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‎8月24日(土)車谷長吉『癲狂院日乗』

  • 癲狂院日乗
  • 『癲狂院日乗』
    車谷 長吉
    新書館
    2,860円(税込)
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車谷長吉『癲狂院日乗』(新書館)読了。

「「新潮」の編集者に「あなたを生かしているのは憎悪だ、恐ろしい」と言われ、雑誌掲載を断られている。文藝春秋には「当社はさわりのないおいしいところだけでけっこうです」と言われ(「直木賞受賞修羅日乗のこと)、「群像」からは「実名で書くのは受け容れられない」と拒絶された。読売新聞からも断られた。」とあとがき「日の目を見るまで」で、詩人であり妻である高橋順子氏が書いている。

平成十年四月十四日から翌年四月十三日までの『赤目四十八瀧心仲未遂』で直木賞を獲った年の日記で、「二十五年経ったいま、ようやく公刊され」たものだ。なかなか刊行されたなかったのは上記の理由であり、ようやく刊行できたのは書かれている人がだいぶ亡くなったからというのもすごいものだ。

直木賞受賞してそのフィーバーが落ち着いたあたりから記される新潮社の編集者との確執と、それにつけいる文藝春秋の編集者の振る舞いにページをめくる手が止まらなくなってしまった。さらに友人だった筑摩書房の編集者から届いた絶縁状など、スリリングというか、ゴシップ的にも読み応えがあって、さらに我を通したはずの車谷長吉氏も吹っ切れることなくいつまでも思い悩んでいて、様々な意味で人間の本質や業というものが曝け出されている。

そうすると読み手である私の中でもひた隠しにしていた怒りや恨みがふつふつと湧き出してきて、自身の業というものを見つめることとなる。

これぞ「私小説」作家の日記だ。

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