第152回:中村文則さん

作家の読書道 第152回:中村文則さん

ミステリやスリラーの要素を感じさせる純文学作品で、国内外で幅広い層の読者を獲得している中村文則さん。少年時代は他人も世界も嫌いで、学校では自分を装っていたのだとか。そんな中村さんが高校生の時に衝撃を受けたのは、あの本。そして大学時代がターニングポイントに…。デビューの裏話などを含めたっぷりうかがいました。

その6「新作、そして今後について」 (6/6)

――執筆時間や読書時間は決まっていますか。

中村:昼に起きるんですが、起きて2時間後から頭が冴えるそうなので、2時間は散歩したりして過ごします。夕方くらいから、いちばん頭の冴えている時間帯に小説を書く。夕食をとってから夜はエッセイなどを書く。それから本を読んだりする。寝るのは4時くらいです。

――さて、新刊の『A』は2007年から14年の間に書いた短編を集めたもの。テイストはいろいろですが、どれも発想の妙が楽しめますね。

中村:ものすごくふざけた短篇を書いた時って、落ち込んでいた時だったりするから不思議ですよ。これはいろんなタイプの短篇を入れて、読む人が楽しんでくれたらと思いました。長篇だと書ききれない、はみ出るものもある。それを短篇にしました。ピンポイントに絞ってぎゅっと書く感じですね。「三つのボール」なんて、ボールが跳ねているのみの話ですが、それで200枚くらいでは書けないでしょう(笑)。「A」と「B」は戦争の話ですが、もしもこれが長篇だったら「A」は主人公が徴兵されていくところから始めて、あそこに書かれてあることをクライマックスに持ってくる。それをせずにクライマックスだけ書くことで、短い時間で読んで大きなものを得てもらえたら。

――順番は発表順ではないんですね。

中村:最初は僕っぽいものにして、だんだんふざけていって、「三つのボール」のような実験的なものを載せ、官能小説があった後で戦争小説になって、最後は実話、という順番です。

――今後の刊行予定を教えてください。

中村:長く連載していたものがようやく終わって、12月中旬に集英社から大長編を出します。『教団X』というカルト宗教の話で、原稿用紙で800枚は越えていると思いますね。今新聞にも連載を書いているんですが、それは年内に終了して来年春ごろに本になる予定。他に、11月8日に『最後の命』の映画が公開になります。僕の小説のなかでもいちばん映画にしてはいけないんじゃないかという話なんですが、試写を観たらすごくよかった。文学を映像で観ているようでした。

(了)