第220回:辻堂ゆめさん

作家の読書道 第220回:辻堂ゆめさん

大学在学中の2014年に『いなくなった私へ』(応募時「夢のトビラは泉の中に」を改題)で『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞してデビュー、若手ミステリー作家として注目される辻堂ゆめさん。小さい頃からお話を作っていた彼女をミステリーに目覚めさせた1冊の本とは? アメリカで過ごした10代前半、兼業作家となった後に取得した免許など、読書遍歴はもちろん、今の彼女を形作るあれこれをうかがいました。

その7「最近の選書方法と新作について」 (7/7)

  • 彼女が花を咲かすとき (光文社文庫)
  • 『彼女が花を咲かすとき (光文社文庫)』
    涼, 天祢
    光文社
    770円(税込)
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  • 6時間後に君は死ぬ (講談社文庫)
  • 『6時間後に君は死ぬ (講談社文庫)』
    高野 和明
    講談社
    759円(税込)
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――最近はどんな本を読んでいますか。

辻堂:私はTwitterをやっているんですけれど、最近Twitterを見ていて、私の本が好きだと言ってくださる方が挙げている本は私にとっても面白い、ということに気づいたんですよ。エゴサーチをすると好きな小説を10冊くらい挙げている方のツイートがたくさん出てきて、そこに挙がっている自分以外の人の本を読むことを始めました。「この作家さんはよく私の本と一緒に挙がるな」という傾向も見えてきて面白いですね。途中で、ちまちまエゴサーチするよりもフォロワーさんに直接聞いたほうが早いんじゃないかと思って、お薦めを教えてもらったりもして。そうした本を読むことにはまって、今も続行中です。

――どんな方のお名前が挙がりますか。

辻堂:フォロワーさんが辻村深月さんの本も結構挙げてくださったんですけれど、それは私も既読だったりします。
 お薦めしてもらってよかったと思ったのは天祢涼さんの『彼女が花を咲かすとき』で、これが本当に面白くて。お花屋さんのミステリーなんですけれど、絶妙にさらっと流してた伏線が、あ、まだあるのか、まだあるのかという感じで回収されていく感じがあって。お花屋さんミステリーとか装丁とかからの印象とはまた違う展開が来たりするんです。
 ずいぶん前の本ですけれど、乾くるみさんの『スリープ』も面白かったです。乾さんは『イニシエーション・ラブ』以外読んだことがなかったんですが、読んでいないなんてもったいなかったと改めて感じました。やっぱり自分から「この作家さん」って選ぶと同じ人ばかりになりがちなので、この読書方法は自分の中で大きな変化になっています。
 それとは別に、遅ればせながら高野和明さんの著作にもはまって、最近とりあえず全部読みました。

――デビュー作の『13階段』から始まり...。

辻堂:そうです。『13階段』のあとに『6時間後に君は死ぬ』とか何冊かありますけれど、やっぱり『ジェノサイド』ですね。本当に、刊行された時に読んでいなかったのを後悔するくらい。もう、衝撃の連続で、何日か余韻が抜けませんでした。自分もこんな本を書きたいけれど、まだ今の自分の技量では書けないなっていう。伏線を回収したり、どんでん返しみたいなものがあったりする本が好きなんですけれど、さらに高野さんみたいに重厚なテーマを扱っていたりすると、もう好きな要素全部詰まっている感じです。
 あと、ユーモラスな方向だと藤崎翔さんとか。逸木裕さんとかも好きなんですけれど、こうやって自分の最近の読書のことを人に話していると、「男性作家ばっかりだね」と言われるんだろうなと思っていて。

――ああ、いわれてみればそうですね。

辻堂:自分にはないものを求めているのかもしれないです、読む時は。

――ご自身の著作に関しては、最近は『あの日の交換日記』が話題となりましたね。先生と生徒とか、夫と妻など交換日記をしている何組かが登場する連作で、それぞれの章でも全体を通しても「ああ、そうだったのか」という驚きがあって。

辻堂:ありがとうございます。あれは前からやってみたかった構成でした。小学校教員の免許に興味があった時期に、小学校の担任の先生ってすごく生徒に影響を与えているはずなのに、大人になった時に忘れられがちなのかなと思ったこともきっかけです。ほんの少しでも先生に影響を受けた人たちの話が何か書けないかな、と思ったことが始まりでした。
 交換日記も、モチーフとして使えたら面白いなと思ったことがあって。往復書簡とか手紙はよく出てくるんですけれど、交換日記はあんまり自分が読んだ本の中に出てきてなかったし、小学校とも親和性があるから二つをまとめたら面白い話ができるかな、と。

――小学校といえば、ご自身がよく読んでいた青い鳥文庫からも新刊を出されましたよね。小学生が活躍する『図書館B2捜査団 秘密の地下室』。学校で居場所をなくした小学6年生の少女が、近所の図書館の謎めいた"組織"と出会うという。

辻堂:やっぱり自分がよく読んでいた時期があるので、児童書を出すことをは作家デビューした時から密かに持っていた目標でした。今回実現して嬉しいです。

――これはシリーズ化するのですか。

辻堂:9月には第2巻が出る予定です。『図書館B2捜査団 人気占い師の闇』というタイトルで、インチキ占い師の嘘を暴いていくような話になっています。

――ああ、今後、辻堂さんの作品が初ミステリー体験だという小中学生が出てくるんでしょうね。他に今後の刊行予定は。

辻堂:小学館の「きらら」で、『十の輪をくぐる』という、1964年と2020年のオリンピックを題材にした作品を連載していたんですけれど、その単行本が11月に出る予定です。オリンピックといっても物語の半分は1960年代で、2020年1月がラストシーンです。これが2020年の3月以降まで続く話だったら、大幅改稿しなくてはいけないところでした。ただ、「2020年のオリンピックはないんだよな」と思うと、自分でも連載していた時と最近ゲラを読んだ時では受け取り方が変わっていて、「もう書いていた時の気持ちには戻れないんだな」とすごく思いました。ただ、コロナウィルスによって本が意図していたものが台無しになったわけではないと思っています。

(了)

  • ジェノサイド
  • 『ジェノサイド』
    高野 和明
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    2,680円(税込)
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  • あの日の交換日記 (単行本)
  • 『あの日の交換日記 (単行本)』
    辻堂 ゆめ
    中央公論新社
    1,760円(税込)
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  • 図書館B2捜査団 秘密の地下室 (講談社青い鳥文庫)
  • 『図書館B2捜査団 秘密の地下室 (講談社青い鳥文庫)』
    辻堂 ゆめ,bluemomo
    講談社
    748円(税込)
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  • 図書館B2捜査団 人気占い師の闇 (講談社青い鳥文庫)
  • 『図書館B2捜査団 人気占い師の闇 (講談社青い鳥文庫)』
    辻堂 ゆめ,bluemomo
    講談社
    715円(税込)
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