2月19日(月)砂原浩太朗『夜露がたり』を読む
砂原浩太朗『夜露がたり』(新潮社)読了。
帯に「著者初の江戸市井もの」とあるけれど、いわゆる市井ものから想像されるような人情味あふれるいい話なんてものではない。『高瀬庄左衛門御留書』で彗星の如く時代小説界に現れた砂原浩太朗はそんな話は書かないのである。いや書いたら困るのである。砂原浩太朗にはもっと突き抜けたものを書いてほしいのだ。
その期待どおりの出来映えなのが本書である。さすが砂原浩太朗!
人情ほっこり話なんてものにはまったく向かわず、人間の業、深淵を描いている。幼馴染をなくした女も、必死に下働きを耐えた小僧も、そう簡単に欲望を抑えることはできない。一編一編の余韻が、短編と思えぬ大きさで、胸にずーんとくる。まるでノワールのようだ。
もちろん砂原浩太朗だから文章はピカイチだ。その文章を読んでいるだけでも小説を読む喜びが湧いてくる。