【今週はこれを読め! エンタメ編】『通常は死ぬ前に処分したいと思うであろう100のモノ』に胸が熱くなる!
文=高頭佐和子
先日発売された「本の雑誌」2024年8月号がすごい。上半期ベスト10掲載号であることに加え、巻頭コーナー「本棚が見たい!」で自身の本棚を公開しているのが、あのみうらじゅん氏なのである。
ミイラ、仏像、ボブ・ディラン、天狗、のらくろ......。貴重な資料がたくさん並んだ素晴らしい本棚写真だ。同じテーマの本がまとまっているようでありながら、あちこちに飛んでいたりする。ジャイアント馬場氏や水着美女のアクリルスタンド、小さい仏像だとかシルバニアファミリーっぽい何かなども陳列されていて、その絶妙に雑多な感じに顔がニヤついてしまう。「引っ越し業者がおまかせパックで並べてくれたままの状態をキープするように心がけている」というコメントに、腹が捩れるほど笑った。購入を迷っていた最新刊『通常は死ぬ前に処分したいと思うであろう100のモノ』を、やはり読まなければならないと思った。
著者が「いやら収集品」と呼ぶエロいもののコレクションについての本である。いやらしいものなんて......、そういうのには全く興味がないんですっ!という方にも、ぜひ目次だけ見ていただきたい。
ヌード写真入りトランプ、日活ロマンポルノの名作選ブルーレイ、ラブドールのような直球にいやらしさをイメージできるものも掲載されているが、「股間に天狗面を当てた小便小僧像」「豹柄の全身タイツ」など想像しただけで呆れる感じのもの、「絵本『こぶとりじいさん』」、「雑誌『ムー』の通販で買った願いを叶えるマシーン」など、名前だけでは何がエロなのかさっぱりわからないものもある。
一般的には、うっかりノリで買ってしまえば後悔するし、もらったら困惑するようなものばかりだ。部屋に置いてあることは他人にばれなくないとも思うだろう。こういうものを「集め、捨てない修行(プレイ)」を数十年間続けてきた著者の偉業が凝縮されていて、震え笑いながらもなんだか胸が熱くなった。
読み終わった後に改めて本棚写真を見ると、一般人投稿エロ雑誌『オレンジ・ピープル』があちこちに点在していたり、「恥ずかしそうに胸元と股間をお隠しになっているヴィーナス」のアクスタがジャイアント馬場氏のそばに並べられていることにも気がつく。次々に発見があり、あっという間に時間が過ぎていく。
特に印象的なのは、長年かけて収集された紙類である。電話ボックスに貼られていた数千枚のエロ・チラシ、ポルノ映画館に通って交渉し、集め続けたエロスチール写真、雑誌で見つけるたびに切り取って集めているという「変態」という文字の切り抜き、45年間作り続けてまもなく800巻(!)に到達するというエロスクラップ......。ゴミになるはずものが、貴重な資料になっている。「継続は力なり」という言葉が浮かんだ。
同時代に同じ国に生きている人間の一人として、著者の収集物はエロいものもそうでないものも、後世に残してほしいと思うのだ。国立民族学博物館に行くたびに、ここにみうらじゅんルームが作られることを願ってしまう。
紙の本が消え去ったら、スクラッパーを引退するしかないと著者は書いている。そんなことには、絶対になってほしくない。末永く「変態」の文字やらエロい写真を、切り抜き続けていただきたい! 低迷し続ける書籍と雑誌の売上を、二十数年間書店の現場で体感してきた者として、身が引き締まる思いがする一冊でもある。
(高頭佐和子)