第262回: 澤田瞳子さん

作家の読書道 第262回: 澤田瞳子さん

2010年に奈良時代が舞台の『孤鷹(こよう)の天』で小説家デビュー、以来さまざまな時代、さまざまな切り口の時代・歴史小説を発表、明治から大正を舞台にした『星落ちて、なお』で2021年に直木賞を受賞した澤田瞳子さん。実は幼い頃から大変な読書家で、授業中にも本を読んで叱られていたのだとか。膨大な読書遍歴の一部と、歴史ものに興味を持ったきっかけや、プロデビューの経緯などおうかがいしました。

その7「本を読んでつまらないと思った時は」 (7/8)

  • 神よ憐れみたまえ (新潮文庫 こ 25-18)
  • 『神よ憐れみたまえ (新潮文庫 こ 25-18)』
    小池 真理子
    新潮社
    1,210円(税込)
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――あまりにも幅広く読まれているので、とりわけ好きな作家や好きな作品を挙げるのは難しいと思いますが、これまでに挙がったもの以外で、お好きな作品はありますか。

澤田:まず、これは誰にお目にかかっても推していますが、皆川博子さんの『総統の子ら』、あれは名作です。
皆川さんは常に新しいジャンルに挑み続けていて、わたしもそういう書き手になりたいなと思います。皆川さんの直木賞受賞作『恋紅』が春陽文庫からリメイクされるそうで、先日、その推薦コメントをご依頼いただき、久々に読み返しました。いやあ、言葉の瑞々しさ生々しさに酔いしれました。あの色気はなかなか出せないと、改めて感服しました。
あと、わたしにとって直木賞といえば、絶対的に小池真理子さんの『恋』なんですよね。自分が直木賞の候補になるたびに、あの作品と自作が並べる気がしないってずっと思っていました。歴史的な事件をすごく遠景に配した上で、個人の物語が書かれている。初めて読んだ時、すごいものを読んだと思いました。小池真理子さんは10代の頃から拝読して今も追いかけている方なんですけれど、皆川さん同様、どんどん新しいものを書かれていく。その姿勢にはただただすごいと思うばかりです。ここ最近では『神よ憐みたまえ』に打ちのめされました。

――それにしても、澤田さんって読むの速いですよね?

澤田:自分では分からないですけど、そうですかねえ?

――読んでつまらないと感じた本はありますか。そういう時も、最後まで読むのでしょうか。

澤田:つまらなく感じても、ひょっとしたら面白くなるかもしれないから一応最後まで読みます。そして最後は憎しみが募るっていう......。

――(笑)。みんなが褒めているのに自分はつまらなかった、ということはありますか。

澤田:あります。「わたしが悪かった?」みたいに思います。そういう時は、最近は信頼できる同業者に送りつけるんです。「お願いだから読んで。この感想はわたしだけじゃないと思うんだ」って。相手にしてみたらめっちゃ迷惑ですよね。「面白い本じゃなくて、つまらない本を薦めてくるのか」って。でも、それで感想を言い合って納得することもあります。

――1週間のスケジュールってどうなっているんですか。大学で働く日もあるわけですよね。

澤田:土曜日は10時から5時までアルバイトなので、それがまず完璧にフィックスされています。平日は一応普通に起きて、11時から6時くらいまでが仕事の予定です。実家を仕事場にしているのでそこに行くんですが、だいたい時間が足りないので家に持ち帰って、その後もやっています。それでも時間が足りなくて、結局日曜日も働いています。よくないですね。それもやっぱり、仕事だという意識が薄いことの弊害なんですよね。エッセイなんかはお腹に猫のせた姿勢で書いたりしていて。

――いつ本を読まれているのですか。

澤田:何かの合間合間はだいたい本を手に取っています。移動中だったり。東京に来る機会も多いので、新幹線の中で読んだり。それに、夜の休憩時間は、本を読んでいるかドラマを見るかのどちらかです。

――ああ、ドラマというのは、さきほどおっしゃった「愛していると言ってくれ」とかですよね。ドラマの時代劇は減りましたし。

澤田:それが今、「暴れん坊将軍」を地元ローカル局で放送中なんです。ですから録画してずっと追いかけています。あと、ちょっと前にディアゴスティーニで「暴れん坊将軍」シリーズの販売が始まったんですよ。全部揃えるとすごい冊数になるんですけれど、記念にと思って1巻だけ買いました。

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