1月21日(日)不思議な体験
不思議な体験だった。
介護同居生活三日目、母親と朝食をとり、歯を磨いていると吐き気をもよおした。
この吐き気は、体調が悪いわけではなく、極度のプレッシャーからだった。
Jリーガーやプロ野球選手の本を読むと、がっちりした筋肉に守られ、私より20センチ以上も背の高いいかつい姿のスポーツ選手が、実は試合前になると不安になってトイレに籠り、何も出ないのにゲーゲー吐いていたなんて告白をあちこちで見かけるのだが、まさしく私はそのタイプで、極度のプレッシャーがかかると吐き気が迫ってくるのだ。
喉の奥から込み上げてくるなにものかをぐっと抑え込み、「いやはややばいなあ」と今後の生活を考えた。
どうにか吐き気をやり過ごすと、口をゆすいで、リビングの床に寝転がった。そこはちょうどエアコンの温風が身体にあたり、非常に心地よい空間だった。
母親は車椅子にのり、窓から庭を眺めている。
ぼーっと横になっているその時だった。自分でもわかるほど、全身から力が抜けていった。あれ? おれ、どうしたんだろうと思うほど、身体の強張りが消えていく。まったく食欲がわかず朝ごはんもほとんど食べなかったのだが、ぐーうとお腹がなって猛烈に食欲が湧いてきた。
それはこの新たな生活を私の全身全霊が受け入れた瞬間だった。そのときから急にこの生活が楽しくなった。いや楽しくなったは言い過ぎかもしれないが、負担でなくなった。
母親の麻痺の残る足と手をマッサージし、歩行訓練をする。その間、母親から生い立ちの話を聞く。なかなか得難い時間の過ごし方だ、と思った。