第199回:瀧羽麻子さん

作家の読書道 第199回:瀧羽麻子さん

京都を舞台にした「左京区」シリーズや、今年刊行した話題作『ありえないほどうるさいオルゴール店』など、毎回さまざまな作風を見せてくれる作家、瀧羽麻子さん。実は小学生の頃は授業中でも読書するほど本の虫だったとか。大人になるにつれ、読む本の傾向や感じ方はどのように変わっていったのでしょうか。デビューの経緯なども合わせておうかがいしました。

その5「作家になってからの読書」 (5/6)

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――では、プロになってからの読書生活というのは...。

瀧羽:設定や構成など、技術面を意識して読むようになりました。担当編集者をはじめ、業界の方たちにお会いする機会があれば「今読むべき本は何か」というのを聞くようにしています。「最近面白い本があったか」もよく質問しますね。付き合いが長い編集者だと私の好みを分かっていて、好きそうなものを教えてくれます。でも、自分からは手が伸びなかったような作品でも、やっぱり面白いものは面白くて。プロの意見は、とても参考になります。

――今は好きなものの傾向があるということですね。

瀧羽:そうですね。静かで穏やかな話が好きです。苦手なのは、人が死ぬとか不治の病とか......別に死んでもかまわないんですけど、ホラーやグロテスクなものはちょっと。あんまりひどすぎる話、理不尽な話も、辛くなってしまうのであまり手を出しません。でも薦められて読んでみたら、話の展開にひっぱられて、するする読んでしまえたりもするんですよね。前から好きな小川洋子さんや川上弘美さんにしても、静かな世界の中におどろおどろしい部分もあるし。ああいうのはわりと大丈夫なんですけどね。不条理な暴力とか、虐待とか、貧困とか、どうにもならない不幸が出てくると心が折れがちで。でもまあ、勉強がてら、なるべく苦手意識を持たずに幅広く読もうと心がけてはいます。

――小川さんや川上さんで特に好きな作品は何ですか。

瀧羽:川上弘美さんは『神様』が一番好きです。小川洋子さんは『人質の朗読会』や『不時着する流星たち』。あと津村記久子さんも好きです。特に『ミュージック・ブレス・ユー!!』は、読むと必ず泣きそうになります。最新作の『ディス・イズ・ザ・デイ』も大好きでした。男性作家では、森見登美彦さんは『有頂天家族』が好き、堀江敏幸さんは『雪沼とその周辺』が好き、佐藤正午さんは『鳩の撃退法』が好き......挙げ出したらきりがないですね。
海外小説は、小説を書き始めてからのほうが、読む機会が増えました。やっぱり、静かな話が好きです。新潮社のクレスト・ブックスもよく読みます。アリス・マンローとか、ジュンパ・ラヒリとか。今はどちらかというと長篇より短篇に惹かれますね。子どもの頃は、しっかりしたあらすじがあって起承転結もくっきりしている長い物語が、あんなに好きだったのに。でもよく考えたら、短篇できれいに起承転結をまとめるって、高度な技術なんですよね。今となっては、小説を書く立場として読んでしまうので、あれこれ考えさせられます。洗練されたプロットや上手な語りには憧れますね。こんなふうに書けるなんていいなあ、とうらやましくなることも多いです。
そうそう、あと今年は原尞さんにはまりました。

――えっ。『私が殺した少女』の原尞ですか? ハードボイルドな探偵ものですよね。最近新作が出ましたけれど、これまでの瀧羽さんの読書遍歴とまったくイメージが違いますね。

瀧羽:まず、14年ぶりの新作だという『それまでの明日』を読んで、「うわ、何これ面白すぎる」と戦慄しました。一気に既刊を全部読んでしまって、今になって後悔しています。次作も14年後かもしれないのに、せめて1年に1冊ずつとか、もっと大切に読めばよかった。

――あのシリーズは、まあそうか、人は死ぬけれどグロテスクではないか。

瀧羽:徹底的にドライですね。展開が緻密で、文章も端正で。もう、なんていうか、好きすぎます。ほとんど恋ですね。しかもひとめぼれ。自分には書けないからこそ、ハードボイルドへの憧れもふくらんで。周りからは、次はレイモンド・チャンドラーを読んだらいいんじゃないかと言われています。時間のある時に読んでみるつもりです。

――フィリップ・マーロウものはどの訳で読むかにもよりますね。

瀧羽:海外ものって、翻訳によって印象が変わりますよね。あと、私はミステリーを読んでいても、「この文章が好き」とか「ここの表現が面白い」とか、本筋に関係のない一文が妙に心に残ったりします。そのわりに、肝心の犯人が誰だったかという記憶が落ちるという(笑)。最近特に、記憶力が衰えていて。

――分かります。夢中になって読んだものほど、本を閉じた後、何も思い出せない時があります。

瀧羽:そうなんですよ。書き出しは覚えていても、その後どうなったのかが分からない。読んでいる瞬間はすごく集中しているのに。なんていうか、異世界に行って帰ってきちゃって、呆然とする感じがありますね。

――では、読書記録や感想を書き残しておくことはしませんか。

瀧羽:仕事で依頼をいただいた場合以外は、しませんね。私の場合、そもそも立派な感想も浮かんでこなくて......読み終えた時は興奮しているんですけど、「好き!」とか「面白かった!」とか単純な気持ちが強くて、わざわざ書き残すまでもないんですよね。

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