【今週はこれを読め! コミック編】主人公二人の「名前のない関係」〜岡畑まこ『縁もたけなわ』

文=田中香織

若松知里(わかまつちさと)と江角徹大(えすみてった)は同級生で、小学校からの腐れ縁。時に憎まれ口を叩きながら、その実、一番近いところで互いを支え合ってきた。その様子を見ていた周囲はいろいろ勘繰るが、同じ中学、高校を「ただの幼馴染」として過ごし、社会に出ても変わらなかった二人。そうして今日、徹大は知里の結婚式に参列して──。

子どもでも大人でも、誰かと友だちであり続けることは思いのほか難しい。ましてや互いを理解し、背中を押せる相手となれば。本作は主人公二人の、家族でも恋でもないが単なる友達とも言い難い「名前のない関係」を描く、全4話の連作短編集である。著者にとって本作の1話目「祝宴」はデビュー作とのことだが、読み切りとしての完成度は高く、言われなければとてもそうとは気づかなかった。

徹大は知里の晴れ姿を眺めながら、昔を振り返る。10代で迎えた人生の岐路で、二人の関係は変わる可能性もあった。だが彼はそうしなかったし、彼女もそれを選ばなかった。「ではどうして知里は自分のそばにいたのか」──当時の徹大はその理由と、知里自身すら気づいていなかった彼女の望みを、声に出すことなく確かに理解していた。

幼馴染の男女の物語では恋愛や結婚に繋がる話も多い中、著者はその着地を選ばない。あとがきには「『状況が違えば恋愛関係になったかもしれないけれど現状なり得ない2人』みたいなのが元々すごく好きだった」とあって、なるほどと膝を打った。だからだろうか、知里と徹大の選択は、しっくりと腑に落ちる。

2話目以降は、知里や同級生・夏芽のターンへ移る。1話目の徹大の視点を補足するように、彼の存在と行動が彼女たちにどう響いていたのか。そして大人になってからの日々。3話目で明らかになる徹大の思いは、本作の英語のタイトル"The most I can do for my friend is simply to be her friend"と相まって、胸に迫る。

ちなみに本作は2021年から、季刊誌『シーズンJam』での連載として「LINEマンガ」上で発表された。昨今はマンガ雑誌が減る一方、webやアプリでの連載は驚くほど増えている。その上、紙や電子で1冊の単行本としてまとまることなく、「単話売り」の形態のまま販売を続ける作品も多い。私は今回、紙の本で初めて本作に触れた。表紙のイラストと装丁もさることながら、タイトルのフォントに惹かれたためだ。だがそれも、単行本とは表紙が異なる単話売りのままだったならば、気づくことすらなかったかもしれない──そう思うと、まとめてくれたことには感謝しかない。読めてよかった!

(田中香織)

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