
作家の読書道 第116回:窪美澄さん
初の単行本である『ふがいない僕は空を見た』が刊行当時から多くの人から絶賛され、今年は今年本屋大賞2位、さらには山本周五郎賞を受賞という快挙を達成した窪美澄さん。新人とは思えない熟成された文章、そして冷静だけれども温かみのある世界に対するまなざしは、どのように培われてきたのか。影響を与えられた本、小説を書くことを後押ししてくれた大切な本とは?
その2「現代国語の先生の課題図書」 (2/5)
- 『世紀末オーガズム―詩集 (1983年) (叢書・女性詩の現在〈5〉)』
- 榊原 淳子
- 思潮社
- 1,575円(税込)
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- 『地獄の季節 (岩波文庫)』
- ランボオ
- 岩波書店
- 518円(税込)
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- 『意味という病 (講談社文芸文庫)』
- 柄谷 行人
- 講談社
- 1,188円(税込)
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- 『善悪の彼岸へ』
- 宮内 勝典
- 集英社
- 2,052円(税込)
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――高校時代はまた読書量も増えたのですね。
窪:高校に現国の森本先生という男性の先生がいらっしゃいまして、のちに校長先生になるんですけれど、その先生が教科書を使わないで好きなように授業をしていたんですね。好きな詩をコピーして読ませて感想を書かせたり、ノートを1冊用意させて、コラムと呼んでましたけど、どんなテーマでもいいからと自由に書かせたり。そのコラムでいつも10点満点をもらっていたので、自分が書くものは面白いのかも、と調子に乗ってました。図々しくも(笑)。森本先生が紹介してくれたのが、当時現代詩の詩人として話題になっていた榊原淳子さんの『世紀末オーガズム』。そのプロローグに「宣言」という詩があったんです。〈水が流れている/あの日も水が流れていた/こんな風に/時に激しく〉〈水底には/影ができている/へばりついているものがある/たった一片の、しかし、非常に固い/いし であった〉とはじまって、最後には〈石がすり減ればすり減るほど/水は汚れ反対に石は美しくなる/記憶せよ、水は汚れ反対に石は美しくなる〉とあって。女子高生にこの詩集を投げかけた先生の気持ちを考えると切なくなるんですけれど(笑)。かなり面白い先生でした。ランボーの詩集の『地獄の季節』や柄谷行人の評論集『意味という病』なども読まされました。
――詩にも興味を覚えたのですか。
窪:榊原さんは雑誌の「鳩よ!」などで話題になっていたんですよね。「鳩よ!」は久坂葉子さんといった文学少女が惹かれる特集をよくしていたので、その影響もあったと思います。その頃、渋谷の西武のB館の地下に「ぽると・ぱろうる」という詩集などの本の店があったんです。そこに榊原さんはもちろん、伊藤比呂美さんや西脇順三郎や北園克衛などの本があって、どれも値段が高いので、よく立ち読みを・・・・・(苦笑)。現代詩の本って薄紙がかかっていて丁寧に扱わないといけないのに、よく見逃してくれていたなと思います。そこで寺山修二や澁澤龍彦にも出会ったんです。
――小説はほかには何を読まれていたのでしょう。
窪:その頃、隣の駅に古本屋が突然できたんです。新潮文庫が1冊20円とか30円。高校生にも買える値段だったので、そこで太宰治や夏目漱石、三島由紀夫をひとおおりざーっと読んでいました。駄菓子を買う感覚で本を買っていましたね。太宰は「皮膚と心」、三島は「音楽」、あと芥川龍之介の「春の夜は」などが大好きでした。村上龍、村上春樹も読んでいましたが、と同時に宮内勝典さんがすごく好きになったんです。『グリニッジの光を離れて』の表紙の絵が横尾忠則さんで、それに惹かれて読んだのが最初だったと思います。そこからノンフィクションの『宇宙的ナンセンスの時代』や、後に書かれたオウムのことを書いた『善悪の彼岸へ』まで、ずっと追いかけています。私の世代にとっては、宮内さんは世界の各地に行っていろんなことを見て教えてくれる賢者という感覚がありますね。ほかには村上春樹つながりでレイモンド・カーヴァーの『大聖堂』も読みました。これは今でも好き。不思議な吸引力がありますよね。子供ながらにここには大事なことが書かれてあると思っていて、今も何が書いてあるのかよく分かっていないし、分からないまま死んじゃうかもしれない。一生読める本です。カーヴァーは他に『ささやかだけれど役に立つこと』などを読み、あとはサリンジャーの『フラニーとゾーイ』などを。
――漫画は読みましたか。
窪:大島弓子さん、山岸涼子さん。あとは、高野文子さんとか。高野さんの『絶対安全剃刀』は当時読んで、みんなびっくりしたんですよ。最近『こちらあみ子』の今村夏子さんが大好きなんですが、あの時の高野文子みたいだなって思うんです。同じ漫画、同じ文字なんだけれども全然違うものがそこにあるんだという。ほかに、20歳くらいの時は丸尾末広さんというものすごくエログロな漫画を描く方の作品をめちゃくちゃ読んでいました。ずっと後になりますが、岡崎京子さんも読みました。94年の『リバーズ・エッジ』は『ふがいない僕は空を見た』に出てくるあの町、あの高校生たちとすごく世界が近い。自分の中ではじめて小説として喚起されたものがあったんです。生身の身体を持て余している話なんですけれど、ゲイの子が出てきたりと、重なる部分がありますね。影響はものすごく大きいです。
- 『大聖堂 (村上春樹翻訳ライブラリー)』
- レイモンド カーヴァー
- 中央公論新社
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- 『フラニーとゾーイー (新潮文庫)』
- サリンジャー
- 新潮社
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- 『絶対安全剃刀―高野文子作品集』
- 高野 文子
- 白泉社
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- 『こちらあみ子』
- 今村 夏子
- 筑摩書房
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