、子供は誰が育てるのかというところに突き進んでいく。

 シングルファーザー同士の高校の同級生が、ひとつ屋根の下で暮らすという異色の設定で、しかしそこを"異色"と感じてしまうのはなぜなのか? 男が育児をしているのはおかしいと思ってしまう自分がいまだにいるのではないか? そう思う人が大多数だからこそ、女性はありのままに生きれないのではなかろうか? 子供は母親が育てるのか? 父親も育てるのか? 親だけが育てるものなのか? 育児を通してこれからの男性性というものを考えさせられる小説だ。飛鳥井千砂『見つけたいのは、光。』(幻冬舎)と合わせて読みたい。

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