1月30日(火)松本大洋『東京ヒゴロ』に震える
編集の松村から「市村さんからお薦めされたんですけど読みますか?」と渡された松本大洋の『東京ヒゴロ』(小学館)を読み出したところ、まさしくページをめくる手が止まらなくなり、全3巻一気読みしてしまい、読み終えると同時にこれは自分の本として所有し、我が本棚の最良本コーナーに並べなければならないと、慌てて往来堂の笈入店長に取り置き&取り寄せ依頼のメールを送ってしまった。
大手出版社の漫画編集者だった主人公はこだわりの漫画雑誌を作ったもののその販売が思わしくなく責任をとって退職するのだった。
しかし漫画への想いは捨てきれず、長年勤めて手にした退職金を使って改めて漫画雑誌を作ることを決意する。
そうして自身が信じる漫画家にひとりひとり原稿依頼していくのだけれど、主人公はもちろんのことすべての登場人物がまさしく「生きている」のだった。コマのあちこちから人が暮らしていることが存分に伝わってきて、さらにそういう暮らしの中から悩み悩んで創作物が生み出されていくということにたいそう胸を熱くする。
また主人公は出来上がった漫画を必死に書店さんに売り込むのだ。その姿が営業である私にはたまらないのだった。もう涙があふれて止まらなくなってしまった。
そしてなにより絵だ。絵が素晴らしいのだ。特に各話の最後に描かれる遠景が最高だ。部屋に飾っておきたい、と思うほどじっと見つめてしまった。だから「ページをめくる手が止まらなくなった」というのは嘘かもしれない。何度も何度もその手を止めて、まるで行間を読むかのようにじっと絵を眺めていた。眺めていたい。
久しぶりにこんな心震える読書体験をし、しばし呆然となって夜を迎えた。