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3月22日(水)

巣立ちまで4日と迫った息子。息子以上に妻の準備に余念がない。余念がないどころか、まったく妥協を許さぬことWBCに出場する超一流の野球選手が如くである。一人暮らしに必要なものを紙に書き出し、それがA4の紙2枚にぎっちりなのだった。

その紙を手に、日々、10分ごとに息子に質問が飛ぶ。パンツは何枚入れたのか? パスタオルも用意したのか?

「うるせえなあ。そんなの新潟で買えばいいんだよ」

妻が"鬼軍曹"と呼ばれていた書店員時代の部下なら絶対口に出せなかったであろう反抗の言葉を息子が吐く。するとなぜか私がバックヤードに呼ばれそうになっている。

妻にしてみれば、これから一人暮らしを始める息子に日々困らず過ごしてもらいたいのだ。風邪をひいた時にはすぐに薬が取り出せるように、物が壊れた時にはドライバーで直せるように、最大の準備をしておきたいのだろう。備えあれば憂いなし。妻にとっての愛情の表現がこれなのだ。

しかし、これまで午後から雨が降るといえば傘をカバンに入れられ、帰ってくれば玄関にタオルが置かれ、足元には新聞紙まで敷かれている、まるで将棋指しの藤井くんほど先手を打たれる生活から抜け出すことが、息子にとって最も大切なことなのでもあった。

日々、妻と息子のバトルを眺めていたら、妻が強い視線を私に送ってくる。

「パパがニトリに頼んだ布団セットって、毛布はついてないよね?」

いえいえ何をおっしゃるうざきさん。私は以前あなたの近くで働いていたものですよ。毛布どころかタオルケットも枕カバーもついていて、これ1セットで一年暮らせる超優秀な布団9点セットというものを当日着で頼んでいるんですよ。

息子と違って、一切口ごたえすることなく、まるで官僚が書く報告書のように説明すると、妻からまるで蓮舫議員が如くさらに厳しい質問が飛んだのであった。

「それ、夏の間、閉まっておく袋は頼んでないでしょう?」

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