『野宿入門』加藤ちあき

●今回の書評担当者●ブックス・ルーエ 花本武

 野宿!好きです!!わたし野宿が好きなんです!!!と荒野に叫ぶ代りにこの場を借りて、表明しておきたい。そんな恐らく日本で4番目くらいに野宿を愛する書店員であるわたしが待ちに待ち望んでいた一冊が此度、草思社から上梓された。それが「野宿入門 ちょっと自由になる生き方」である。

えー、著者のかとうさんはミニコミ「野宿野郎」の編集発行人なんですね。自身あの「酒とつまみ」を愛好、リスペクトしていることを隠さず、誌面に多大な影響が見てとれます。そこに独自のゆるさを加味しつつ、オリジナルな世界を展開しているわけです。そのようなわけもあって「野宿野郎」はミニコミ業界にあっては、存分に名前が轟いているようです。よって「本の雑誌」の読者で自宅の本棚に「酒とつまみ」が揃っていて、「生活考察」の登場にウキウキした、なんていう人には、自明も自明というか、たぶん「野宿野郎」も揃えてるんじゃないでしょうか。

 この本のターゲットは「ランドネ」読者ですね。ガーリッシュにアウトドアを楽しみたい女の子たちよ!「野宿入門」を読め!!言っとくが著者のかとうさんもかなりのガーリーなんだぞ!と前のめりに喧伝をする。事実を付け加えるならば当店一のガーリッシュなアルバイトスタッフは、購入のうえ、「わたし野宿したいんですぅ」と確かに言った。わたしは聞いた。そういうことだ。

 さあ、ここからはずいぶん個人的な話だ。去る2010年10月16日と10月29日、相次いで至福の野宿体験が自分にもたらされた。両日ともに野宿をする前にいた場所は書店。そうなのですよ、「野宿入門」刊行イベント後に野宿しちゃったんですよ!かとうさんたちと!!(今回びっくりマークばっかり)16日は異能の書店、中井の伊野尾書店にてシャッターを閉めたお店の軒先にて敢行。

 29日は西荻の旅の本専門店のまどでのトークイベント終了後、近所の公園にて敢行。そこはわたしの住まうアパートの目と鼻の先。たまらなく無意味なことをしているという背徳の悦びが込み上げてきて、大興奮でした。途中雨が降ってきたので寝惚け眼でトイレ野宿に移行。AM6時、雨合羽を着た近所の人がラジオ体操を始めた。雨天決行にも程がある人達だ。お互いに。

 脱線に次ぐ脱線でしたけど、「野宿入門」のテーマは前回とりあげた「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」とクロスする部分があります。都市でどうやって自分なりの自由を見出すか、どのような可能性が残されているのか。坂口さんとかとうさんは全く違うアプローチでどこか共通する結論に達している。現代の多様すぎる価値観にあっぷあっぷしてきちゃった人には、とりあえず寝袋の購入をオススメします。実際に野宿という行為に及ぶかどうかは自分次第。ただ身一つで今夜すぐにでも夜空の下で完全なオフを味わえるという決断の権利を得られるんだったら寝袋なぞ高級品だとしても安い買い物なんじゃないですか。

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ブックス・ルーエ 花本武
ブックス・ルーエ 花本武
東京の片隅、武蔵野市は吉祥寺にてどっこい営業中のブックス・ルーエ勤務。通勤手段は自転車。担当は文庫・新書と芸術書です。1977年生まれ。ふたご座。血液型はOです。ルーエはドイツ語で「憩い」という意味でして、かつては本屋ではなく、喫茶店を営んでました。その前は蕎麦屋でした。自分もかつては書店員ではなく、印刷工場で働いていて、その前はチラシを配ったり、何もしなかったりでした。天啓と いうのは存外さりげないもので、自宅の本棚を整理していて、これが仕事だったらいいなあ、という漠然とした想いからこの仕事に就きました。もうツブシがきかないですし、なにしろ売りたい本、応援したい作家に事欠かないわけでして、この業界とは一蓮托生です。