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10月2日(月)遠田潤子『邂逅の滝』のことを考える

 ついに秋がやってきた。振り返るだけで溶けてしまいそうなあの苦しい夏が終わった。

 週末に読了した遠田潤子『邂逅の滝』(光文社)のことを反芻しながら出社する。

 目次には「ファウストの苔玉」「アーム式自動閉塞信号機の夜」「犬追物」「火縮緬のおかげ参り」「宮様の御首」と5つの話が並んでおり、これが長編なのか短編なのか、はたまた連作短編なのかもわからないまま読み出したのだった。

 初めの一編の「ファウストの苔玉」を読んだ時、そのしっかり閉じた物語の完成度からすっかり短編集だと思い込み、ああ、こういう感じの男女の悲しい情愛を描いた短編集なのねと思ったものの、すぐ次の話に一話めの舞台となった「滝口屋」という文字を見かけ、これは連作短編なのかと慌ててまたページをめくり出すと、紅滝という紀州の山間にある美しい滝を前に、現代、大正、江戸、安土桃山、南北朝と時代を駆け巡る大長編といっていい奔流になっており、ベッドから飛び起きるほど驚嘆の読了をしたのだ。

 恐るべし遠田潤子!すごいぞ遠田潤子!!と興奮しつつ、毎度のことながらその遠田潤子の魅力を上手く伝える言葉が思い浮かばず、こうして電車のなかで考え続けている。

 9時半出社。週末に届いた原稿を整理し、諸々確認をする。
 昼前に一旦会社を出、丸善丸の内本店さんに『本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎』の追加注文分を直納に伺う。

 会社に戻ると、「杉江さん、普通に歩いてますね」と経理の小林から声をかけられる。

 土曜日にスッキリ隊で出動し、都内某団地の5階から階段で本を下ろしたことから筋肉痛ではなかろうかと心配していたようだった。事務の浜田は「まだ出てないだけで明日あたり痛がりますよ」と笑っていたが、いやはや私のふくらはぎをなめてもらっては困るのだ。階段5階20往復2440段を昇り降りした翌日の昨日も15キロほどランニングしているのだった。

 午後、『本を売る技術』の矢部潤子さんに講演の依頼があり、矢部さんとともにお茶の水の日販さんへ。コロナ以降約4年ぶりに訪れた日販さんはおしゃれな打ち合わせスペースとカジュアルな服装の人々が闊歩し、イチゴまでが栽培しているというすっかり異世界転生ぶりに慄く。見本出しの順番を記す番号札が懐かしい。

 打ち合わせを終えて、昨日からソラシティで開催されている古本市を覗く。スッキリ隊の立石書店岡島さんの姿はなかったものの、赤坂憲雄『山野河海まんだら』(筑摩書房)を手にする。

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