『身体のいいなり』内澤旬子

●今回の書評担当者●ブックス・ルーエ 花本武

 突然やってくるのが、出会いと別れと大病だったりします。あとYMO再結成なんかも突然発表されますよ。今年フジロック出るんですってね。

 前回書きましたが、怪我で入院手術はありましたけど、自分は幸いにして大病を患った経験はございません。昨今シーズンインした花粉症はもはや大病の域に達しているように感じられることもありますが、流石に花粉症で死に至ったという話は、寡聞にして耳にいたしません。

 自分語りが多くて恐縮ですが、私くらいの年齢からいよいよ本格的に働き盛りと称されるのが割と一般的な模様です。盛り盛り働いているのかと言えば、大いに疑問なんですけど、目の前に仕事が積まれていることは間違いありません。そういう折にふってわいたような災難、急な発病に見舞われるケースは、起こりえることです。健康優良児がそのまま年とったみたいな自分には、まるで心構えが出来ていないというものです。

 そこで今回はこちら。内澤旬子さんの「身体のいいなり」でございます。この本はいいですよ。いつかの時のための大変頼れる実用書としてのスペックが非常に高い。友人のコピーライターに「すぐに役立つ本だけが、実用書じゃない」という言葉を貰いましたが、この本にズバリ、ピタッと当てはまるようにおもえます。

 内澤さんは、幼少期から様々な小さい持病を持ってらっしゃったようで、「身体のいいなり」によって辛酸をなめてきたようです。そして三十代後半になって乳がんを宣告されます。ときけば、いかにも闘病記か、苦手だな、とおもわれる方もいるでしょう。違うんです、うっかり「宣告」なんて言葉を使っちゃいましたが、本の中ではそういった大袈裟でいかにもな表現はほとんど使われておりません。実際、この後を読んでいただければ自明で、深い絶望を感じるわけでもなく、解放感に包まれて「もうがんばらなくていいのだ」と思う次第なのだ。

 同情なんていらない、とすら言わないスタンスで内澤さんは、優先順位を整理して仕事を段取って、様々な治療を受け、むしろ活き活きと人生に向き合うようになっていく。内澤旬子は美しくもがく女なのである。
そうやってもがいた末にヨガに出会った内澤さんは、「身体のいいなり」になることで、発病前よりも元気になってしまうという、驚異の記録がこの本には、パッケージングされている。

 厚生省はいますぐこの本を全国の病院に配ってみては、いかがでしょうか?

 追記。内澤さん本人がサイン本を書きに来店してくださいました。超元気なオネーサンでした。100冊売れとハッパをかけられたので、厚生省にはブックス・ルーエで本書を買い取っていただきたい。

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ブックス・ルーエ 花本武
ブックス・ルーエ 花本武
東京の片隅、武蔵野市は吉祥寺にてどっこい営業中のブックス・ルーエ勤務。通勤手段は自転車。担当は文庫・新書と芸術書です。1977年生まれ。ふたご座。血液型はOです。ルーエはドイツ語で「憩い」という意味でして、かつては本屋ではなく、喫茶店を営んでました。その前は蕎麦屋でした。自分もかつては書店員ではなく、印刷工場で働いていて、その前はチラシを配ったり、何もしなかったりでした。天啓と いうのは存外さりげないもので、自宅の本棚を整理していて、これが仕事だったらいいなあ、という漠然とした想いからこの仕事に就きました。もうツブシがきかないですし、なにしろ売りたい本、応援したい作家に事欠かないわけでして、この業界とは一蓮托生です。