第262回: 澤田瞳子さん

作家の読書道 第262回: 澤田瞳子さん

2010年に奈良時代が舞台の『孤鷹(こよう)の天』で小説家デビュー、以来さまざまな時代、さまざまな切り口の時代・歴史小説を発表、明治から大正を舞台にした『星落ちて、なお』で2021年に直木賞を受賞した澤田瞳子さん。実は幼い頃から大変な読書家で、授業中にも本を読んで叱られていたのだとか。膨大な読書遍歴の一部と、歴史ものに興味を持ったきっかけや、プロデビューの経緯などおうかがいしました。

その2「好きな本は繰り返して読む」 (2/8)

  • グリーン・レクイエム 新装版 (講談社文庫)
  • 『グリーン・レクイエム 新装版 (講談社文庫)』
    新井 素子
    講談社
    737円(税込)
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  • クララ白書I (集英社コバルト文庫)
  • 『クララ白書I (集英社コバルト文庫)』
    氷室冴子
    集英社
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  • 緑の我が家 Home,Green Home (角川文庫)
  • 『緑の我が家 Home,Green Home (角川文庫)』
    小野 不由美
    KADOKAWA
    726円(税込)
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――好きな本は繰り返し読むタイプですか。

澤田:読みますね。ソデが取れるまで読んだりします。たとえば宮部みゆきさんの『龍は眠る』や『魔術はささやく』はソデが取れています。たぶん、そこまで繰り返し読むようになったのは新井素子さんの『グリーン・レクイエム』が最初だと思います。中2の頃にすごくはまって、ずっと鞄に入れていたので、ボロボロになりました。何年か後に続編が刊行されていると知って手に入れた時は、スキップするようにして家に帰りました。
新井素子さんは大好きで、それをきっかけに集英社コバルト文庫をずいぶん読みました。コバルトであと印象深いのは、氷室冴子さんでしょうか。氷室さんは珍しく漫画から入った口です。自分では漫画雑誌は買わなかったのですが、親戚の家に行ったときにたまたまあったのが、『クララ白書』のコミック版が載った雑誌でした。それをもらって帰ってきて何度も何度も読んで、どうやら原作があるらしいと知り、買いに行ったんです。こんなに面白い小説があるんだって思いました。
コバルト文庫は他に山浦弘靖さんの星子シリーズという、ティーン向きにしてはちょっと大人の雰囲気のあるミステリーシリーズがあり、それも好きでした。主人公の星子ちゃんという気の強い女の子が一人旅の行く先でさまざまな事件に巻き込まれるという。当時は大人向けの小説を書いてらっしゃる方でコバルト文庫にご執筆なさる方も多く、大人の世界を垣間見ることができる作品でした。
その後、わたしが中2くらいの頃でしたでしょうか。講談社X文庫のホワイトハートという、少し年齢層高めのライトノベルのレーベルの刊行が始まりました。全巻読んでやるぞと意気込んでかなり頑張ったんですが、あっという間に追いつけなくなりました。

――ホワイトハートではどの方の作品が好きだったんですか。

澤田:もともと小野不由美さんがずっと好きだったんですよね。遡れば、朝日ソノラマ・パンプキン文庫で出ていた2冊に衝撃を受けました。『呪われた十七歳』は『過ぎる十七の春』に改題され、『グリーンホームの亡霊たち』は『緑の我が家』と改題されて今でも読めますが、それがすごく面白くって。その作者の小野不由美さんが書いているということでずっとティーンズハートの悪霊シリーズを追いかけて、シリーズが完結する頃に新潮社さんから『魔性の子』が出て、ホワイトハートで「十二国記」シリーズが始まって、ずっと追いかけていました。あの頃は異世界ファンタジーも多くって、岡野麻里安さんや流星香さんのファンタジーもよく読んでいました。

――学生時代、放課後もずっと本を読んで過ごしていた感じですか。

澤田:そうですね。放課後じゃなくて授業中にも本を読んで、しょっちゅう先生に怒られていました。休みの日も家にいて本を読んでばかりで、親に「たまには外に行きなさい」って追い出されていました。

――澤田さんのお母さんは時代小説家の澤田ふじ子さんですが、親御さんと本の話をされたりとかは。

澤田:それが、あんまりしなかったんですよね。たぶん本の趣味がかなり違ったので。わたしは現代ものやファンタジーが好きだったので、そこらへんは噛み合わなかったです。
本の話は学校でしていました。わたしは私学に通っていたので、遠くから通ってくる子が多かったんです。携帯もない時代だから、通学の間に本を読む子が多くて、漫画も含めて本の貸し借りがさかんでした。それは嬉しかったですね。その後、大学に入ってからはそういった関係がなくなってしまったのが残念だったんですけれど。

――では中高時代は本の情報はお友達から得ることが多かったのですか。

澤田:そうですね。それと、書店で無料配布している「これからでる本」もありましたし、書店で文庫の刊行予定の一覧表が貼られていたので、あれをいつもじーっと見ていました。それに、「DO BOOK」という日販が刊行していた本の情報誌があったんですよね。それがすごく良かったんです。四六(判)の本の話題作と、文庫と新書全点の刊行予定の一覧が載っているので、書店でもらってきたそれにマーカーを引いて新刊チェックして、ほしい本が出る日に書店に行く、という日々でした。

――お小遣い足りました?

澤田:全然。なので高校に入ったくらいの頃から、新刊は書店さんで買って、他の読みたい本は古本屋や古本市に通って手に入れていました。とりあえず初見の作家さんは古本で買って、読んで興味を持ったら、既刊本を新刊で揃えるという感じでした。

――生活圏内に書店や古本屋は多かったですか。

澤田:多かったですね。実家のそばに2軒、小さな町の本屋さんがあって、学校のそばに2軒古本屋さんがあって。あとは京都は今でもそうですが、3か月おきくらいに古本まつりというイベントがあるんです。そこで手あたり次第、面白そうと思った本を買っていたので、うちにある本は、たとえば山本周五郎さんのお作とかはすごく古い版と新しい版が混じっています。

――それにしても蔵書の整理が大変なのでは。

澤田:基本的に五十音順に並べています。10代の頃は時間があったので、暇さえあれば本棚の整理をしていました。その時間はすごく幸せでした。

――ご自身の本以外にも、おうちにいっぱい本があったのではないかと思うのですが。

澤田:そうですね、ありがたかったです。「野性時代」とか「小説新潮」といった小説雑誌もいっぱい届いたので、いろんなジャンルのものが読めました。なので読み始める順番がおかしくなったりもするんですよね。北村薫さんは中央公論社から出ている巫弓彦シリーズ(『冬のオペラ』)の雑誌連載から入り、その後に円紫さんとわたしのシリーズを手に取って、「あ、巫弓彦シリーズの人だ」と思ったりして。

――ところで、読むものは国内作家が多かったのですか。

澤田:海外小説はなかなか登場人物の名前が憶えられないんです。わたし、漢字などの字面で物事を記憶しているもので。編集者さんの名前も音で聞くと憶えられなくて、メールなどでやりとりしているほうが憶えやすいんです。でも、海外小説だと名前がカタカナなので記憶するのが難しくて。とはいえ中学の終わりくらいから澁澤龍彦さんにはまりまして、そこからは河出書房から出ている海外の幻想文学系は一通り読みました。澁澤がスタートだったから、マルキ・ド・サドなども全部読みました。面白いと思うとオリジナルに遡りたくなる人間なんだと思います。

  • 魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)
  • 『魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)』
    小野 不由美,山田 章博
    新潮社
    880円(税込)
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