『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘玲

●今回の書評担当者●有隣堂川崎BE店 佐伯敦子

  • 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法
  • 『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』
    橘 玲
    幻冬舎
    827円(税込)
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 この世の中は、果たして残酷なのか? 私には、正直わからない。シビアといえば、シビアかな?とは思うが、それはそれで仕方のないことだと思う。ただ、そこまで心が強くなく競争社会のレースに嘘でも参加できない人にとっては、とてつもなく残酷な世界なのかもしれない。
 
 いや、自分だって明日はどうなるのか。仕事だって、"いつまでもあると思うな"と自戒しているつもりだ。だから、こそこそ語学の勉強を再開してみたり、売れもしない物語を書いてみたりしている。
 
 この本は、まずカツマーとカヤマーの戦いから、始まる。2006年に初めてメデイアに登場してから、カツマーこと勝間和代は、自己啓発の女王となり、「誰でも、やればできる。」と幸せになるための技術を教え始める。
 
 そこに反論してきたのが、カヤマーこと香山リカで、「努力で幸せになれますか?」と努力してもできない人達もいるのだと、弱者の弁護にまわった。
 
 私はどちらかというと、努力は人の3倍位するのは惜しまないが、結果がついてこないタイプなので、そうか、自己啓発本など何冊も購入して、何か頑張ろうとしていたのは、まやかしだったのかななどとつい思ったりしてしまった。
 
 みんながみんな、勝間和代になれるわけでは、ないのだものなあ。
 
 でも、この本は、やってもできないことにあくせくするよりも、自分の好きなことを見つけて、たとえそれが大ベストセラーを生まなくても、フリーで効率的な情報化社会は、きっと好きなことで個人の評判を少しだけでも上げてくれるであろうと思うので、それを収入に結びつけることを考えたほうがいいと述べている。
 
自分ができることとできないことを、見極めるのも、いい人生を歩むための一歩なのではないだろうか。
 
 日本人は、つまるところ会社に縛られすぎるのかもしれない。欧米なら、編集者なら、「私は、編集をしている。」と言うが、日本人はまず「どこそこに(会社の名前)に勤めている。」と答えるのだろう。終身雇用制度の妙なツケがここに回ってきているような気さえする。自分の"好き"を仕事にして自由に生きられたら、本当にいいなと思う。
 
 ストレスが溜まるばかりの仕事で、ただただ消耗していく人生よりも、贅沢はできなくても、(本当はメチャクチャしたい!)好きなことに時間を費やせる日々のほうが、よほど幸せなのではないか?と考えてみたりもする。
 
 そう、明日を生きる意欲が持てる仕事を。

 「伽藍をすててバザールに向かえ。恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!」

 残酷なこの世界で私達は、生き抜いていかなければいけないのだから。

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有隣堂川崎BE店 佐伯敦子
有隣堂川崎BE店 佐伯敦子
江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが大好きで、登下校中に歩き読みをしながら、電信 柱にガンガンぶつかっていた小学生は、大人になり、いつのまにか書店で仕事を見つけました。あれから二十年、売った本も、返品した本も数知れず。東野圭吾、小路幸也、朱川湊人、宮下奈都、大崎梢作品を愛し、有隣BE姉、客注係として日夜奮闘しています。まだまだ、知らないことばかり、読みたい本もたくさんあって、お客様から、版元様から、教えていただくことがいっぱいです。