11月13日(木)誕生日プレゼント
夜、カメラマンのキンマサタカさんと中井の伊野尾書店さんに集合し、閉店の様子を撮影する。
シャッターを閉める8時を待ちながら店内で本を見ていると、子供を二人連れたお母さんがお店に入ってきた。
お母さんがお店の一角にある文房具売り場で、カレンダーと手帳を買い求め、レジで会計をしている間、小学一年生くらいの女の子が妹を連れて店内を見てまわる。
本能的なものなのか、そこに並ぶ背表紙からか、児童書のコーナーに吸い寄せられるようにやってくる。
すると平台に積まれていた本を見つけた瞬間声を上げた。
「お母さん! お母さん、あったよ! この本、誕生日プレゼントの5000円の中で買って欲しい!」
会計を終えたお母さんの手を引っ張り、本を見せる。それは池田書店が刊行する女の子の好きが詰まったような本だった。
お母さんは、うーんという表情を浮かべた。早く家に帰って晩御飯を作りたいという感じだった。
「ねえねえ、だって私、まだ誕生日プレゼントもらってないし」
女の子は足を踏み鳴らして説得にかかる。
誕生日プレゼントをもらえていないのには、もしかしたらお母さんなりの事情があるのかもしれない。5000円はなんでもない人にとってはなんでもない金額だが、なんでもある人にとっては大金だ。
私は棚の前で本を読みながらそのやりとりを見つめ、これはダメかなと考えていた。お母さんはきっと「もう、帰るよ!」と子供たちの手を引っ張り、店を出ていくだろうと思った。
ところがお母さんはOKを出し、女の子は胸に本を抱きしめ、レジに駆けて行った。
レジでは伊野尾さんが、本を受け取る。
「カバーおつけしますか? 袋はお使いになりますか?」
大人とまったく同じ対応だが、少しだけ声が高いような気がした。
「1500円です」
と伊野尾さんが代金を告げると、女の子はお母さんに向かって、「1500円だって」と復唱した。
お母さんはお財布を出しながら、「3500円」とつぶやく。女の子は「?」という表情を浮かべたが、それはきっとお釣りの額ではなく、誕生日プレゼントの残りの金額を伝えたのだろう。もしかすると自分も忘れないために言ったのかもしれない。
伊野尾さんが、やはり大人と同じように「ありがとうございます」と頭を下げて本を渡すと、女の子とお母さん、そして妹がお母さんに手を引かれてお店を出ていった。
店の外で閉店作業を撮影しようと待ち構えていたカメラマンのキンさんは、のちにその女の子の様子をこう話した。
「あの子、本当にスキップするようにしてお店を出てきたんですよ」
伊野尾書店さんは来年3月でお店を閉める。





