第205回:今村昌弘さん

作家の読書道 第205回:今村昌弘さん

2017年に鮎川哲也賞受賞作『屍人荘の殺人』でデビューした今村昌弘さん。意表を突くクローズドサークルの設定が話題となり、年末の各ミステリランキングで1位になり、本格ミステリ大賞も受賞。第2作となる『魔眼の匣の殺人』も期待を裏切らない内容で、今後の活躍が楽しみな新鋭です。でも意外にも、昔からミステリ作家を目指していたわけではなかったのだとか。ではどんな本が好きだったのか、そして作家を目指したきっかけは?

その6「最近の読書&執筆」 (6/6)

――ということで、2017年にデビューしたばかりですが、その後の読書生活は変化がありましたか。

今村:ミステリに偏りがちというのはあるかもしれませんね。それまであまり読んでいなかった古典も手に取る機会が増えました。これまではただの読者だったので、面白いと感じない作品は「自分には合わなかったな」ですませていましたが、最近は「でもこの作品はここがすごい。ここが優れている」と気づくようになりました。

――デビュー前はファンタジーやホラーを書いていらしたわけですが、今後も新本格系のミステリを書いていきたいと思いますか。

今村:自分の考え方はちょっと理屈っぽいところがあると思うし、小説もいろんなところを計算して書きたがるので、情に訴える作品はなかなか書けないと思うんですね。キャラクターに人間ならではの理屈に合わない行動をとらせようとしても「いやでも、さっきまでこう言っていたのにおかしいだろう」とか考えてしまう。恋愛ものとかってそうじゃないですか。僕が書こうとすると「向こうがああ言ったから、考えを見越してこう考えた。でもこの間の自分はこう言った引け目があるからこういうことが言えない」といったやり繰りをしてしまうので(笑)、面白くならないと思います。デビュー前に呪い拡散系のホラーを書こうとしたこともありましたが、「一緒にいた人物が呪いにかかって自分が呪いにかからなかったということは、呪いが発現するにはこういうメカニズムがあるはずだから、これを解くにはどうすればいいか」といった話になってきちゃって、結局それってミステリであって、ホラーとしては全然怖くない話になってしまって。だから、たまたまですけれど、今はようやく本格ミステリという、自分の得意分野に行き着いたのかなあ、と。
 逆に、本格ミステリのほうを伸ばしていければ、他のジャンルを書きたくなった時でもミステリの要素は入るのだから、何かしらできるんじゃないかなと思っています。

――シリーズ第2弾となる『魔眼の匣の殺人』も話題になっていますが、第1弾があそこまで話題になると、プレッシャーは相当あったと思います。前に、「ハードルが高くなって鳥居のようになっている」とおっしゃっていましたよね(笑)。

今村:自然と2作目は続篇にしようと思っていましたが、『屍人荘の殺人』を無理に超えようとは全然思っていなくて。評判自体、僕も編集者も予期していたものではなかったので、結局それはもう実力で作ろうと思っても作れるものじゃないから、無理をしてもようがないっていうことで、「屍人荘」の時にやったことを変わらずにやるしかないと思いました。なのでまあ、鳥居は見ないようにしていました(笑)。

――シリーズとして、密室を作り、オカルト的な現象を加える、というのは踏襲してますね。

今村:何をガジェットに用いるかを最初に考えました。「屍人荘」と同じことをやっても仕方がないし、同じにすると3作目のガジェットを考える時に苦しくなるので、「あれ、ちょっと違うな」と思ってもらうために、目に見えないオカルト的なものとして、「予言」というものを使いました。予言を使うならどういう場所で起こるのが一番面白いか、どういう人数構成でどういう予言をされると危機感をおぼえるか。密室も、事故的に起きたクローズドサークルではなく、予言に怯える人々が作ったクローズドサークルであったほうがいいだろうとか、予言に対する考えを使って、犯人にこういうカウンターを仕掛けられるだろう、とか...。ひとつひとつストーリー上破綻しないように何度も形を変えてみて、「こうするとこう考える読者も出てくるのではないか」と、読者が考える方向を予測してそれを潰していったので、苦労しましたね。すごく勉強になりました。

――それらが本当によくできていましたよね。一瞬も飽きずに一気読みでした。今、毎日執筆時間などは規則正しく決めて書いているのですか?

今村:いや、あんまり規則正しくはなくて。寝付くのが3時とか4時なので、起きるのが昼近くになってしまうんです。そこから契約している自習室に行くなどします。昼間は家にいたらだらだらするので、外に出るようにしているんです。ただ、仕事をやっていた時はちゃんと寝付けたのに、仕事を辞めたら身体がそんなに疲れないから、寝付けなくなったんですよ。いくら頭を使っていても、体力的な疲れとはまた違うので。

――ジムに通ったりしたほうがいいのかもしれませんね(笑)。さて、次作は、もう何か構想はありますか?

今村:シリーズ3作目を書く予定ですが、まだあまりちゃんとは考えていないです。ただ、もう犯人が意外なだけでは面白くないだろうなと感じていて。何か、ちょっと大きなことができないかなと思っています。

(了)