« 前のページ | 次のページ »

4月15日(月)吉報は突然やってくる

週末実家介護生活13週目を無事に終え、実家のある春日部から出社。

昼、高野秀行さんとランチ。高野さんにはとある原稿をお願いしており、3ヶ月ほど前にその約半分は書き上げたと報告を受けていた。今日こそはその残りの原稿について相談しようと思っていたのだ。締切を設けるのがよいのか(高野さんは締切が大嫌い)、ホテルにカンヅメになってもうか(ずっとお酒を飲んでしまうかもしれない)などとここしばらく最善策を練っていったのだった。

ところがなんと高野さんから信じられない言葉が発せられたのだった。

「杉江さん、あれ、全部書いたから」

どどどどどうして高野さんはいつも大切なことをこんな「ちょっとそこに砂糖買いにいってきて」みたいに話すのだろうか。

そう、『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞を受賞した際も、その受賞を知らせる電話の第一声は「聞いた?」なのだった。

今回の「あれ、全部書いたから」は、それに継ぐ腰抜け報告だ。というか本当に腰が抜けるほど驚き、うまくそれに返答することができなかったことを私はその後恥じた。自己嫌悪に陥るほど恥じた。

せめて大切なことを報告する際は、胸ポケットからピッコロトランペットを取り出し、ファンファーレを奏でたあと語り出すか、舌を打ってドラムロールを叩いてから報告して欲しい。

私は、ただの阿呆のように「本当ですか? 本当ですか?」と繰り返して、喜びも伝えられず食事を終えたのは痛恨の極みだ。

しかしもしかすると狐につままれたのではなかろうかと不審に陥り、その夜は神田明神にお参りにいくことにした。

暗闇のなかでライトアップされた神田明神には、私のように狐につままれたことを不安に思う参列者が後をたたず、お賽銭を投げ入れると二礼二拍手一礼をし、「原稿が本当に届きますように」と願ったのだった。

コンビニでビールを買って、不忍池のほとりのベンチに座る。泣きながら飲んだ。

« 前のページ | 次のページ »