【今週はこれを読め! エンタメ編】鈴木おさむの"小説SMAP"『もう明日が待っている』

文=高頭佐和子

 放送作家として、長い年月をメンバーたちと関わってきた鈴木おさむ氏による「小説SMAP」である 。 野心あふれる一人の若者が、世間に認知され始めたばかりのアイドルグループに出会い、自らも才能を開花させていく自伝的青春小説でもある。

 「アイドル冬の時代」と呼ばれる時期にデビューし、バラエティ番組に活路を見出して、人気が出始めていた男性アイドルグループがいた。1994年、駆け出しの放送作家だった「僕」は、そのメンバーの一人「タクヤ」のラジオ番組に、放送作家として関わることになる。22歳同士の二人は意気投合し、従来のアイドル像を壊していくような番組を作った。それを面白がってくれたマネージャーの「イイジマサン」に誘われ、人気テレビ局で始まる彼らがメインの新番組に参加することが決まる。

 番組の視聴率は初回から20%を超え、新しい時代が始まった。すぐにメンバーの一人「モリクン」が脱退するが、5人になったグループの人気はますます加速する。そんな折に「タクヤ」は結婚し、勢いが衰えていくことを予想する人も多かったが、彼らは「国民的」と言われるほどの人気を獲得し、番組視聴率はますます上がっていく。

 メンバーひとりひとりの個性と結束力、「イイジマサン」の決断力、番組を作る人々の熱意......。それらが合わさって、彼らは危機を乗り越え、いくつもの奇跡を起こしていく。この小説の中では、具体的なグループ名や番組名は語られない。主要な登場人物たちも、フルネームで出てくることはないから、フィクションのように読むこともできる。だけど、同じ時代をよく知る私には、全てが映像のように具体的だ。テレビのこちら側で見ていた場面でも、視聴者の立場では決して見ることのできなかった場面でも、彼らの姿と声が脳内で鮮やかに再現されていった。物語のラストは2016年だ。異例の緊急生放送から、グループとして最後のテレビ出演となる番組の最終回までが「僕」の視点で描かれていく。

 SMAPのことが好きだった。今でいう「推し活」をするほど熱心だったわけではない。だけど、アイドルという言葉から連想できる年齢を超えても、5人で歌っている彼らはかっこよかったし、それぞれの場で活躍しながらずっとSMAPも続けていくのだろうと思っていた。全員が黒いスーツ姿で並んだ笑顔が全くない会見を見た時の、大切な何かが壊されたような衝撃はよく覚えている。世の中はきれいごとばかりでできていないことはわかっていたけれど、あのラストはやっぱり悲しかった。たくさんの奇跡を起こしたスターにも、どうしても動かせない大きな物があって、その前では諦めることしかできない同世代の男性だったのだと、気づいてしまったような気持ちだった。痛ましさもモヤモヤした感情も、読みながら再現されてしまった。

 でも、全て読んだ今思うのは、何かが終わったからといって、それがなくなるわけではないということだ。結末に苦みがあっても、彼らが起こした奇跡が消えるわけではない。さまざまなことを乗り越えて、今もひとりひとりのメンバーは新しい輝きを放っている。あの解散があったからこそ、変わったことや気づいたこともある。

 すばらしい思い出も、苦い過去も、感謝も後悔も全て抱えて生きていく。それはきっと、彼らも私たちも同じなのではないだろうか。国民的アイドルグループのような影響力はないけれど、生きている限りは誰だって、小さな奇跡を起こすことや何かを変えることができる。そんな気持ちで一歩を進む力を、彼らと彼らの周辺にいた人々は確かにくれていたのだ。そこにどんな努力や思いがあったのかということを、どれだけ本気で全力だったのかということを、この小説によって知ることができた。始まったことには必ず終わりがあるけれど、何かが終わった後にも明日が待っていることも、教えてくれた。読んで良かったと心から思いながら、私の頭の中ではずっと彼らのヒット曲が流れている。

(高頭佐和子)

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