【今週はこれを読め! エンタメ編】みうらじゅん『アウト老のすすめ』に心が沸き立つ!
文=高頭佐和子
老い。
そんなものは自分には関係ないと思っていた時代もあったのだが、気がつくとそれは身近で切実な問題となっている。増え続けるシワと白髪、衰えまくる視力と体力と気力、襲いかかってくる先々への不安......。私が子どもの頃、たいていの大人たちはちゃんとしているように見えた。四十を過ぎたら惑わず、自分と折り合いをつけて生きるものだと思っていた。上質の趣味とかセンスとか人生哲学だとかを、自然と身につけられるはずだと思っていた。だが現実は......。もしかしてヤバい?もう手遅れ?このまま変な老人になるしかないのか?
そうだ、そんな時こそ本を読めばいいのだ。書店の売場を見れば、素敵に年を重ねるとか生き生きとした老後とかの、参考になりそうな素晴らしい本がゴマンとあるではないか。しかし、子どもじみた内面を維持したまま老化現象だけを受け止めている私には、なんだかピンとこない。そんなモヤモヤした心の中の霧を、スカッと晴らしてくれる一冊が刊行された。
「アウト老」
はみ出し老人のことを、そう呼ぶらしい。バカバカしすぎるオヤジギャグだが、タイトルを見ただけで腹が捩れたのは、著者がみうらじゅん氏(MJ)だからだ。MJは、私が二十代の頃からのヒーローである。いやげ物、マイブーム、ゆるキャラ、とんまつり、エロスクラップ、カスハガ......。意表をついた収集欲と視点で世間を動かすパワーと、突き抜けたネーミングセンスにずっと憧れ続け、毎度呆れ笑っている。気がつくと、MJも還暦を超えているが、年を重ねてもMJはMJだ。唯一無二の生き方は、「老いるショック」をネタしてさらにパワーアップしているようだ。
「アウト老の辞書に終活という文字はない。あるのはくだらないとされるものを集め続ける"集活"のほうだ。」
序文にあるその力強い言葉に、ゆるキャラショーを東京ドームに観に行った遠い日と同じくらいに、心が沸き立つのを感じた。
耳鳴りがする。不愉快な老化現象の一種である。MJにかかればそれは「蝉を耳の中で飼っている」「年中夏休み気分でいられる」となるのだが、声が聞こえづらくイライラすることもある。普通であれば、補聴器や薬でなんとかするとか、年齢には勝てないよねとガマンするところだが......。
MJの対策は、『おさるのジョージ』に出てくる黄色い帽子のおじさんを見習うことだ。何があっても怒らないおじさんの、全身黄色のファッションに悟りを開いた者の金色の輝きを見出すMJ。都内の店舗を巡ってようやく探し当てて購入したおじさんのぬいぐるみを、イライラするたびに拝んでいるらしい。そんな60代って、ありなのか? もう笑いがとまらない。
死ぬ前にいい走馬灯を見るために、過去に付き合った女性の名前を思い出そうとしたり、日々の散歩の目的として『あさりちゃん』の全巻収集を試みたり......。あまりにも愉快で、心の健康に役立つエッセイだ。驚くほどよく売れており、早くもブームの兆しが見えている。「アウト老」が、「ゆるキャラ」や「マイブーム」のように、多くの人が普通に口にする用語になる日もそう遠くないかも。
私の心を最も動かしたのは、『妖婆に首ったけ』という章に書かれた「老け作り」という言葉だ。以前、人気モデルの女性と写真を撮っていただいたことがあるのだが、美しい姫を誘拐しようとしている不気味な妖怪っぽいものが写っていた。衝撃を受ける一方で、「面白い」と思う自分もいたのだけれど、老け見えはヤバいという固定観念を捨てきれず、自分なりに若見えなどを意識するようになった。世間の基準とか、誰かとの比較をしてがっかりする必要などないはずだ。自分なりのビジュアルを楽しんでもいいのではないか。
「老け作り」今度試してみたいと思います。
(高頭佐和子)