9月21日(日)石川直樹『最後の山』
週末実家介護をしながら石川直樹『最後の山』(新潮社)を読み終える。
山の絵が空押しされた美しい装丁に惹かれて購入した本だが、この本は旅のカバンの中や旅先の宿の本棚でボロボロになって初めて真の姿となる本だと思った。
写真家の石川直樹は旅の延長で山登りをしているうちに8000メートル峰14座を登頂していたのだ。まずその事実に驚いた。
さらに14座登頂の日本人といえば竹内洋岳(『標高8000メートルを生き抜く 登山の哲学』NHK出版新書)と思ったら、その後「真の山頂」論争があり、竹内氏をはじめ多くの8000メートル峰14座登頂者が「真の山頂」には立っていないことが判明していることに二度びっくり。さらにさらに現在では1シーズンにいくつもの8000メートル峰を登り、シェルパの人たちが仕事を超えて登山に目覚め数々の記録を塗り替えているなどといった高地登山の様相にもっとびっくりする。
かつてジョン・クラカワーの名著『空へ』(ヤマケイ文庫)がエベレスト登山の現状を描き、山岳素人である私たちに現実を知らしめてくれたけれど、『最後の山』もそれに匹敵する面白さだ。
どんなに安全になったとしても8000メートル峰14座を簡単に登れるわけではない。やはりそこには死の口が開かれている。行間から生と死が、自然への畏怖が、そしてたくさんの人々やその土地への愛情が伝わってくる。『最後の山』は、これから何十年も読み継がれる本になるだろう。