【今週はこれを読め! SF編】母から娘、四世代にわたる人類のサバイバル~高島雄哉『はじまりの青 シンデュアリティ:ルーツ』

文=牧眞司

  • はじまりの青: シンデュアリティ:ルーツ (創元SF文庫)
  • 『はじまりの青: シンデュアリティ:ルーツ (創元SF文庫)』
    高島 雄哉,MAGUS
    東京創元社
    836円(税込)
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 メディアミックスで展開中のプロジェクト〈SYNDUALITY〉の、本書は公式小説。高島雄哉作品らしい、ハードSFのガジェットと青春小説テイストがたくみにブレンドされている。また、文章作品ながら、場面の構成や描写に工夫を凝らし、強烈なイメージ喚起力を発揮する。

 はじまりは西暦2099年に突如、地上に降り注いだ青い雨だった。のちにブルーシストと呼称されたその雨は、ガラス窓をつきやぶり、建物の機能を不全におとしいれる。また、それに触れた人間の皮膚にモザイク状の染みを発生させ、死に至らしめる。通信や流通などの社会機能は麻痺し、自然の景色も大きく様変わりしてしまった。生き延びた数少ない人間は雨を避け、地下へ向かった。

 そのなかに、壊滅した尖塔都市〈ラミナ〉から脱出したふたりの少女がいた。エリロスとアイ。彼女たちは、青い雨を予測する感性と、地上で活動するための移動機械〈クレイドル〉を操縦する能力を発揮し、さまざまな物資を調達するドリフターという仕事に就く。ドリフターの探索対象のうち、もっとも重要なのは新しいエネルギー源〈AO(Amorphous Orange)結晶〉だ。その正体は不明だが、ブルーシストとほぼ同時に発見された。

 ブルーシストとの関連が噂されるものには、異形の脅威〈エンダーズ〉もある。こちらも正体不明。多くは動物に酷似した形態を持ち、どうやら〈AO結晶〉からエネルギーを得ているようだ。

 人類の苛酷なサバイバルという大きなプロットと、ブルーシストをめぐるいくつかの謎、そして相棒として活躍するエリロスとアイのドラマ。物語はテンポよく進み、第二世代にあたる、エリロスの娘エオーナ(彼女もドリフターとなる)と、アイの娘アサ(彼女は建築師となる)が登場する。さらに、第三世代のエウディア(ドリフター)とアメ(数学師)、そして第四世代のエリス(歌姫)とアオ(ドリフター)と、運命のバトンは受けつがれていく。

 母から娘へという縦の継承(ただし感情的な結びつきはそれぞれの母娘で異なる)と、相棒となる同世代同士の横の連帯(これもそれぞれのペア特有の機微がある)。これによって、全体に瑞々しい香気が醸しだされる。

 プロジェクト名の〈SYNDUALITY〉にはさまざまな意味がこめられているのだろう。本作では、それぞれの世代でふたりの女性が相棒となって、人類史に新たな局面を拓いていく展開が端的だ。また、物語中で圏論への言及があることも注目ポイント。双対性(duality)は圏論では基本的な概念のようだ。圏論は現代数学における注目分野であり、素人目には高度に抽象的な議論(集合論を発展させたような)に思えるが、そこはさすが高島雄哉。大ぶりのSFギミックにみごとに結びつけている。

(牧眞司)

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