第9回 8カ月 買い場を作る

 こんにちは、宇沢です。

 前回、文庫の一覧注文書について初歩の初歩をお話しした訳ですが、今回もやっぱり初心者向けの内容になりそうな気配。

 と言うのも、先日とある店舗から「文芸、文庫、新書の棚を見てやってくれないか」との依頼があって、改善出来そうなところや工夫の余地がありそうな部分を洗い出す、という作業をやってきた。
 担当のT青年はまだ3年目。人事でバタバタして、経験の長い者から丁寧に教わる機会を持てないまま、見よう見まねでどうにか棚を維持してきた、ということらしい。「素直かつ一生懸命な性格だから、ズケズケとダメ出ししてくれて構わない」と、先方の店長からも言われたので、4時間弱かな、一緒に仕事しながら気づいたことを話してきた。
 その模様を、録音していた訳じゃないから一字一句違わずにとはいかないけど、可能な限り再現してみようかな、と。

..............................................................................

「まず最初に分かっておいて欲しいのは、
 俺たちの仕事って〝これが絶対唯一無二〟みたいな正解って、あんまり無いと思うんだ。
 だから、これから俺なりに気づいた点をあれこれ言うけど、
 それは〝俺だったらこうするけどな〟という程度の話で、必須じゃあない。
 あくまでも参考として、自分で納得のいく部分だけ、取り入れてみて」

「はい、宜しくお願いします」

「納得しないまま嫌々やると、それで売上が落ちた時に後悔するから。
 自分なりに納得してれば、結果が悪くても受け入れて次に進めると思うんだ。
 で、前置きはこれぐらいにして、売り場を一周してすぐに気になったのは、POPが少ないな、と」

「あ、そうですか? これでも結構つけてるつもりなんですけど」

「それ、版元が作って配ってるヤツのことでしょ?
 そうじゃなくて、自前の、自作のPOP。殆ど無いでしょ?」

「POP作るの下手なんですよ(笑)。巧いコピーもなかなか思いつかないし」

「いや、巧いコピー書こうなんて思うから書けないんだよ(笑)。
 プロのコピーライターだって〝これだ!〟ってコピーはひょいひょい書けやしないでしょ、きっと。
 ましてやメガヒットに結びつくコピーなんて、そうそう無いんじゃね?」

「それなら、出版社が作ったキレイなPOPの方がまだマシかな......と」

「版元のPOPはキレイだけどね、どこの店にも同じもんがあるから新鮮味は無いよ。個性も無い。
 試しに、今日出勤途中で目にしたはずの電車広告、幾つ覚えてる?」

「そう言われると、思い出せないですね。寝てはいなかったから、見てる筈なんですけど」

「それに、信憑性と言うか、信頼性と言うか、そういう部分でも版元製は一段下かな。
 お客さんから見たら〝そりゃあ自分とこで作った商品なんだから褒めるよね〟と。
 テレビのCMだって、頭っから〝嘘だろう〟と疑ってかかりゃしないだろうけど、
 だからと言って、丸ごと鵜呑みに信じたりもしないでしょ?」

「でも、僕らもPOPで褒めますよね?」

「そりゃそうだ(笑)。これはつまらん! なんてPOP見たことないよ(笑)。
 但し、A出版はA出版の本、B出版はB出版の本にしか、POP書けないでしょ。
 俺たちは、店に在庫している数十万冊の中から好きな商品を選んで書けるじゃん。
 何でもかんでも無節操に褒める訳じゃない、数十万冊の中から厳選して書く。
 そこが版元のPOPとの大きな差。だから俺、版元のPOP使わないよ」

「全然使わないんですか?」

「〝これいいPOPだなぁ〟ってのがあれば使うけど、年に数枚だね。
 営業さんが一生懸命手書きして持ってきてくれたヤツなんかは、
 〝この人この作品好きなんだろうなぁ〟ってのが伝わってくることが多くて思わず使っちゃうけど、
 印刷して全国にバラ撒いてるようなヤツは、片っ端から捨ててる(笑)」

「それも極端っすね(笑)。でも、何書いていいのか分からなくって」

「①ネタは割らない ②嘘は書かない ③パクらない ④悪口は書かない
 ぐらい守ってればいいんじゃね?」

「それだけで売れますかね?」

「いや、だから〝売ってやろう〟みたいな欲出しちゃダメなのよ(笑)。
 さっきも言ったけど、プロのコピーライターだって難しいんだから、
 俺たち如きが、そうそう〝売れるコピー〟なんて書けないよ」

「となると、POPって何のために書くんですかね?」

「版元が印刷して全国にバラ撒いたヤツではなくて、
 下手でも何でも手作りのPOPがあれば、取り敢えず目にはつくよね?
 それで、その商品に一瞬でも目を止めてくれれば、それでいいのよ」

「ナルホド」

「当たり前のこと言うようだけど、俺たちの仕事ってのは〝本を売る〟ことじゃん。
 逆に言うと〝本を買って貰う〟ことだよね」

「まぁそうですね」

「俺たち習慣的に〝売り場〟って言ってるけど、
 お客さんの立場で考えたら、商品を買うための〝買い場〟なんだよね。
 〝買い場〟って言葉を会話で使ったりはしないけど、仕事中に頻繁に意識はしてる」

「ははぁ、買い場ですか。新しいっすね」

「で、買って貰うためにはまず、その本を見て貰わないといけない訳で、
 だから俺たちの仕事は、商品を見て貰うことでもある訳だ」

「見て貰う......?」

「うん、お客さんがその商品に気が付いて手に取って、それで〝つまんなそう〟って戻しちゃったら、
 それはもう、俺たちの責任じゃないじゃん。お客さんの好みに合わなかったってだけで」

「そりゃまぁ、そうでしょうね」

「だけど、〝本来その商品が好みに合う筈なのに、気づかずに通り過ぎちゃった〟としたら、
 その売り逃しは、書店の責任だと思うんだ」

「厳しいっすね(笑)」

「勿論、在庫してある全ての商品について完璧にってのは無理だよ。
 でも、ニアミスだけで通り過ぎちゃうケースを少しでも減らしたいなぁ、と。
 そう思ってPOP書いてる。だから、巧い下手は二の次(笑)。
 POPってのはあくまでも〝商品を見て貰うために〟書くのであって、
 〝POPを見て貰う〟のが目的ではないんだな」

「あぁ、POPを見て貰おうと思い過ぎてたかも知れません」

「版元の仕事は、いい本を作ってそれをしっかり書店に届けるところまで、だと思うんだよ。
 その本を売るのは俺たちの仕事。
 ってことは、どうやって売るかっていう工夫も、版元じゃなくて書店の仕事だと思うんだ。
 だから、POPとかパネルとか端っから版元に頼んでるのとか見聞きすると、
 己の仕事を丸投げしてるとしか思えん」

「どうやって売るかは書店の仕事、ですか」

「これは俺の想像だけど、〝このPOPがきっかけで全国で火がつきました〟みたいのだって、
 1枚だけ書いたのがブレイクした訳じゃなくて、きっと普段から何枚も何十枚も書いてる人で、
 その中の1枚がいろんな条件が上手くハマッたと言うか......。
 良いPOPって〝質より量〟を面倒くさがらずに繰り返した先にあるんじゃないかなぁ」

「ナルホド。でも、下手なPOPって、恥ずかしいっすね」

「そこは慣れろよ(笑)。どうせ大して読まれてねーよ(笑)」

「読まれてないんですか!?(笑)」

「POPを見て貰うためにPOPを書くんじゃなくて、商品を見て貰うために書くんだよ」

「分かりました。POP、質より量で頑張ります(笑)」

「あとね、文庫のフェア台。あれ、カッコ悪いと思う」

「〇〇文庫グランドフェアのとこですか?」

「そうアレ。そもそも俺、あのテの版元お仕着せのフェアって、フェアだと思ってないから。
 ただ売れ筋集めただけで何のストーリー性も無いし、〇〇文庫の中から選ぶってシバリがあるから、
 必ずしもその作家の代表作とか、そのジャンルの最上ランクが並んでいる訳でもないし」

「でも、そこそこ売れてはいるんですよ」

「そりゃ売れるわ。普段から売れてる商品に統一帯巻いてるだけだもん。
 もともと売れてるものを集めたフェアが売れるのは当然で、
〝このフェアだから〟売れてる訳じゃないでしょ」

「じゃあ、なんのためにやるんですかね、版元は」

「正確なことは知らんけど、数字合わせじゃないか?」

「数字合わせ?」

「去年この時期はこのフェアで××円売り上げました。前年比を確保するために今年もやります、みたいな。
 フェアを出荷しとけば、取り敢えず店頭での平台は確保出来るじゃない。
 そこに、普段から回転率の高い商品を入れとけば
 〝弊社のフェアは去年これだけ売れました〟って、書店に向けた営業トークもしやすいでしょ。
 だけど俺に言わせりゃ、〝その商品はフェアに関係なく、もともと売れてましたよ〟って(笑)」

「厳しいっすね(笑)」

「いや、あくまでも俺の想像よ。版元から直接そう聞いた訳じゃない。
 〝普段なかなか積んで貰えないんですけど、いい作品なんです〟みたいなラインナップだったら、
 多分、もっと積極的にやる気にやる気になるとは思う」

「でも、それで売れますかね?」

「売れないかも知れないけど、もともと回転率の高い商品は、本来の棚で頑張って貰えばいいじゃん。
 版元のフェアの中に〝回転がいいから万年平積みだよ〟みたいな商品、結構混じってるでしょ?
 あれ、無駄じゃね?」

「確かに」

「随分前だけど、〝売れてないけどめっちゃいい作品なんですフェア〟っての企画したら、
 複数の版元から〝著者への手前、謳い文句をもうちょっと変えて貰えませんか〟みたいな話が来て、
 面倒臭いくなってやめちゃったことがあるけど、
 そういうのこそ〝フェアの時ぐらい〟積んでやりたいと、俺は思っちゃうなぁ」

「ナルホド。って、さっきからナルホドばっかですけど、聞き流してる訳じゃないですよ」

「分かってるよ(笑)。
 で、あそこのフェア台って、〝この店でイチバン〟とは言わないけど、
 文庫のコーナーの中では1、2のいい場所ってか目立つ場所だよね」

「だからこそフェア台として使っている訳で......」

「そこよ。
 あのグランドフェアって、企画したのも選書したのも帯とかPOP作ったのも版元だよね?」

「そりゃまぁ、そうです」

「だとしたら、T君のやったのは、入って来た商品を並べて他人が作ったPOPを飾っただけじゃん」

「はい」

「いや、委縮しなくていいよ(笑)。怒ってる訳じゃないから。そもそも俺、上司じゃないし。
 文庫コーナーで一番いい場所ってことは、文庫売り場の顔であって、担当者の腕の見せ所でもある訳だ。
 そこで版元お仕着せのフェアを威風堂々展開するってことは、お客さんに
 〝うちのイチ推しは、企画も選書も販促物も版元製で、担当者は並べただけです〟
 って宣言してるのと同じだぜ。それが、カッコ悪い」

「でも、自分でフェアを企画するのって、難しくないですか?」

「そりゃ初めっから上手には出来ないわ。でも、やろうとしなきゃ永遠に出来ないぜ」

「テーマとか、どうやって決めてるんですか?」

「え、テキトー(笑)」

「テキトーって(笑)」

「いやマジで。テキトーって言い方が悪けりゃ、思いつき。
 〝変なタイトルフェア〟とかやったことあるよ」

「何ですか、それは?」

「いや、文字通り、〝変なタイトルだな〟と思ったものを集めただけ。100%主観。例えば
 『いいにおいのおならをうるおとこ』ジル・ビズエルヌ(ふしみみさを訳 ロクリン社)とか
 『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』アンドリュー・カウフマン(田内志文訳 東京創元社)とか
 『次の突き当たりをまっすぐ』いしわたり淳治(筑摩書房)とか」

「売れたんですか?」

「正確な数字は帰って資料ひっくり返さないと分からないけど、
 少なくとも、売れなくて困ったみたいな記憶は無いから、ほどほどには売れたんだと思うよ」

「かなり変化球ですね。初心者にはハードル高いですよそれ」

「いや、思いつきの例で挙げただけ。他には〈秋の夜長に「夜」を読む〉ってタイトルのフェアとか」

「何ですかそれは?」

「いや、そのまんま。家で晩酌しながら〝秋の夜長だなぁ〟とくつろいでたら思いついた。
 『極夜行』角幡唯介(文春文庫)とか
 『深夜プラス1』ギャヴィン・ライアル(鈴木恵訳 ハヤカワ文庫NV)とか
 『走らなあかん、夜明けまで』大沢在昌(講談社文庫)とか
 『停電の夜に』ジュンパ・ラヒリ(小川高義訳 新潮文庫)とか」

「よく思いつきますね」

「いや、よくってか、むしろ、〝ただの〟思いつきなのよ。
 秋の夜長に〝夜〟をキーワードにって、ヒネリも何も無いじゃん。
 あとは、何をピックアップするか、だね。」

「う~ん、思いつける気がしません」

「もっとヒネリ無く、2月から3月にかけて、〝卒業〟をキーワードにしたこともあったよ」

「それは確かに、ヒネリが無いですね(笑)」

「ただし、選書はちょっとだけヒネッたよ。
 タイトルもただ卒業じゃなくて〈卒業 旅立ち リスタート〉にした」

「どんなラインナップなんですか?」

「『卒業』東野圭吾(講談社文庫)とか『少女は卒業しない』朝井リョウ(集英社文庫)とか
 『卒業旅行』小手鞠るい(偕成社)とか、どストレートなのが全体の半分ちょっと超えるぐらいかな」

「残りの半分は?」

「『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』キングスレイ・ウォード(城山三郎訳 新潮文庫)とか
 『続 岳物語』椎名誠(集英社文庫)とか『独立記念日』原田マハ(PHP文芸文庫)とか
 『やめてみた。』わたなべぽん(幻冬舎)とか」

「ナルホドぉ~」

「卒業を、ただ学校を卒業するだけでなく、何かから、例えば息子から卒業する父親・椎名誠とか、
 悪いクセや習慣から卒業する『やめてみた。』とか、選書の際にちょっとヒネッた解釈をしてみる。
 但しヒネリ過ぎるとテーマが霞んじゃうからほどほどに。半分はストレートなものにしといた方が無難」

「ナルホド~。テーマは単純でも、中身でひとヒネリ出来ちゃうんですねぇ」

「それがまた楽しい。
 そういう選び方すると、文芸書と自己啓発書と絵本とコミックが同じフェア台に並んだりするから、
 バラエティの点でも面白いし、普段は立ち寄らない売り場にある本も見て貰えるじゃない。
 フェアの目的の一つは、そこだと思う。ってか、俺はそう思ってやってる」

「確かに、文庫売り場にしか行かない人とか、ビジネス書しか見ない人とか、結構いそうですもんね」

「あとはねぇ、2020年にコロナで大騒ぎしたじゃない」

「最初の緊急事態宣言の頃ですか?」

「そうそう。そん時に〝人類滅亡〟をテーマにフェアやった」

「ブラック(笑)。怒られませんでした?」

「炎上すると嫌だから、ネットでの告知はしなかった(笑)。
 人類滅亡だとさすがにアレだから〈君は生き延びることができるか?〉ってタイトルにした」

「それ、ガンダムですよね?」

「若いのによく知ってるな(笑)」

「どんな本を並べたんですか?」

「『渚にて』ネヴィル・シュート(佐藤竜雄訳 創元SF文庫)
 『地球の長い午後』ブライアン・W・オールディス(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
 みたいな古き良き名作から
『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー(黒原敏行訳 ハヤカワepi文庫)
『ジェノサイド』高野和明(角川文庫)、『塩の街』有川浩(角川文庫)とか、そんな感じ」

「『終末のフール』伊坂幸太郎(集英社文庫)なんかは、どうですか?」

「お、いいねぇ。そんな感じそんな感じ。そういうノリ」

「ノリですか(笑)」

「うん、フェアなんてノリだ(笑)
 あと同じ頃に〝1日も早く本当のフェスが出来ますように〟ってことで
 〈文庫でフェス!〉ってフェアもやったな」

「あぁ、フェスとかコンサートとか次から次へと中止になってましたよね」

「『ビルマの竪琴』竹山道雄(新潮文庫)、『ボクの音楽武者修行』小沢征爾(新潮文庫)みたいなド定番から、
 『ミュージック・ブレス・ユー!!』津村記久子(角川文庫)
 『階段途中のビッグ・ノイズ』越谷オサム(幻冬舎文庫)
 『成りあがり』矢沢永吉(角川文庫)、とかね」

「エッセイも小説もごった煮なんですね」

「うん、一つテーマを決めたら、あとは出来るだけ幅広いジャンルから集めたい」

「なんか、ちょっとフェア楽しそうに思えてきました」

「構えなくていいのよ。何度も言うけど、俺はいっつも思いつき。
 あとは、ノリだ(笑)」

「年内に、何か一つ、考えてやってみたいです」

「おぉ、楽しみながら考えてみてくれ」

「あ、〈今年こそは〉ってテーマで『三千円の使いかた』原田ひ香(中公文庫)とか
 『語学の天才まで1億光年』高野秀行(集英社インターナショナル)とか、どうですかね?」

「いいかも、いいかも。あとジョギングとかダイエットとか
 〝続けるコツ〟みたいな本も確かあったよな」

「あぁ、はっきり覚えてませんけど、なんかありましたね」

「そういうの調べてたくさんピックアップして、
 例えば40点のフェアなら最初は深く考えずに片っ端からリストにして、
 60点ぐらい集めたら〝これはちょっとズレてるか〟ってのを20点削る」

「多目に選んで削るんですか?」

「その方が、最終的にテーマとラインナップが歪まずにぴったりフィットすると思うよ」

「分かりました、やってみます」

「おぉ、頑張れ。
 で、フェアの話はこのぐらいにしておいて、次は、それぞれの棚前の平積みだ」

「はい......?」

「平積みしてある商品、ちゃんと売れてる?」

「一応、そのつもりなんですけど」

「数字見てないから正確なことは分からないけど、
 2、3カ月前は売れてたんだろうな、っていう感じの本がかなりある気がする」

「あ、それはスミマセン、あるかもです」

「だよね。例えば、発売から数週間経って売れ足が鈍った後も、惰性で平積みしっ放し、みたいな」

「言われてみれば、結構あるかもです」

「売上の数字見る時にさ、売れてない商品をもっと意識した方がいいかもよ。
 毎日、昨日何が何冊売れたかな? ってのは、言われなくても意識してるだろうし、
 そのデータってのは小細工しなくてもほぼ自動的に出てくるから、
 その結果、何を何冊発注しなきゃなんないのかな? ってのも、まぁ気づきやすいんだけど、
 平積みしてるのに売れてないリストって、簡単には出せないじゃん。
 だから、見落とすんだよね。
 ってか、〝売れてる本にばっか意識がいって、売れてない本が見えてない〟
 ってケースが結構あるでしょ」

「はい、何が売れたかは気にしてるんですけど......」

「いや、みんなそうなのよ、俺もそうだし。
 だからより一層、売れてないヤツはどれだー? って意識は強く持った方がいい」

「ナルホド」

「よくさ、既刊をしかけて火がつきました! みたいな案内が版元から来るじゃない?」

「そういうFAX、よく見ますね」

「あんなの、なかなか狙っては出来ないよ。それよりも、
 売り場から〝売れてない本〟を如何に減らすかを考えた方が、堅実だと思う」

「でも、データで出てこないから、なかなか気づきにくいです」

「それも、やり方次第。
 昨日何が売れたかなってデータを見る際に〝今、旬のもの〟にばかり目がいきがちだけど、
 〝久し振りに1冊売れてるな〟みたいな商品が必ず混じってるから、
 そういうの見っけたら、過去数週間の売行きを確認してみるのよ。
 そうすっと、〝ここ4週間売れてなかったんかい!?〟みたいなのが、結構見つかるはず」

「ナルホド~。凄く売れてる本だけじゃなくて、久し振りに売れた本も意識するんですね」

「まぁそれだけだと、全く売れてない商品は引っかかってこないから完璧ではないけどね。
 全く売れてない商品は、〝そこに積んであること〟が常態化して風景の一部になっちゃってるから、
 これもなかなか気づきにくいと言うか、目には入っているのに見えてない的なことになりがち」

「あぁありますあります(笑)。
 データに上がってこないと、どうやって見つければいいんですか?」

「だからこそ、担当者がいるんだよ。データだけで全て片付くんだったら、
 〝これとこれは返品して、代わりにこれとこれを積んできて〟って、
 昨日入社したばっかのバイト君にだって、任せられるじゃん。
 データではどうしようもないことこそ、俺たち担当者が面倒見なきゃ。
 と言って、これで漏れ無くバッチリなんて方法は俺も知らないんだけどさ。
 〝売れてない本はどれだー?〟って、年がら年中意識する癖をつけることだね」

「はい、覚えておきます」

「あと、それだけで不安だったら、最初のうちは、例えば
 〝直近の1カ月で3冊以上売れた〇〇文庫〟みたいなリストだったらすぐ出るじゃない。
 それを持って平台チェックしてやれば、〝あれ、こいつリストに挙がってないな〟って気づきやすいかも」

「ナルホド」

「毎日やるのは無理だし無駄だから、月イチとかで試してみれば」

「そうします」

「で、売れてない本を見つけたら、何でもいいから、他の商品と交換する」

「何でもいいって(笑)」

「いや、マジで何でもいいのよ。
 仮に新たに積んだ商品が全然売れなくても、ちゃんと売れてない本を選んで返品していれば、
 売れてなかったものの代わりに売れないものを積んだだけだから、
 言わばゼロをゼロに交換するだけ。プラスにはならないけどマイナスにもならないじゃん」

「確かにそれはそうです」

「どうせ売れてないんだったら、何でもいいから他の商品と交換してみて、
 それもまた売れなかったらまた交換して、ってことを繰り返すうちに、
 時には〝あれ? 案外売れてるな〟ってのが必ず出てくるから、
 そうやつは残して大事に育てていけばいい。
 逆に、月に5冊売れるポテンシャルの本を注文しても、
 代わりに月6冊売れる本を返品しちゃったらマイナスじゃん。
 売ろう売ろうとする余り、売れ方にばっかり気を取られて〝売れてなさ〟は見過ごしてる
 って人が、かなりいるんじゃないかと思う」

「いやぁ目からウロコです」

「そうやって売れてない本を見つけては他の本と交換してってことを繰り返すうちに
 もしかしたらスゲー売れる既刊ってのに出会えるかもよ。
 一発狙いじゃなくて、まずはコツコツと売れてない本を拾っていこう。
 ホームランはヒットの延長(笑)」

「早速、次の休配日に、売れてない本探し、してみます!」

 といった会話を重ねていったんだけど、当時はなんとなく話していただけなのに、こうして文字に起こすと随分な分量になってしまうな。今月1回で終わるだろうと思ってたけど、甘かった。長くなったので続きはまた次回。

 ということで、皆さん、風邪など気をつけてお過ごし下さい。