
作家の読書道 第209回:吉川トリコさん
2004年に「ねむりひめ」で第3回「女による女のためのR-18文学賞」で大賞と読者賞を受賞した吉川トリコさん。以来、映像化された『グッモーエビアン!』や、あの歴史上の女性の本音を軽快な語り口で綴る『マリー・アントワネットの日記』、そして新作『女優の娘』など、女性、少女を主なモチーフにさまざまな小説を発表。その作風に繋がる読書遍歴を語ってくださいました。
その5「頼りにしたブックガイド」 (5/7)
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- 『猫背の王子 (集英社文庫)』
- 中山可穂
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- 『白い薔薇の淵まで (集英社文庫)』
- 中山可穂
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- 『深爪 (集英社文庫)』
- 中山可穂
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- 『受難 (文春文庫)』
- 姫野 カオルコ
- 文藝春秋
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――執筆を再開した時、読書も再開したんですか。
吉川:はい。私の人生に、斎藤美奈子編著『L文学完全読本』が登場するんです。2002年に出ているんですけれど、これをガイドに読んでいました。「L」は「Lady」「Love」「Live」などの意味が含まれている。コバルトから始まって、脈々と続く女性文学みたいなものをまとめてくれているんです。ここに載っていて特に好きだったのは山本文緒先生、中山可穂先生。あと、フランチェスカ・リア・ブロック。アメリカのヤングアダルト小説を書いている人で、「ウィーツィ・バット ブックス」というシリーズがすごく好きでした。あとは姫野カオルコさんとか、藤野千夜さん、江國香織さん、金井美恵子さんといったあたりを。嶽本野ばらさんを読むようになったのもこの頃かな。それと、作家になってから井上荒野さんも。
――たとえば山本さんや中山さんは、どんな作品が好きですか。
吉川:山本文緒さんは、一番読み返しているのは『眠れるラプンツェル』です。これっていま考えると未成年淫行ですよね。でも、大きな声じゃ言えないけどセックスシーンが好きでした(笑)。あと、相手の男の子とお父さんと、誰ひとりも血が繋がっていないのに家族みたいに一緒にいて、主人公自体も大人になりきれない子どもみたいで、みんなが一緒にゲームをしたりして遊んでいる、あの空気感がすごく好きでした。
中山可穂さんは、「恋」です。「ザ・恋愛小説」って感じ。一番「恋愛小説だー」って思いながら読んだ方かもしれません。『猫背の王子』も『白い薔薇の淵まで』も『感情教育』も好きだし。恋とはちょっと違うんですけれど『深爪』も何度も読みました。
姫野カオルコさんは女性器が喋る『受難』。あと、『整形美女』は最近になって読んだんですけれど、衝撃的でした。妹に薦めたら「私が今まですごく苦しかったものがすべて説明されてる」って。「こういうことだったんだ、って説明してくれている。だからこの先何回でも読み返すと思う」って。あとは『ツ、イ、ラ、ク』も好き。あれも未成年となんですけれど。
藤野千夜さんは一番好きなのが『ベジタブルハイツ物語』。シリーズ化されていて『さやかの季節』もありますね。あと、『少年と少女のポルカ』も好きです。あ、すごく好きだったのは『主婦と恋愛』。あれは何回も読みました。2002年の日韓ワールドカップの雰囲気がすごく出ているのと、恋にまで至らない、でも何か期待みたいなものを勝手に抱いちゃう感じがすごく面白い。これも「あ、こういうことが小説になるんだ」っていう驚きがありました。
――江國さんと金井さんは。
吉川:江國香織さんは『落下する夕方』。あれが一番好きです。彼氏が他の女の人のことを好きになっちゃって、その女の人も一緒に暮らすんですよね。その絶望感と同時に、その女の子がすごく魅力的でさらに絶望、みたいな。主人公もその女の子の魅力に抗えないみたいなところが、すごく絶望的な小説だと思って読んでいました。でも好き。
金井美恵子さんは『小春日和』の続篇の、『彼女(たち)について私が知っている二、三の事柄』。私、女の人たちが喋っているだけの話がすごく好きなのかも。話が前後するけれど、岡崎京子さんも一番好きなのは『くちびるから散弾銃』だったし。固有名詞がいっぱい出てきて、しかも女の人たちがべらべら喋るのが好きなのかも。
――作家になって読んだという井上荒野さんは。
吉川:めっちゃいっぱいあります。全部好きだなー......全部好きなんですよ。あ、『ズームーデイズ』にします。あれは「きらら」に連載されていたんですよね。作家になってから文芸誌が送られてくるようになって、文芸誌を読んで好きになった作家が2人いるんですけれど、1人が井上荒野さんで、もう一人が大島真寿美さん。どっちも「きらら」の連載を読んだからなんです。『ズームーデイズ』は、ズームーという男の子と一緒に暮らした日々の話で、自分も長い同棲をしていたら、その様子が読んでいて面白かったというのがあるかも。
大島真寿美さんは『虹色天気雨』。これも女の人たちがよく喋っているんですが、「小説ってこんな自由に書いていいんだ」って。型がないんですよね。それがすごいと思って。大島さん、最近もどんどんフリーダムになっていっているじゃないですか。直木賞を受賞した『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』も本当にびっくりして、「大島さん、フリーダムにもほどがあるね」って言ったら、「やりたい放題だよ」って言ってました(笑)。
――吉川さんも大島さんも名古屋ですよね。交流があるんですか。
吉川:よく飲みに行っています。すごく仲いいです。