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8月20日(水)小野寺史宜『あなたが僕の父』

  • あなたが僕の父
  • 『あなたが僕の父』
    小野寺史宜
    双葉社
    1,870円(税込)
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ここのところ正直あまりハマる作品がなかった小野寺史宜。そろそろ新刊を追わなくてもいいかもと考えていたところに出たのが、『あなたが僕の父』(双葉社)だった。

よし、これを読んで最終判断を下そう、なんて上から目線で本を手に取った自分をぶっ飛ばしてやりたい。「おまえ、小野寺史宜ナメんなよ!」と。

むせび泣いてしまった。『ひと』以来の感動だ。『ひと』以上の切なさだ。これが人生だよね。なんでもない人生を書かせたら、やはり小野寺史宜の右に出る者はいない。

一人暮らしの父親の物忘れが心配で、一年ぶりに館山の実家に帰省すると車のバンパーが凹んでいた。その原因を父親に訊ねても覚えていないらしい。40歳の主人公は考える。父親といっても十代の頃からほとんど口を聞いておらず、その人生もほとんどわからない。このまま何も知らないままでいいのか──。

年老いた父親の造形が見事。高齢男性の特徴をしっかり捉えており、歳をとった父と息子の微妙な距離感の会話もとてもリアルで、会話文を得意とする小野寺史宜の真骨頂だろう。

そしてバランスが絶妙だ。父親のこと、彼女のこと、東京のこと、館山のこと、近所のひとたちのこと、過去のこと、未来のこと。さりげなく、過不足なく語られる。

その先に、これまでの小野寺史宜とはちょっと違う展開が待っている。切ない。切なすぎる。頼むから続編を書いてくれ。あるいは他の作品で彼らを登場させて、その後の人生を見せてほしい。

「介護」以前の「介助」と呼べばいいのだろうか。まだ「護る」ほどではなく、「助ける」あるいは「見守る」ことが必要になった親がいる年頃の人には特に胸締めつけられる物語だ。

小野寺史宜をナメない方がいいぜよ。

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