
作家の読書道 第209回:吉川トリコさん
2004年に「ねむりひめ」で第3回「女による女のためのR-18文学賞」で大賞と読者賞を受賞した吉川トリコさん。以来、映像化された『グッモーエビアン!』や、あの歴史上の女性の本音を軽快な語り口で綴る『マリー・アントワネットの日記』、そして新作『女優の娘』など、女性、少女を主なモチーフにさまざまな小説を発表。その作風に繋がる読書遍歴を語ってくださいました。
その3「性に対する興味」 (3/7)
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- 『愛の生活 (カドカワデジタルコミックス)』
- 岡崎 京子
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――中学生時代って、日本の古典的なものに触れる時期でもあるのかなと思うのですが。
吉川:このインタビューを受けるにあたって考えたんですけれど、太宰治の『女生徒』がすごく好きでしたね。『斜陽』とか、あのへんを読んで、面白かった。
――中学生時代にとりわけ好きだった漫画は?
吉川:中学校時代に岡崎京子さんに出会うんですよね。当時、お小遣い全部を漫画につぎ込むくらいの感じで雑誌を買っていたんです。「りぼん」「なかよし」だけじゃなくて、「別冊マーガレット」、「少女コミック」、「別冊少女コミック」とかも読んでいて。当時、「ヤングロゼ」っていう、「フィール・ヤング」みたいな雰囲気の雑誌があったんです。そこで岡崎さんが『愛の生活』を連載していて、それが衝撃的だったんですよね。それまでの「ぶ~け」とか、くらもちふさこさんとか岩館真理子さんとかもすごく好きだったんですけれど。岡崎さんの絵って、なんだろう、「線」という感じ。当時、まわりの友達は松苗あけみさんとか清水玲子さんの繊細な絵が好きだったので、私が「岡崎さんのこと好き」って言ったら「え、絵、下手だよね」って言われて、「え、これ、下手ってことなの? 確かに丁寧には見えないかもしれないけど、これ下手なの?」って衝撃が。ただ、今から考えると、岡崎さんは、やっぱりセックスを描いていたから好きだったんだなと思います。さっきの「ジョージィ!」もそうなんですけれど、性のことを描いている話が好きですねよね、あはは(笑)。
――ほほう(笑)。その頃の年頃の女の子向けの雑誌って、「彼との初体験」とか投稿されているコーナーとかありましたよね。
吉川:あ、すごく好きでした。いろいろありましたよね。「明星」とか「平凡」の片隅にもそういう投稿ページがあって、もう、めっちゃ好きでした。あははは。「ポップティーン」なんかは転校する前はみんなで「なにこれ、面白いね」「キャー」みたいな感じで回し読みしていたんですけれど、転校してからはもう、生々しくて。実際にもうセックスしている子たちがいるから、そういうムードじゃなくて、こっそり読むものになっていました(笑)。今思うと、中学2年生での転校って、すごく大きかった。環境がすごく変わったんですよね。
――居心地の悪さを感じたりはしなかったんですか。
吉川:いえ、普通にクラスのイケてるグループにいました。なんか、イケイケでした(笑)。
――部活は?
吉川:転校前も後も、吹奏楽部でトランペットを。家にまだ楽器があるのでたまに吹いてみたりするんですけれど、もう1オクターブくらいしか吹けないです。
――さて、高校生になってからは。
吉川:山田詠美さんと村上龍さんをエロ目的で読んでました(笑)。ありがちなんですけれど。でも、このお二方で一番好きなのが、山田さんの『ラビット病』と、村上さんの『69 sixty nine』なんですよ。エロ目的で読んでいたのに、結果、好きなのはエロじゃないんだ、という。はるな檸檬さんが『れもん、よむもん!』で、やっぱりその2冊が好きって言ってて、なんか、すごい一致だなって思って。
『ラビット病』は、仲良しのカップルがただいちゃいちゃしているだけでこんな小説になるんだなって驚きがあったのかな。「こんなの読んだことない」という。『69』は、青春小説が好きだったのと、当時ロックが好きだったので。当時ロック関連の小説や映画を片っ端からあたっていたんです。でも、もう全然思い出せなくて...。あ、中森明夫さんの『東京トンガリキッズ』とかのあたりですね。書店や図書館で、タイトルとか、帯とかあらすじとかを頼りに探していました。あとは「新潮文庫の100冊」みたいな冊子や文庫目録も見たし、ロックな小説を買うと巻末に似たような本の広告が入っているので、そういうものを頼りにしていた気がします。
――ネットがない頃って、本を探すのも結構大変でしたよね。
吉川:大変でしたよね。でも、町の本屋さんがいっぱいあったから。田舎の町の本屋さんって結構小さいから、しらみつぶしにできるというか。端から全部見ていけたんです。
――その頃ご自身で書いていたのはどんな小説ですか。
吉川:いちばん最初に書いた小説は、クラスに女の格好をした男の子が来るっていう話。その男の子のことを主人公が好きになるという。まあ、今と変わらない感じの話を描いていましたね。それが小学校5年生くらいの時。
――そのお話は完成させたんですか。
吉川:いえ、当時は書き出しだけ書いて「すごい」みたいな(笑)。そんなことばっかりやっていてよく憶えていないんですけれど、最後までは書いていない気がします。途中まで書いては...という。
――でもその最初に書いたお話も面白そう。とってありますか。
吉川:ないんじゃないかな。私はわりとはやく、20歳の時に今の夫と同棲を始めるんですよ。で、「恥ずかしいもの」っていう頭があったから、「見られてはならぬ」って持っていけなくて。「だが実家にも置いておけぬ」ということで、断腸の思いで捨てた気がします。