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7月10日(月)武内涼『厳島』(新潮社)を読んで呆然とす

 武内涼『厳島』(新潮社)読了。読み終えて今、なぜだか「夏草や兵どもが夢の跡」という思いで呆然としている。

「本の雑誌」8月号で、青木逸美さんが上半期時代小説第1位に選んでいたので読んでみたのだけど、上半期どころか年間1位でいいくらいすごい小説だった。

 こういう本を読むと思うのだ。どうして目黒さんは死んじゃったんだと。目黒さんに読んで欲しかったし、読んだ後感想を語り合いたかったし、この小説の面白さを的確に伝えて欲しかったと。

 ほとんど全編が戦いと戦いに向かっていく話と言っていいかもしれない。その戦いとは毛利元就と大内氏の実権を握る陶晴賢及び家臣の弘中隆兼が近畿の覇権を争う「厳島の戦い」で、この厳島の戦いは「戦国三大奇襲」と呼ばれているらしい。

 そんな戦いだけを描いた小説が面白いのかって思うじゃないか。そもそも私は、戦記小説とかこれまで読んで来なかったのだ。それがめちゃくちゃ面白いのだ!

 まず、毛利元就が恐ろしい。めっちゃ怖いのだ。なにせ「元就にはよくよく用心されよ。元就の言葉、全て虚言と思うべし」と言われるほど、知恵をめぐらせ、策略に策略を重ね、敵を追い込むのだ。主役のはずが、まったく感情移入できないダークヒーローなのだった。

 さらに敵対する陶晴賢や弘中隆兼はもちろん登場人物みなが魅力にあふれているのだ。乱世の世に正義はなく、しかしそれぞれが何かしら正しいという道を突き進んでおり、登場人物すべてに肩入れしたくなる物語なのだった。

 なんだろうか、この小説の魅力は。これはもしかすると山際淳司「江夏の21球」や長谷川晶一の『詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間』に通じる面白さなのかもしれない。

 勝負にかけた人間たちが作り出す壮絶なドラマ。すごいものを見せられたとただただ圧倒される。人間というのはすごい生き物なのだと。ああ、目黒さんとこの小説について語り合いたかった。

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