特別対談
『幻と想 03-25 大槻ケンヂ自選詩集』
刊行記念対談 大槻ケンヂ×和嶋慎治 (前編)
「たくさん文庫を読んだ時代があるから歌詞が書ける! 」
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ジャジャジャーン♪には「いけ」しか入らない!?
──おふたりはミュージシャンでありながらエッセイや小説を書かれていて、昨年は筋肉少女帯のトリビュート小説集『小説集 筋肉少女帯小説化計画』に寄稿されたり、本の企画で交流があるわけですが。
和嶋 そうですね。書籍を通じて交流をさせてもらってます。
──今回は大槻さんが第三詩集『幻と想 03-25 大槻ケンヂ自選詩集』を刊行されたということで詩と詞について話を聞かせていただこうと。
大槻 はい。
──和嶋さんも2年前に『無情のスキャット 人間椅子・和嶋慎治自選詩集』という詩集を出されていますよね。
和嶋 はい。2024年の10月ですね。僕はそれが初めての詩集ですけど。
──おふたりとも「詞」を書く際は曲が先にあるんですか。
大槻 基本、曲先です。たまに詞が先の場合もありますし、ごくまれに詞と曲と同時にできることもあります。
和嶋 それは曲も自分で書いた場合?
大槻 そう。「日本印度化計画」とかは曲と詞がほぼ一緒にできました。そんなこともごくまれにある。
和嶋 僕らはリフ的というか、リフレインを中心に音楽をやるから、リフレインで曲を作って、メロディーを作って、最後が歌詞っていうのがほとんどですね。で、できるだけメロディーに当てはめようとするんですけど、3つの音だったりした場合、3文字で言葉乗せるって一番難しいんですよね。そういう時は色々、詞に合わせてというか、書きやすいように音符をちょっと増やしたりとか、そういうことはやったりします。
大槻 わかります。
和嶋 これで完璧にやってくれって言われても無理が生じるじゃないですか。
大槻 うん。わりと作曲者は「ジャジャーン」とか「ジャジャジャジャーン」くらいのを。
和嶋 そう。「ジャジャーン、ジャジャジャジャーン」が多いのよ。
大槻 「ジャジャーン、ジャジャジャジャーン」っていうのは「いけ」とか、それくらいしか入らない。「イエィ」とか「ベイビー」しか入らないから。
和嶋 「急げ」とか、なんかそんなのしか入らないじゃないですか。
大槻 そうそうそう。そこらへんは悩みどころですね。
和嶋 英語だといけるんですよね。「イン・トゥ」とか、音ふたつでも単語ふたつくらい絶対入れられるんですよ。でも、日本語は音だと文字ふたつしか入らないんだよね、そこがすごい難しいなって思いながら。
大槻 僕の今回の詩集の中に「林檎もぎれビーム!」っていう曲と「ハリウッド・スター」って曲があって、それがね「ジャジャーン」とか「ジャジャジャジャーン」とかで、「ゴー」とか「行け」しか入らない。だから、そういうのはおのずと「レッツゴー」系の曲になるっていう傾向がありますね。
和嶋 僕らの場合だと、そういう時は大体「闇」とか。そういうダークな言葉が多くなっちゃうんですよ。「黄泉」とか。
大槻 だから、意外に、そこらへんで作詞者は苦労してる。
和嶋 と思います。大槻くんはあえて字余りとかもやって、それはすごいテクニックでいいなと思うんだけど。フォーク系の人は全然余裕で字余りがやれる。それが味だったり。
大槻 そう。ボブ・ディラン、吉田拓郎さん的なことよね。ボブ・ディランって、絶対、符割りとか考えてないでしょう。
和嶋 考えてないですよね。
大槻 まあ、曲先じゃないだろうから。
和嶋 それこそ詞が中心って感じですからね。
大槻 だから自分も歌詞を書く時に平気で字余りをいっぱい作って、それで作曲者に「これはどういうこと?」って聞かれたら、「いや、ボブ・ディランだから」とか(笑)、吉田拓郎的なことですよって言って。強引なんだけど、歌詞はメロディやリズムを超えるものだと僕は思っていて。
和嶋 リズムを超える。
大槻 メロディも超える。だから符割に合わない時は曲先であっても歌詞に合わせてくれ、変えてくれって言うの、たとえサビであっても。意外に歌詞のほうも重要だから。人はまず歌詞を聴くんだから。それは人によって違うんだけど、僕は歌詞を聴いてきたから、まず歌詞を優先させてくれ、と。だから今までもメロを変えてもらったりしていたんだけど、ま、「仕方ないな」っていう感じで変えてくれる作曲家と「いやダメ」って言って変えてくれない人がいて(笑)...。そういう時は力強く言うんだけど、本当はメロディやリズムを優先しなきゃいけませんね。
和嶋 でも6とかってやりづらいじゃないですか。5とか7はやりやすいはずなんですよ、言葉的に。そこが8とか10とかって音符だったとしたら、すごくやりづらいんで。そこはひと文字増やしたり減らしたりでなんとか。自分はそんな感じで書いちゃう。
大槻 でもね、そのひと文字がね。
和嶋 リズムを重視すると、たしかにここはこれのほうがいいかなって思う時もありますけどね。そういう時は合わせるけど。そのへんがビートの効いたロックっぽい音楽は難しいところですよね。
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──人間椅子も鈴木さんが曲で詞は和嶋さんという曲もありますよね。
和嶋 そのパターンの曲も多いですね。自分はわりと最初から詞を付ける感じでメロディーを付けるから、自分のはまあまあ作りやすいんだけど、鈴木くんのはそれこそ三文字とか出てくるので色々悩むところはありますね。
大槻 わかります。
和嶋 てはいえ、詞によって世界が広がるということもあるかもしれない。僕は人の歌詞で曲を作ったことはあまりないんですけど、一度「無限の住人」という漫画とのコラボレーションで漫画家の沙村広明さんが書いた詞に曲を付けたことがあって、もう完全に詞先なんですよ。それはでも逆に楽しかったんですよね。むしろメロディーに詞をはめるよりも、詞にメロディーを付けるほうが楽だなと思って。
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──曲のイメージが湧くっていうことですか、詞を見ると。
和嶋 曲のイメージも湧きますね。言葉にメロディーを付けるわけだから、逆にあんまりメロディーも悩まないっていう。
──曲が先に来る場合は、この曲はこういうテーマだからとか、作曲者のほうから話があるんですか。
大槻 これはケースバイケースですね。たまに筋肉少女帯であるのは、タイトルが先にあって、それに合わせた曲が来る。曲を作ってもらって歌詞を作る。「50を過ぎたらバンドはアイドル」の場合は、タイトルを考えたからそれで曲を作ってってメンバーにお願いしたらすぐ作ってくれて、それに言葉を当てはめました。「医者にオカルトを止められた男」もそうだった。
和嶋 それは一番いいやり方だと思いますね。
大槻 ある程度、それがないとね。アニメのタイアップとか、なんとなくこんなんだよっていうのがあるほうが、あるいは作曲者からこれはこんな歌詞にしてくれってざっくり頼まれたほうがやりやすいですよね。
和嶋 絶対そうだと思います。つまりコンセプトっていうことじゃないですか。何にもなくて漠然と曲作るって、それはそれで難しいんですよ。何を言わんとしてるっていう作曲者なりのある程度のイメージがないと曲って作れないと思うし。あらかじめそういう「50を過ぎたらバンドはアイドル」っていう感じで言うと、なんかこう、ちょっと老いた感じも出しつつ楽しい感じっていうイメージが湧くから、やりやすいはずで。僕も自分で曲作る時は歌詞が最後につくとしても、あらかじめ、その曲のコンセプトを考えて作ってます。そのほうが後で詞も当てはめやすいんですよね。
大槻 僕は作曲のほうはしなくもないんだけど、最近あまりしないので、こうデモテープがぽっとこう来て。でね、デモテープ来た時に仮のタイトルを作曲者が付けてることあるでしょ?
和嶋 はいはい。
大槻 その仮タイトルに引っ張られることとか。
和嶋 僕もあります、それ。
大槻 あと作曲者がふっと言った言葉をそのままもらう。たとえば「愛がゆえゆえ」っていうアニメの曲があるんですけど。これなんかは作曲者のNARASAKさんが曲をくれる時に、これは君に色々迷惑をかけてるかもしれないけど、それは愛がゆえってことだよみたいなことを歌ってくれればって言って、愛がゆえ...愛がゆえゆえでいきましょうって、すぐ決まったり(笑)。そういうヒントがあると歌詞は助かりますよね。何にもないと、どうすりゃいいんだっていう。
和嶋 そうね。形になってないものでも、こういうことを書きたいっていうのがあったりするじゃないですか。そういうのをストックしておいて、あ、これはイメージが合うかなと思って書いたりもしますし。曲を聴くとイメージが浮かぶ時もあるじゃないですか。
大槻 ああ、ありますね。
和嶋 もう無理やりにでも浮かばせるんですよね。それでそのイメージを膨らませて書く。
大槻 逆にデモテープがたくさんきて、その中からイメージが浮かぶのだけやりましょうって、OKにしちゃうパターンもあるよね。何も浮かばない曲が...、いやでも、ある、たまにあるな、どうすればいいんだこれっていうことが。どうにもこうにもなんでこんな曲を持って来られた時は、それを詞にする最初の瞬間の恐ろしさっていうのが...、もう恐怖ですよね。
和嶋 そう。だから、イメージが浮かぶまでが勝負なんですよ。自分の作曲じゃない曲で、漠然としたものを詞にしようとしていく時っていうのはイメージが浮かぶまでが勝負で、それが浮かんだら、もうできたも同然じゃないですか。
大槻 逆にひとつの曲に歌詞のA案B案C案くらいが浮かんじゃうこともあるでしょう?
和嶋 ああ、それもある。
大槻 どの案でいけばいいんだ?って。で、C案で、ある程度まで書いて、ちょっと違うと思ってA案にどたんばで変えたりとか。作詞はそういう綱渡り的なことが、締め切りも含めてあって怖いですね。
和嶋 怖い。でも、最終的にこれにしといてよかったなっていうことが...。
大槻 奇跡のように、伏線を回収したかのようによくまとまることもあるし。
和嶋 よくある、できたりするよね。
大槻 あと、正直まとまんなかったなって思って、でももうレコーディングもして、それがその後に、リスナーから、あの歌詞に命を救われましたなんてことを言われて、いや、あ、そうなんだ(笑)。じゃあ、よかったなって。
和嶋 苦闘の跡がなんとなく、ほんのり匂ってるからじゃないですか?
大槻 あ、なるほど! そっか。
和嶋 なんかそんな気が。あと、このコンセプトでやろうと書き進めるんだけど、なんか苦しくてどうしようかなと思って、もう他のに変えちゃおうかなって思う時もありません?
大槻 全然あります。
和嶋 ありますよね(笑)。最初にやろうって決めたものがある場合は、最終的にそっちで頑張って書くんですけど。
大槻 結局、最初にこれでいこうって言った案に戻したほうがいいなっていうことが...。
和嶋 ありますよね。僕もそうするようににしてるんですよ。最初のインスピレーション。そこ大事ですよね。
集中すれば悪魔のささやきも乗り越えられる!
大槻 でもワジーは旅館を借りて詞を書いたりしてたんでしょう?
和嶋 一時期ね。集中したいなと思って旅館で。何年間か続けました。
──カンヅメ状態。
和嶋 誰もしてくれないから自分でカンヅメになりに。荻窪に西郊ロッヂっていう古い旅館があって。
大槻 ああ、なんか通りがかったことがある。
和嶋 すごくいいですよ。昭和で。自分の部屋にいると身の回りが欲望、煩悩だらけじゃないですか。締め切り迫ってればそれでもやるんですけど、なんか集中できないと思って。頑張ろうと思ってた頃にカンヅメを始めたんですけど、一回カンヅメになって、最終日あたり、あともうちょっとで大詰め、これを書いたら終わりだなみたいな時に、どっかの会社の新入社員なのか学生なのか、とにかく女子が二十人ぐらい泊まり込んできてて、二十代前半くらいの。
──あそこにですか?
和嶋 なぜかあそこに。会社の研修かな。キャッキャキャッキャ、若い女の子の嬌声が常にしてて、ものすごい集中できないってことがあって。
大槻 つらい。
和嶋 それを乗り越えて詞を書いた。集中すればあれも気にならなくなりますね。悪魔のささやきも乗り越えられる。
大槻 でも、僕は逆に歩いてる時とかに浮かぶので。
和嶋 あ、それもありますね。
大槻 ヘッドホンとかイヤホンして、ずっと聴きながらあっちこっちを練り歩くんですけど、閑静な住宅街とかを歩くこともあるから、絶対あれ、傍から見てると空き巣狙いだと思われてる。サムターン回しとかするやつだって(笑)。だから歌詞を書いた場所とかっていうのはよく覚えてますね。「流星」っていう曲は新井薬師で書いたなとか。「愛のプリズン」は上野公園で書いたんですよ。「スポンティニアス・コンバッション」は鎌倉で書いたの。歌詞を書きに、ちょっと小旅行じゃないけど、行く時ってありませんか。
和嶋 ああ、キャンプで歌詞書こうと思ったんだけど、あまり書けなかったことがあります。
大槻 時間がなかった?
和嶋 いや、お酒が(笑)。楽しくなっちゃって、レジャーになっちゃった。散歩は僕もあって。住宅街なり、公園なりを歩いて書いたなっていうのは覚えてたりする。
大槻 ちょっとした季節であるとか、そういうのとかを思い出したりね、詞は思い出させるなあ。
──その風景みたいなのが詞に影響を与えたということもありますか。
大槻 ありますよ。きっとあると思います。「人を泣かせる歌は」は中野ブロードウェイのジンガロっていう喫茶店で書いた記憶がある。
和嶋 いろんなところで書いてますね。僕はそこまでアクティブではなかったな。カンヅメ派です、やっぱり。煮詰まると気分転換で外出るんですけど、書く時はほぼインドアで書いてる。でも、体を動かすのは大事なのかもしれなくて、うちで書いてる時でも歩き回ってるんですよね。歩き回りません?
大槻 歩き回りますね。
和嶋 うん。立ったり座ったり、なんかこううろうろしてる。煮詰まると立ち上がって歩き回ったり。
大槻 それでも書けなくて、時間がなくてスタジオで書くっていうこともありますか。
和嶋 スタジオでは手直しくらいしかしないかなあ。
大槻 あ、でも手直す派?
和嶋 手直すことのほうが逆に増えてきました。
大槻 歌いながら直してくっていうね。
和嶋 そう。歌って変だなと思ったら直す。スタジオで直します?
大槻 完成形は大抵スタジオでレコーディングしながら。あ、ちょっと待って、ここはこのほうがいいなあとか言って、で、けっこう変わっちゃう時とかもあるし。
和嶋 ああ。でも、それは柔軟であるべきですよね。昔はね、あんまりやらなかったんですよ。一回決めたものはって。でも最近は増えて、たとえば僕が書いた歌詞を鈴木君が歌う時に、すごく歌いづらそうにする場合もあるんですよ。頭で考えて書いた言葉だから、発音が難しい場合もある。
大槻 わかります。息継ぎがなかったりとかね。
和嶋 そうそう。そういう時はスタジオで直すように最近はしてる。そっちのほうがいいものができますよね。直しながら書くと、なんかこう、詞が生き物みたいで言葉が生きてる感じがして。
大槻 あと、インスパイアされるとか、オマージュを捧げるとか。ネタ元っていうのかな? 今まで読んできた本とか映画とか。
和嶋 それはもうバリバリやってるんで。
大槻 本当に重要ですよね。
和嶋 うん、楽しい。ただ、オマージュをまんまやるとただの感想じゃないですか。じゃなくて、オマージュなんだけど、自分のイメージでもう一回違う形で出すっていうのかな、全然違う感じでやろうとは思ってます。
大槻 そういうところから影響を受けたんだなとか。人間椅子の、ワジーの詞を読んでると、たまにあ、これは、それこそ本当に「UFOと宇宙」とか、昔のUFO雑誌であるとか、そういうものを読み込んできた人だからこの歌詞が書けてるんだなっていうのがわかるんですよ。「無情のスキャット」の中にもUFOと出会ったことによってみたいなのが、あるじゃないですか。人の詞を読んでる時に、これはこの影響を受けて書いたんだなみたいなのがわかると、すごく嬉しい時があって。
和嶋 ありがとうございます。いわゆる小説でもUFOでも宇宙でも良いんですけど、メインの記事じゃなくて、ちっちゃい記事とかほんの数行の、みんなが読み飛ばしてるようなところが意外に面白かったりするじゃないですか。そういうところにヒントってあったりしますよね。ここを膨らませると面白いんじゃないかなみたいな。
大槻 ああ。
和嶋 小説でもメインのストーリーと関係のない、たとえば乱歩の小説で、汽車の旅行中に弁当食うとかでもいいんですよ。その弁当食うシーンが面白かったり。
──逆に印象に残りますよね、そういう小ネタのほうが。
和嶋 印象に残るじゃないですか。メインがいいのは当たり前なんですけど、そのスパイスみたいなのはこれはこれで文学っていうか、芸術っぽいなと思って。それをひとつのヒントとして広げるのもありかな。
大槻 うんうん。
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【対談者プロフィール】
和嶋慎治
1965年12月25日、青森県生まれ。大学時代に高校の同級生だった鈴木研一とハードロックバンド「人間椅子」を結成。1990年、デビュー。以来、紆余曲折を経ながらもバンド活動を続け、これまでに24枚のオリジナルアルバムを発表。ライブには多くの熱狂的ファンが詰め掛け、海外での評価も高い。エフェクターマニアとして名高いほか、文学、落語、バイク、キャンプなどへの造詣も深い。本書は初の自選詩集。本人曰く、詩作品に関して、山頭火、宮沢賢治、高橋新吉、夢野久作、そして江戸川乱歩らの影響を受ける。
大槻ケンヂ
1966年、東京都生まれ。ロックバンド「筋肉少女帯」のボーカルとして活動を開始。物語性とユーモア、狂気を併せ持つ独自の歌詞世界で特異な存在感を示してきた。
音楽活動と並行して、エッセイ、小説、詩など文筆活動も展開。著作は各方面で高く評価され、星雲賞を2年連続して受賞。歌と文章のあいだを自在に行き来する表現は、多くの読者に支持されている。



