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3月1日(土)いつもの席

朝、コーヒーを飲んでいると、息子が「父ちゃん、明日、ナオトも一緒に応援するって」と話しかけてくる。

明日というのは浦和レッズの2025年ホーム開幕戦で、ナオトというのは息子の小学生の時からの友達だ。

埼スタで浦和レッズを応援するのに、いつの間にか息子の友達たちも一緒になっていた。20歳そこそこの彼らを「ヤング軍団」と呼んで、私たち観戦仲間は頼もしく感じていた。

ナオトもその中のひとりだった。シーズンチケットを購入し、ホームの試合だけでなく、アウェイも繰り出し応援する熱いサポーターだ。

そんなナオトはいつも埼スタで、私の前の席に立つ。そして後ろを振り返り、「あれ? ゴウ(我が息子)の父ちゃん一段上にいるのに俺の目線と変わらなくね?」と背の低い私をいつもバカにするのだった。

幼き頃からナオトを知っている私は笑ってそれに応え、すっかり背の伸びたナオトの成長をうれしく思っていた。

そんなナオトが学校で倒れ、心臓の手術をしたことを暗い顔をした息子が報告してきたのは昨秋のことだった。手術は無事終わったけれど、しばらくは埼スタの試合も座って観られる南側で観戦するといい、シーズンを終えるまで顔を見ることはなかった。

そのナオトが、われらゴール裏に復帰するらしい。

「大丈夫なのか?」と息子に聞くと、もうすっかり体調は回復したという。

「ナオトがさ、いつもの席で応援したいっていうから、いつもの席ってなんだよ?って言ったんだよ。オレたち自由席だからいつもの席なんてないじゃん」

息子の言うとおり、私たちはおおよそのエリアは決まっているものの、席はそのときそのときで変わるのだった。

「そしたらさ、ナオトが言うんだよ。おれ、ゴウの父ちゃんの前がいいんだよって。なんだよそれ?って聞いたら、後ろからゴウの父ちゃんのでかい声聞こえるとがんばれるんだってさ」

明日、私はゴール裏で3か月ぶりに声を出す。いつも以上の声を出す。選手とナオトのために。

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