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3月13日(月)

駐輪場に停めていた自転車がパンクしていたので、自転車屋さんに持っていく。その自転車屋さんは、「修理大好きなお店です!」と看板を掲げた町の小さな自転車屋さんで、3年前に息子が高校に進学するとき通学用のクロスバイクを買ったのだった。

真っ黒な手でタイヤからチューブを取り出し、桶に溜めた水の中で空気が漏れるところを探しているおじさんと話していると、「お宅の息子さん素晴らしいよ。」と褒められる。

クロスバイクを買った時に息子とした約束は、2ヶ月に一度自転車屋さんに空気を入れにいくことだった。息子はその約束を守って、高校3年間空気を入れるたびにおじさんと話し込んでいたらしいのだ。

「高校生の男の子で、あんなにしっかり大人と会話できる子いないよ。この間も、『僕、春から新潟に行きます』って報告してきたから人の子だけど心配になっちゃってさ。一人暮らしできるのかなって。でもさ、『自転車も持っていきます』って言ってくれてさ。そうやって大事に乗ってくれると本当にうれしいんだ」

バンク修理が済むと、おじさんは「あちこちガタがきてるじゃねえか」と言いながら、私の自転車のブレーキを調節し、チェーンをピンと張ってくれた。

そういえば私が小学生の時、父親と同じ近所の床屋さんに通っていたのだが、ある時父親がうれしそうにして帰ってきたことがあった。「床屋のおじさんに褒められたよ。お前がちゃんと挨拶してくれるって」と。あの時の父親は、きっと今日の私みたいな気持ちだったのだろう。

すっかり乗り心地のよくなった自転車を漕ぎながら思った。遠くに行っても息子は大丈夫だと。

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